第3話 冒険者が来たー!

 ※ ※ ※ ※ ※

 

 午後? 2時頃だと思うんだが。お昼を食べてから考えた。頭の中は、森の事や妖精の事で一杯である。そろそろ、午後の視回りの時間になる。ためらうけど、行くしかないかー。人は日常の縛りから中々抜けられないものかも知れない。それとも、正常バイアスが働いたんだろうか?


 西の入り口に行ってみると、まだ巨木の森がある。で、やっぱり森だなーとしばらく見ていたら、草原の向こうにある森の中から、誰かがこっちを見ているのに気が付いた。5人いる。当然、双眼鏡で見なおしてみた。


 人の様に見えるが、向こうもあきらかに戸惑っているのが分かる。手を振って、こちらに来るように促してみた。少し仲間内で話していたようだが、相談を止めてこちらにゆっくりとやって来るようだ。草原を渡り終えて近づいて来たのは5人の女性? の冒険者だった。妖精が居なくなったと思ったら今度は冒険者とは……。


 何故、冒険者かと分かるかと言われても……ねぇ。だって髪の色や顔つきを見れば外人さんだし? それにアニメやウェブ小説で読んだのと同じ格好をしているしなー。あれ、革の鎧だよな。先頭の女の人は剣を抜いて構えているのが見えるし、杖を持っている人は魔法使いなのかなー。


 5人は西の入口付近まで近づいて来たが、立ち止まってしまった。仕方ないので話し掛ける。俺っちは外国人に親切な対応をするといわれる日本人で、心は紳士なのである。


「こんにちは、あおい町キャンプ場にようこそ。お疲れでしょう?」

(……、……………。………?)


「「「「「???」」」」」


 一応、挨拶は基本である。敵意が無い事を知らせないとね。あおい町キャンプ場にようこそ。歓迎してますよ。お疲れでしょうと労ってみた。予想はしていたが、やはり通じないみたいだ。


 よく見ると、引っ搔き傷や服が所々破かれている。彼女達5人のうち2人がケガをしているようだ。頭に撒いた布に少し血が滲んでいるのが1人。今一人は、左腕を押さえながら顔をしかめている。でも大丈夫。俺っちは得意のジェスチャーをする事にした。


 水を飲みたそうなのでペットボトルの水をさし出す。巡回中に喉が渇くと、これで水分を補給していたんだ。これの中身は普通に町営水道の水だ。ウン、どんどん飲んでくれ。管理人と言えども、自販機やストックを使えば金が要るので倹約しているのだ。それに、こっちの水の方が、何故か美味しい気がするしね。


 安心してくれ、今日はまだ飲んでいない。それに俺っちはで某国営放送で口を付けて飲むと凄い勢いで細菌が増えるのを知ってからは、ペットボトルに口を付けて飲んではいないのだ。と言っても伝わらないか。5人は仲良く分け合ってあっという間に飲み干した。


 以下は彼女達の話を聞いたものである。喋れないけど聞く事はできるからな。


「見たところ一人のようだ」

「こいつ。何、言っているんだ」

「さっぱり分から無いです」

「人間の男ですよね? 見慣れぬ服装ですが」

「悪しき魔力を感じないので、魔人ではないと思います」

「ウム、そのようだな」

「しかし、青き深淵の森に居るのだから只者では無いだろう」

「確かに」

「訳ありなんだろうか?」

「だとしたら、相当な訳ありだぞ」

「ア! 分かった。きっと悪い魔法使いなのよ」

「アリーヌ。そんな事は、まだ分からないでしょ」


「不思議だな。ここでは魔素を感じ無い」

「無い訳では無いでしょうけど、……そうですね。エェ、かなり薄いようです」

「魔獣は居ない様だな」

「安全な場所なのかな?」

「怪しいです。やはり悪者では無いでしょうか?」

「それは無いと思いたいんだが」

「こんな、深淵の森の奥深くに人が居るなんて絶対におかしいですって!」

「かも知れん。だが、悪意が有ったとしてもだな、こんなひょろついた人間が1人では、うちら5人を相手にするのは無理というもんだ」

「それもそうですね」

「魔獣がいないなら一息つけそうだ。休ませてもらおう」

「そうだな。けが人もいるし、ロザーリア。あとで魔法を頼む」


「ホント、命拾いしましたね」

「3日3晩、全力で逃げましたから」

「しつこい、オーク達でした」

「数もいたしな」

「もう、1回逃げろと言われても無理です」

「でも、隠れた場所が転移門だったとはな」

「アァ、話には聞いていたが、まさか自ら飛び込む事になるとは」

「しかし、偶然とはいえ幸運でしたね」

「これって幸運なのか?」

「おそらくここは、青き深淵の森の奥深くだろう。帰れるのか?」

「マァ、生きてますし」

「しかし、この男が話せれば良いのだけれど」

「なんか、さっきからくねくねと体を動かしていますね。何がしたいんでしょうね?」

「さぁ? かゆい処が有るとか」

「ひょっとしたら歓迎の踊りかも知れません」

「フーン」


 何が、ひょろついただ。話は全部聞こえたが、俺っちは紳士なのだと自分に言い聞かせた。俺っちの芸術的なジェスチャーで分からない訳は無いだろう。不思議そうな顔をしているが、おぬしら理解力が足りんぞ。とは言っても会話は無理なのかなぁ。


 魔法とか何とか聞こえたが……そうそう、ケガ人がいるんだった。管理事務所には、救急箱が有ったはず。管理棟を指さして、歩くジェスチャーをした。西の入り口から10分ほどで着く。少しなら、歩かせても良いだろう。


