第43話 メイド喫茶に入る!?

「次はあれ買おうよ!」

「ま、まだ食うの?」


 ほんとに色んな出店があるもんだな。焼きそば、たこ焼き、チョコバナナ、お好み焼き、ベビーカステラなどなど、種類を挙げたらキリがない。ちなみに俺たちはこれで3店舗目だ。あんなにも空腹だったはずなのに限界が近い。なのに小宮さんはおろか女子たちはまだまだ食い足りないらしい。フードファイターびっくりの胃だな。容量どうなってんだよ。


「だってお腹空いちゃたから。ノアちゃんたちも食べるよねー?」


(なんでノアさんは俺を見るんだ?)


「う、うん……」


 一瞬、俺の方を見てからコクリと頷いた。なんで俺のことを見たのかわかんねえな。ひょっとしてあれか? たくさん食べるのを気にしてる的なやつか? 俺はそんなの全然気にしないから好きなだけ食べてほしい。むしろ細いくらいなんだよな。せっかくの成長期なんだから小宮さんを見習ってガツガツ食べてくれ。元気よく食べる子っていいよな。見てるだけで元気を貰えるから俺にとってもメリットしかない。


 とはいえ、俺の感想だ。本人が気にするなら無闇に口出ししないほうがいいに決まってる。


「ねえねえ、ここ面白そうじゃない?」

「もう食べ終わったのかよ」

「太一くん。時は金なりだよ。急いで行こ!」


 ○


「ここみたいだね」


 俺たちが来たのは校舎の2階。普段は3年生が利用してるフロアだ。


「可愛いメイドたちがあなたを待っています」と書かれた看板がデカデカと主張している。書いたのは女性だろうな。可愛い文字で書いてあるけどさ、なにも赤で文字を書くなよ。お化け屋敷と勘違いするやつがいるかもしれない。


(これって……)


 多分、というか絶対にメイド喫茶だよな。俺たちの先輩にあたるお兄さんお姉さんたちは大学受験のやりすぎで頭がおかしくなったのかもしれない。あと2年後には俺も気持ちがわかるようになってるかもしれないけどさ。


 もともと小宮さんがやりたかった出し物だから興味があるんだろうな。けど、演劇でメイド服着てたから満足したと思ってたんだけど。


「それはそれ。これはこれ」

「左様ですか」

「まあ、とにかく行こうよ! あたしも可愛いメイドさんを見たいもん」

「俺は遠慮しとくよ」


 なんだかこういう店に入ったら終わりな気がする。恥ずかしいし、接客してくれる人から「え? 何あいつ。メイド喫茶に来てんの? ウケるんだけど」みたいに思われる。


「恥ずかしがらなくてもいいじゃん! あたしたちもいるからさ! すみませーん!」


 元気の良い声は教室中に響いただろう。長い髪を色とりどりに染めた先輩がやってきた。かなり文化祭を満喫してんな。本人たちにとってはオシャレに仕上げた俺には南国にいそうな鳥にしか見えない。


「いらっしゃーい。あれ? 可愛い格好。あ、さっきまで体育館で演劇やってたクラス?」

「そうなんですよー。貰ったパンフレットに載ってる出し物で面白そうだなーって思ったからきたんです!」

「へえ。それはそれは。えーっと、そこにいる君はプレイボーイかな?」

「……は?」


 プレイボーイなはずがない。俺が生粋のプレイボーイなら文化祭なんてイベントを休んで休日の渋谷に繰り出してる。そんで、街にいる女子を話術で魅了してるっての。


「冗談、冗談。そんな真面目な顔しないでよ。お姉さんのアダルトジョークだから」

「は、はぁ……」

「まあ、冗談は置いといて。うちのお店はカップル割引があるんだけど」

「カップル割引!?」


 俺よりも先にルウェナさんが食いついた。


「そそ。メイド喫茶って1人じゃ来ないでしょ? だから少しでも入りやすいようにね。ていうか、ここのフロアでカップル割引やってらのがうちらのところしかないからてっきり知ってるから来たと思ったんだけど……違ったみたいだね」


 だから俺をプレイボーイだと勘違いしたのか。ちょっと待てよ。俺がカップル割引を知ってたとしてだ。堂々と彼女3人を連れて来るかっての。「俺は3人も相手がいるんですよー?」って自慢しに来てるやばい奴ってことにしか見えないだろ。


「それじゃあ普通料金で4人だね」

「はいはーい! あたしたちカップルでーす!」

「ルウェちゃん!?」

「ふっふっふー。甘いね、みはちゃん。早い者勝ちだからねー」


 勝ち誇ったような目で小宮さんを見るルウェナさんに腕を掴まれた俺は強引に連れてかれた。


 3年生のお姉様メイドの方々から冷たい目線が飛んできたことは言うまでもない。

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