堕落と清平

祝福を受けるために次は21修という修練会に参加するのだ、と意気込み、学校には家計が苦しいからと伝えてコンビニでアルバイトを始めることにしました。

お金を貯めて修練会に参加する、その目標のために私は暇さえあればバイトの予定を入れてもらい、必死で働きました。

しかし私は、そこで出会った店長のことを好きになってしまったのです。

私よりも大人で、私の何も知らないことを全て知っている、仕事も早くてできる人、憧れが強くなってあっという間に心を奪われてしまったのです。

私のそんな様子にきっと店長も気付いていたのでしょう、私をバックヤードに連れ込み、キスをしました。何の言葉の始まりもないまま、うやむやに交際がスタートした…と思っていたのは私だけでした。

付き合いだしてからというもの、私のメンタルはブレブレでした。本当は好かれてないんじゃないかと不安になったり、すぐに別れる、と言われる言葉に怯えたり、常に不安が付き纏う日常を送っていました。

この時の私の地獄はそれだけではありません。原理です。エバは神様が選んだ相手以外と関係を持ったから地獄に堕ちた。私も同じ。私もきっと地獄に堕ちるんだ、その不安もありました。

でも、不安だったくせに地獄に堕ちてもいいと思えるくらい相手のことが好きだったのです。

それだけ好きになって、その後に相手が実は年齢を偽っており私よりも12歳年上であったこと、彼女が他に居て同棲していたこと、バツイチで奥さんとの子どもが3人居ることが判明しました。

私は神様を裏切ってこの人と関係を持ったのだから、今更神様のもとになんて戻れない。だから意地でもこの人と居る、という気持ちになっていきました。

不安が膨らんで膨らんで止まらなくなり、私は母に手紙を書きました。実は今、お付き合いをしている人が居ると。それを読んだ母の表情は悲しさで溢れて泣きながら私を抱きしめました。

父と母はすぐに私にバイトを辞めさせ、母は相手の男性の職場に教会員の人を連れて押しかけたようです。そして私と今すぐ別れて2度と会わないという念書まで書かせようとしたのです。

この時の母の行動を私は当時は驚くままでしたが、今思えば理解できないこともないな、と思いました。

何も知らない18歳の女の子を30歳を超えた大人が誘惑して性行為に及んだのですからそれはもうそれだけで事件沙汰になるものです。

ただ、職場に突然乗り込むという行動はいけなかったと思います。

あの後、私は店長と個人的に連絡をとることすら制限されました。本当に結婚しようと思っているのなら私が卒業するまで2年待ってその間は会うなと。

ただし、家の電話を使っての連絡なら取ってもいい、と父と母に言われたので私は携帯を使わずに両親に認めてもらうために忠実に守りました。

しかし家の電話を使って電話をしていると、母から怒号が飛ぶのです。

「何話しよんぞ!?」

「いつまでもそんな男と喋るな!!」

母のあまりの怒号に私は店長に電話をかけることすら出来なくなり、父に報告しました。父は約束を守って電話をしているめぐみにそんなことを言うな、と母に話してくれましたが、母の怒りはヒートアップするばかりでした。

「別に電話の邪魔なんてしてない!」

「電話中に怒ってくるってめぐみが言いよるやろ。電話はしていいって俺らが話して決めたやろ。」

「でもめぐみはね、悪魔の子なんだよ!!神様を裏切ってあんな変な男と!!悪魔!!この悪魔!!」

母は私をベッドに押し倒して顔やお腹を何度も泣きながら殴りました。痛かったけれどそれよりも私は母の言葉に衝撃を受けました。

今まで私は斎藤さんや愛さんに支えられてフォーラムで頑張ってきた。たくさん原理の勉強もしたつもりだった。今回こんなことになって母を酷く悲しませてしまったけど、母は私のことをずっと悪魔だと思っていたのだ、と。

私が神様が選んだ男性を好きにならなかったのがいけなかったの?

それとも私が信仰2世だから、サタンの血統の子どもだから無条件で悪魔なの?

確かにお母さんを悲しませてしまったけど、私は悪魔なの…?

母に悪魔の子と呼ばれたのをきっかけに、私はとことん地獄に堕ちてやる、と思うようになりました。店長とも絶対に別れないし結婚してやる、そしてもっと母を悲しませてやる、と。


私のこの交際事件を母はすぐに教会の人に報告したのでしょう。私はすぐに韓国の清平というところに行かされることになりました。

韓国にある清平とは、統一教会の聖地である。ここに行けば悪霊は途端に平伏して善霊になるのだとか。

今の私は悪魔で、サタンが憑いている、だからすぐにでも行けとのことでした。そして更に堕落しているので条件を積まなければならないと言われました。その条件とは、水行でした。

季節は冬。洗面器1杯の水を40回、ひたすらに自分にかけて自分の中のサタンを追い出すというものでした。あまりにも過酷な条件に泣きながらもう無理だと訴えましたが洗面器をお茶碗に変えてもいいからやれと言われました。

水行の後にお風呂に入って身体を温めることすら禁止され、まるで地獄のようでした。

その条件をやりきり、そして母は付き添いを行わず、同じ教会の食口(シック)に私の付き添いを頼むことにしました。

食口というのは教会の信者のことです。同じ食べ物を口にする仲、つまり兄弟姉妹を意味していると教わりました。

きっとその人たちも私が急遽、清平に行かねばならなくなった理由を知っているはず。煙たがられてしまうだろうという思いとは裏腹にとても良くしてくれました。

清平で何をしたかは覚えていませんが、いつか店長とのことを認めてもらって2人でここに来られたらいいな、と思っていた記憶があります。

この清平行きで私が店長と別れることはなかったのですが、ほんの些細な店長の一言で急激に気持ちが冷え切った私はあっさりと店長に別れを告げました。

母は私が店長とどうしているかを毎日のようにエリに問いただしていたらしく、エリはこのことをきっかけに彼氏ができても母には言わないでおこうと思ったようでした。

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