 アネットとの会話? で、ジェスチャーのレベルは上がっているので何とかなるだろう。事務所前の広場に、連れて来るまでに色々言われたもんだが、若い女の人の声は久しぶりなので、音として楽しむ事にした。気の持ちようである。


「機嫌が良さそうだぞ。ニヤニヤしている」

「優しそうな人で、良かったですね」

「まだ分からん。注意を怠るなよ」

「お腹すいたー」

「確かにへったな。逃げる時に無くしたからな」

「さっき、不思議な入れ物でお水を貰いましたよねー」

「食べ物、あるんでしょうか?」

「何を食い意地が張った事を言っているんだ。食べ物より、水だ」

「そうです、貰った水を分け合いましたが、ぜんぜん足りません」

「言葉が分かれば、水を頼むのだが」


 ハイハイ、水がご所望と。ケガより喉の渇きの方が優先度が高いのかな? では、事務所に行く前に一番近い水場にご案内しましょうかね。このキャンプ場内には、8カ所に給水場所が設置してあります。ウーン確か、西の水場は開栓してあったと思うけど。……こっちだと言っても伝わらないか。


「こんな事あって良いのか? この金具を、ひねると水が出てくるぞ!」

「これ、水道って言うんですよ。私、見た事あります。王都の噴水と一緒で、遠くの水源から運ばれて来るそうです」

「オォ! やっぱりこの水は飲めるんだ」

「待って! 私が、一口飲むから。毒が無いか、暫く様子を見てからよ」

「シモナの言う通りだ。いくら不条理な魔境と言われる青き深淵の森でも、飲み水を、こんなにダーダーと流して良いはずがない」

「ロザーリア。すぐ口に入れるんじゃない」

「お前は飲むなと、言った端から」

「ほら、彼が手ですくって飲んでいるぞ」

「アリーヌが今すぐに解毒の呪文を用意するから」

「でも、大丈夫みたい。美味しい水だよ」


 よほど喉が渇いていたんだな。あとは、傷の手当か……な。一息ついたら、広場の休憩コーナーに向かう事にしよう。彼女達は管理棟に向かう途中も、きょろきょろと廻りを見ていた。周囲を警戒しながら後を着いて来た。フム、リーダー役を挟んで前衛が2人で後衛が2人か? 周辺警戒を怠らない。


 妖精とはえらい違いであるが、おそらくこれが普通であるはず。意外と熟練の冒険者なのかも知れないな。彼女達からすれば、見慣れない建物かもしてないので警戒するのは無理も無い。しかし、すぐには危険が無い事が分かったのだろうか。仲間内で話を再開している。


「あの門の前は、危なかったからね」

「ウン。とても、持って逃げれないかったし」

「冒険者ギルドもいい加減な情報を出すから……。せっかく、見つけたのになー」

「お腹すいたー。今なら、あの食堂の定食でも良い」

「ハイハイ」


「あそこに行くようだな」

「テーブルとイスが有る。屋根だけで壁が無い。雨除けの広場なのか?」

「近づいて分かりましたが、大きいでっすねー」

「取り敢えず、休憩を取るが気を抜かない様に」

「シモナ、大丈夫だって。この男、良い奴みたいだし」

「男を見た感じで判断するな」

「チョッとあんた、本音出ているよ」

「そうですよ」

「しっかりと手当てしないと。玉の肌なんですからね」


「この建物。土か岩で作ってあるのか?」

「分からん」

「石造りの建物?」

「あれ、ガラスですよね?」

「窓だと思いますが、王都にもあの大きさのガラスは無いと思います」

「透明だぞ」

「第一神殿の大聖堂のガラスは色が付いてますが、小さいパーツですからね」


「ロザーリア、ここなら大丈夫だろう」

「そうですね。魔力も溜まりました。魔獣の心配もなさそうです。では、神官魔法を使います」

「頼む」

「座ろうか」

「このイス。木ではありませんね」

「軽いし、不思議ですね」


 プラスチックの椅子に座ったロザーリアと言う人は神官魔法を使ってケガを治すようだ。ケガ人の頭の傷に手を当てた処がぼんやりと光って終わりらしい。腕のケガの方も同様だ。魔獣とやらに追いかけられていたらしく魔力切れを防ぐ為に神官魔法が使えなかったようだ。救急箱はいらないんじゃないかな。


 これ、日本側では奇跡だよねぇ。異世界が大奇跡だったら、妖精が存在しているの中奇跡。じゃ、神官魔法ぐらいだと小奇跡になるのかな。でも、ゾンビやアンデッドに対抗できるなら中奇跡かー? マァ、この世は奇跡に溢れているらしいから、これから、もっと凄い奇跡が起こるかも知れない。


 決して妙齢の御婦人方だからという訳では無い。せっかくお招きしたんだからお茶ぐらいは出そう。


「何か出てきましたね」

「水は先ほど十分採りましたが」

「これ甘い香りがします」

「ペコペコする。器ですか?」

「おそらく、紙ですね」

「紙で出来ているコップなんだ」


「何か? 食べ物の様なモノが出てきましたが」

「堅パンでしょうか? ずいぶんと甘い香りがします」

「確かに甘い薫りです。おそらく、菓子でしょう」

「ア!ローザリア」

「お願いだから。得体の知れない物をすぐ口に入れるんじゃない」

「だって、お腹すいたー」

「確かに」

「いいじゃないですか。毒見係だと思えば」

「イレナって時々凄い事を言うな。ホント感心するわ」


 だーかーらー、話している事は、俺っちにはみんな分かるって。冒険者さん達には、話が通じないだけで。お腹を、空かせているのは聞こえてるんだ。しかし、毒見係だなんて言う人がホントに居たんだ。冒険者と言うのも大変なんだろうなー。

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