第42話 終わった後の休息!?

 演劇は無事に終わった。鳴り止まない拍手喝采の中、幕が降りる。体育館の裏ではみんなから喜びの声が湧いていた。


「よっしゃー! あれだけ拍手もらえたら大成功でしょ!」

「夜闇! 最後のアドリブ最高だったぜ!」

「そうそう! 悔しいけど思わず泣いちゃったよー」

「やっぱり脚本書いたらあんなセリフが咄嗟に出てくるもんなのか?」

「いや、まあ、そんなとこかな。あはは……」


 自分が思っていることをただ言っただけ。なんてことは口が裂けても言えない。面と向かって告白する勇気がないから役の力を借りただけだからな。演じてる時は何とも思わなかったのに今になって恥ずかしさが込み上げてきた。なんで俺はあのタイミングであんなこと言ったんだろ。誰かが録画してないのを期待しておくとしよう。あとで見返されたりでもされたら間違いなくトラウマになる。黒歴史もいいとこだ。


「みんなお疲れ様。とってもよかったわ」


 喜んでる俺たちのところに植木先生がやってきた。普段からニコニコしているからわかりづらいけど、なんだか違うな。本心から祝福してるっていうかさ。先生の立場からしても


「せんせー! あたしの演技どうだった?」

「俺の役、めっちゃウケが良かったぜ!」

「何も決まらない時は心配してたけど、杞憂だったようね。クラス一丸となって作ったのが今日の演劇から伝わったわ。楽しい出し物をありがとう」


 植木先生も喜んでくれたみたいでよかった。先生の話によると他の先生たちからの評価もかなりのものらしい。特に脚本がいいとのこと。特にどこにでもいそうな俺が書いたことを現代文の先生が驚いていたらしい。これがきっかけで現代文の成績を普段よりも上げてもらえると助かるんだけど、そんなうまくはいかないよな。


「それぞれ色々言いたいことがあると思うけど、次の人たちがもうじき来るから急いで教室に行きましょう」

「うし! 胸を張って帰ろうぜみんな!」


 黒須の言葉に「おー!」と答えて会話しながら教室へと帰る一同。


 吸血鬼の格好をしたまま移動するの恥ずかしいとは思ったけど舞台に立った連中は誰1人として着替えてないから気にしないことにした。教室に帰るまでの間、ニヤニヤされたことは言うまでもない。


 ○


 教室に帰ってからもみんなの興奮が止む気配はなかった。体育館の袖でははしゃぐことができなかったこともあるのだろう。


 興奮のあまり涙を流している人もいれば、そんな人の肩を撫でながらうんうん頷いている人もいる。


 そんな人たちを見てたら俺の目頭もなんだか熱くなってきた。感動モノの映画を見ても滅多に泣かないのに。


「夜闇くん! とってもカッコよかったよー!」

「最後のセリフってアドリブなんでしょ!? すんっごくよかった!」


 教室に帰ると俺専用の衣装を作ってくれた女子たちに囲まれた。今回の劇でハプニングがありつつも上手くいった背景に彼女たちの存在は欠かせない。短時間で衣装を作れるくらい手先が器用な人がいなければ主役交代なんてできなかったからな。言ってみれば影の立役者だ。感謝したいのは俺の方だよ。


「ありがと。俺に合うようにしてくれたみんなのおかげだよ」

「またまたー。あたしたちは夜闇くんに合うように作っただけだよ?」


 ね、と確認するように衣装班に目を合わせると彼女と同じ気持ちなのか全員コクリと頷いた。


「それがすごいよ。衣装を一から作れる人ってなかなかいないって、今回は急だったし、大変だったろ?」

「うーん。あたしはそこまでかな。普段からよく作ったりするし」

「そういうもの?」

「そういうもの。手芸部だからね。服を急いで作るのはちょちょいのちょいだよ!」

「太一くん」


 俺が彼女と話し終わったタイミングを見計らったのか、それとも単に偶然話しかけたのかわからないが、小宮さんが俺の名前を呼んだ。


「なに?」

「ねえ太一くん。この後予定ある?」

「……別にないけど」


 出し物の演劇は無事に終わったから校門が閉められる時間までは自由だ。正直このまま自宅に帰って良い気分のままベッドに入りたいけど後夜祭にも興味があるから帰るわけにはいかない。


「じゃあさ、4人で色んなお店を回ろうよ!」 


 4人ってことは俺、小宮さん、ノアさん、ルウェナさんの4人か。俺以外のメンバーが全員女子なのが気になるところだけど、まあいっか。今更気にしたってしょうがない。


「いいけど、この格好で!?」

「うーん。別に平気だと思うよ? 太一くん見事なまでに衣装を着こなしてるし何も問題ないでしょ?」

「いや、そうじゃなくてさ」


 あくまで舞台上で着てれば違和感ないけど出店を見て回るんなら流石に私服で行動したい。周りの目が気になるお年頃だからな。


「わたしたちの出し物としての宣伝になるじゃん」

「宣伝って……もう劇は終わったけど?」

「まあまあ、細かいことは気にしないで」


 笑みを浮かべて教室に引き返そうとした俺の背中を押す小宮さん。


「太一と一緒ならどんな格好でもいいよ!」

「一緒に行きましょう」


 ルウェナさん、ノアさんも加わった。抵抗したところで無駄だな。クラス外の男子から殺意の眼差しが向けられるのは慣れそうにない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る