脱出
――もう、俺とジーナと王子の三人でここを出るのはもう無理だ――
俺もジーナも息が上がっている。ジーナは利き手の損傷。それも得物を握れなくなるほどの重症だ。きっと神経が傷ついてしまったのだろう。……一方俺は敵の攻撃で折れた骨を衝撃波で更に悪化させてしまった。……出来ることをするため、残された魔力を有効に使わなければ。
「ウィレム……ッ! 諦めちゃダメ……」
ヒュッ!
「アッ…… がぁ……!」
一瞬でジーナの方に詰め寄った怪物の繰り出した一撃が喉笛に決まった。顔を苦痛に歪ませ、のたうち回り咳き込みと共に血をボタボタと吐き出したジーナの喉が赤黒く変色してしまっている。
「ジーナ……!」
駆け寄ってジーナの周りに集まった黒い敵を死力を振り絞って追い払うが、やはりキリがない。いくら戦って倒しても、その分の数がどこからか補充されるらしい。
さぁ……どうする? もしこいつらの目的が俺達を殺すことならとっくにブッ殺されているはずだ。おそらく賊の目的は王子を殺さずに捕まえる事。だが王子がもし捕まれば、この国は終わりだ。
ヒュウッ……
風だ。風が通った方に目を凝らしてみると、祝砲に使う砲台が置かれた吹き抜けが一つ。バカげたアイデアだが……ここで捕らえられるよりはずっと生存の可能性が高い。
「ウィ……レ……ム……おまえが……何……考えてる……かわかる……」
「ジーナ……もう喋らなくていい。喉が潰れてる。無理に喋ったらもっと辛くなるぞ」
パクパクと虚しくから回る口をそっと抑え、俺はジーナに作戦を伝えた。『無茶なのは分かっている。だが、大砲に乗り込んで飛び出す以外にここから逃れる術は無い』と。敵は確実にこちらの退路を断つ動きをしている。正攻法で逃げるのは不可能だ。
こちらの手を跳ね除け、ジーナは身を起こして必死に声を絞り出す。
「わたしハ……おまえを置いて……逃げたく……なイ……」
「いいや、それしか方法はねェよ。……捕まった女がどんな目にあうか分かるはずだ。……俺は……そんな目にお前にはあってほしくねェ」
「で……でモ……! おまえがいないト……!」
……やはり説得するのは無理だ。だが俺みたいな奴をここまで気にかけてくれるならなおさら、身代わりになるしか無い。
「……そうだなァ。 やっぱり一緒に逃げる方法を探すぞ! 残った魔力を有効に使う方法を思いついたァ!」
その言葉で涙を浮かべていたジーナの顔は一気に明るくなる。残った魔力の有効な使い方。……それは……
「【衝撃波】」
「へっ?」
ドンッ!
「からの……! 【雷壁】!」
王子とジーナを大砲の方へ吹き飛ばすことだ。そして……【雷壁】でこちらに戻ってこれないようにすること……それが今の精一杯だ。
「ウィレム! ふざけるナ! 何を考えてル!」
「悪いなァ……これが『有効な魔力の使い方』さ。安心しろ。俺も必ずお前と合流するからよ」
精一杯笑顔を作ってそう言ってやると、ジーナは美しい顔を歪め、こぼれ落ちる大粒の涙を拭い去ると一転覚悟を決めた顔になって、大砲の方に目線を向けて何かをこちらに向けて叫び、しばらくして派手な爆発音が辺りに鳴り響いた。
「よォし……これで二人を逃せた……イギッ……」
【雷壁】なんて高等魔法を使ったせいで魔力が完全に底をついてしまった。心臓に焼けた針で貫かれたような痛みが走る。乱れた呼吸が整わない……!
ゴシャッ
突然、後頭部に鈍い衝撃と激痛が走った。脳が激しく揺さぶられて視界が一気に暗くなって……そのまま俺は気を失った。
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