第44話 羞恥プレイ!?

「おかえりなさいませ、ご主人様!」

「おお……」


 俺の生涯で言われたことねえよこんなセリフ。いわゆるザ! メイド喫茶! って感じだけどなんかいいな。金持ちの1人息子になったみたいですごく新鮮だ。新しい何かに目覚めるかもな。


「君たち、うちのクラスに来てくれてありがとね。サービスはできないけどゆっくりしてって」

「先輩が着てる衣装可愛いですねー。手作りですか?」

「ふふ。着てみたい? よかったら予備のやつが余ってるから試着できるよ?」

「ほんとですか! ぜひお願いします!」


 メイドのプライドはどこにいったんだろう。普通にご主人様と会話してるし。主従関係ってものはねえのかよ。いや、これがこの店コンセプトかもしれないな。


 ご主人様とは呼ぶものの、実際には距離が近い……みたいな? 多分そこまで考えてはないと思うけど。単純にめんどくさいから適当にやってんだろうな。この時期の3年生は勉強で文化祭どころじゃないだろうからな。


「それじゃあ別室で衣装合わせしてあげるから、一緒に行きましょ」

「みんなごめん。ちょっと行ってくるね!」

「ゆっくりでいいからね〜」


 フリフリと手を振って別室に向かった小宮さんを見送るルウェナさん。見送る彼女の顔が嬉しそうに見えたのは気のせいじゃないな。計算通りみたいな顔してる。


「太一くん安心して。すぐ帰って来るから」

「お、おお。まあ、ごゆっくり」


 キリッと真剣な眼差しを俺たちに向けてから

 ルンルン気分で先輩のうしろをカルガモの雛のようについていく小宮さん。まじで愛玩動物ビックリの可愛さだよな。彼女の様子を見ているだけで頬が緩む。


「ただ待ってるのもあれだし俺たちは何か頼む?」

「さんせーい!」


 入る前にチラッとメニューを見た感じいろんな料理があったよな。若干ではあるけど腹も減ってきたから何かを食べるのはいい頃合いだ。……なんでルウェナさんは俺の腕を離さないわけ?


「席に座ったんだからいい加減離れてくれない?」

「だーめ。あたしたちカップルなんだから」

「あくまで仮なんだからそこまでやらなくても」

「そんなこと言わないでせっかく付き合ってるんだからいいじゃん」

「勘弁してくれ」 


 俺には重すぎる愛だ。周りの先輩たちが俺たちをみてニヤニヤしてるのが嫌なんだよな。ちなみにカップルで料金が全て100円になるらしい。リア充至上主義あっぱれ。来店した全員がカップルだったら間違いなく大赤字だ。


(ちょっと、ノアさんからも何か言ってくれよ)


「すご……い……」


 俺は目線で助け舟を求めるが彼女はテーブルに置かれているメニューに興味津々のご様子だ。初めておもちゃを買ってもらった子供みたいに目をキラキラさせながら見てる。聞いたこともないようなメニューなんてないはずなんだけどな。はるか昔から現代にタイムスリップしてきたお姫様じゃないよな。


「俺はこれにしようかな」

「どれ?」

「「ご主人様に最大の愛を与えます」ってやつ」


 一体なんの食べ物なのか見当もつかない。それどころか食べ物じゃない可能性もあるけど運試しに頼むでみる。


「えー。それあたしも注文しようか迷ってたやつなんだよなー。どうしよっかなー。こっちの方が美味しいのかなー」


 むむむと可愛らしい声を漏らしながら悩むルウェナさんとノアさん。2人の気持ちがわからないわけじゃない。だってメニューのほとんどがマジで意味不明なんだよな。もっとシンプルな料理名なら悩むことなんてないのに。俺がイメージしてるメイド喫茶のメニューはやっぱりオムライスとか? あとはナポリタンだな。ケチャップを使って好きな文字とかメッセージを書いてくれるサービスもあるよな。


「えっとー。よし! あたしも決めた! あとはノアちゃんだね。決まった?」

「はい。大丈夫です」

「すみませーん! 注文いいですかー?」


 こんな時にルウェナさんがいて助かる。店員を呼ぶ時ってなんだか緊張するんだけど彼女にとっては朝飯前って感じだ。まあ、ハキハキして思ったことを言うような子だからってのもあるだろうけど。


「お待たせしました。ご注文をお伺いします!」

「太一から頼んでいいよー」


 じゃあ、お言葉に甘えて。


「えっと、これを1つお願いします」

「ご主人様? 注文はちゃんと言ってくれないと作ってあげないかもなー」

「え……」


 なんだこの店のメイドは。やっぱり立場が真逆じゃねえか! 羞恥プレイがしたくて入った訳じゃねえのになんだよこの仕打ちは。


「ほらほら太一。ちゃんと言わないと食べれないよー」

「ご主人様……に……最大の愛を……与えます……をひとつ……お願いします」

「あたしはこの「ラブラブドリンク」を1つ」

「わたしも同じものを」

「かしこまりました〜! すぐご用意するので少々お待ちくださ〜い!」


 俺たちが手にしていたメニュー表を回収して別の客を席に案内し始めた。結構集客率がいいみたいだな。


「2人はなんで普通に言えんの。恥ずかしくないの?」

「そんなに照れることですか?」

「あたしも別に恥ずかしくないかな。メイド喫茶は行ったことあるし」

「楽しいもんなの?」

「うーん。普通じゃ経験できないことをしてくれるから楽しいよ。今度一緒に行く?」

「いや、遠慮しとく」

「えー。じゃあ、ノアちゃんはどう?」

「いいですね」

「やったー。太一は連れてってあげないからねー」


 なんだか仲間はずれされたみたいで悲しい。いや、別に俺を置いて行ってもいいけどさ。何も本人の目の前で言わなくてもよくね?


「お待たせしました〜!」

「はやっ!?」


 もうできたのかよ! 注文してから5分も経ってねえよ!


「こちらは一緒にラブラブと言っていただいて完成しますので一緒にお願いします」

「……それって、俺もですか?」

「はい! ご主人様もわたしと一緒にお願いします!」


 いや、満面の笑みで言われても。店の名前を羞恥プレイ喫茶にしといた方がいいぞ!? 俺みたいな犠牲者をこれ以上出さないためにも。

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