第45話 別行動!?
「いやー。楽しかったねー。みはちゃんのメイド服も似合ってたし」
「とても楽しかったです」
「みんな楽しんでくれたみたいでよかったよ! それで……太一くんはどうしてそんなにグッタリしてるの?」
楽しそうにキャッキャする彼女たちと違って俺は、この世の終わりみたいな顔をしてるに違いない。
「……いろいろあったんだよ。詳しくは聞かないでくれ」
「そう言われるとなんだか気になるんだけど」
「実はね……太一ったら」
「やめろって!」
ルウェナさんが小宮さんにこれまでのことを告げ口するのを阻止しようとしたところで──
「さあ皆さん! お待ちかねのクリスマスツリー点灯がまもなく行われます。ご覧になる方方は広場に集まってくださーい」
もうそんな時間か! 広場に設置された特設エリアには圧倒的な迫力を誇るクリスマスツリーが無数の装飾を施されて佇んでいる。駅前とかのイルミネーションも凄いけどやっぱりあれだけ迫力があると比べ物にならないな。仕上げてくれた生徒会の方々には頭があがらない。あんなにある装飾を一個一個手作業で取り付けたらしい。ありがたや、ありがたや。
ツリー点灯式は文化祭と同じく一般開放されているため、近隣に住む多くの方々が来る。当然人が増えれば絶好の稼ぎ時だと判断して屋台にいる人たちは活気を取り戻す。
「いらっしゃいませー!」
「あつあつのおでんいかがですかー?」
「たこ焼き美味しいよー!」
「お好み焼きちょうど出来立てでーす!」
あっちこっちから客引きの声が鳴り止まない。言わずもがなどの店も大盛況みたいだ。
(少し冷えてきたな)
「なあ、なにか食べねえ?」
せっかくならツリーの点灯式も最後まで見たい。そのために今のうちにおでんでも食べて体を温めておきたい。
振り返って同意を求めようと思ったけどさっきまで俺の近くにいた女子たちの姿がない。美少女の1人を除いて。
「あれ? ノアさん、他のみんなは?」
「あそこの屋台に並んでくるーって行っちゃいました」
「屋台?」
確かにノアさんが指した方向には小宮さんとルウェナさんが仲睦まじい様子で行列に並んでいる。
「そっか。2人で行ったのか……」
俺もそうしたいけどノアさんだけを1人っきりにしてそそくさと並びに行くのはなんか違うよな。男としてそれはできないっていうか、情けないっていうか。男子としてのプライドが捨てれねえよ。
(どうすっかな)
てっきり小宮さんがいるつもりで話しかけたからなんか気まずい。俺とノアさんを2人っきりにしやがって。いつもならうるさいくらいの小宮さんとルウェナさんがいなくなると話しかけづらいんだよな。2人がいればそれなりに会話も弾むんだけど。俺たちも並びに行くか? いやいや途中から来たやつが急に行列を無視して集合なんてしたら周りの人からしたら害悪だろ。
そうなると、必然的に俺は彼女たちが帰って来るまでノアさんと2人っきりで過ごすことになるんだが。うう、沈黙の時間が辛い。とにかく会話した方がいいな。チラリとノアさんの方を見ると彼女も俺と同じ考えなのか何やら時折もじもじしている。
覚悟を決めて話しかけよう。その方がいいし、ノアさんにとっても話しかけるよりも楽なはずだ。
「「あの(さ)」」
話しかけた瞬間、俺の声がノアさんと被った。タイミングが良いのか悪いのか。
「ごめん。ノアさんからどうぞ」
「いえ、夜闇くんからどうぞ」
「いや、ノアさんから言ってよ」
「いえいえ、夜闇くんから言ってください」
「いやいや俺のことは気にしないで」
「いえいえいえ、私のことも気にしないで」
「いやいやいや。って、長えよ!」
何回同じ攻防を繰り返すんだよ。会話を遮ったから相手に発言権を譲る日本人あるあるを数回繰り返して、あまりの馬鹿馬鹿しさに笑いが込み上げてきた。せっかく譲ってくれたんだから俺から言おう。レディーファーストなんて知らねえよ。
「どうだった? 日本で初めての文化祭は」
「えっと……」
深刻な顔で考え込んでしまった。原稿用紙に書けるほど深い感想を求めてないんだけどな。
「いや、簡単な感想でいいよ? 楽しかったとか予想してたのとは違ったとかさ」
何もそんな真剣な顔して考えるまでもないでしょ。推薦入試の課題じゃないんだからさ。一言くらいで済むようなやつでいいんだけど。真面目な彼女にはそれができないのか難しいのか。ルイスの影響もあるみたいだな。
「ごめんなさい。えっと……そうですね。とても……楽しかったです」
「そっか。ならよかったよ。せっかく日本に来てくれたのにつまらない高校生活を送らせる訳にはいかないからさ。なんか人だかりができてるけど、あそこに行ってみる?」
「はい。行きましょう」
小宮さんたちも俺たちを置いて行ったんだ。これから別行動したって文句を言われる筋合いはないだろ。
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