第40話 演劇が開幕!?
「うん! 完璧! いやー、私たちの技術はこんな時に役立つよねー!」
「「「イェーイ!」」」
「ほら、夜闇くんも! 一緒に!」
「い、イェーイ……」
3人で交わしたハイタッチになぜか俺も加わった。こんなことしたのっていつぶりだろ。高校生にもなって恥ずかしいと思って俯く俺に気づいた女子たちが絡んできた。
「もしかして、照れてる?」
「は、はい……」
「やだー、夜闇くんかわいいー」
「前からイケてる見た目だと思ってたけど、やっぱりサマになるよね! ひょっとしたらルイスくんよりも似合ってるかも」
「ねぇねぇ、あとで一緒に写真撮ろうよ」
今までの学生生活で強制的に撮らされた集合写真以外で女子と写真だなんて。ルイスに少しは感謝しなきゃな。もちろん大歓迎だと言おうとしたが俺の肩を誰かが掴んだので心の中にとどまった。
「「「あ……」」」
仲睦まじい様子で俺をからかっていたはずの女子たちの表情から笑顔が消えた。彼女たちは目合わせをしたかと思えば
「い、いけない。他の仕事があるんだった」
「あ、あたしも別のところに行かなきゃいけないんだった」
「じゃ、じゃあ本番頑張ってね!」
なんて言ってそそくさと俺から離れていった。
「太一?」
聞き覚えのある声に身震いしながら振り向く。俺の後ろに立っていたのは笑顔のまま野獣すら逃げ出すほどの殺気を発している少女。彼女たちが逃げるように去っていったのは間違いなくこの人のせいだ。
「さっきの女たちはなんなの?」
「手芸部の人たちだよ」
「ふーん。それで、その格好をしてるわけ?」
「まあ、そういうこと。けど、俺には似合わないよな」
「ううん! ほんとのドラキュラよりかっこいい! めちゃくちゃ似合ってるよ!」
「おお……あ、ありがと」
ほんとのドラキュラを見たことがあるのかというツッコミは置いといて。似合ってると言われるのは正直嬉しい。けど、ルウェナさんの場合は俺がどんな格好をしたところで全部似合うって言いそうだけどな。例え全裸で「どう? 似合う?」なんて聞いても「とってもイケてる!」なんて言葉が返ってくるに違いない。
「おーい! 準備ができたやつはさっさと移動するぞー!」
○
「あー、ヤバい。めちゃくちゃ緊張してきた」
「なんか客席うまってんだけど。やばくね?」
客入りは確かに多い。ざっと見た感じ満席だ。演劇をやるクラスは俺たち以外にいないってのもありそうだな。大体はクラスメイトの家族だろうけど。俺たちはステージとなる体育館の隅で時間になるまでスタンバイ中だ。
「マジかよ。てっきり多くて十人くらいだと思ったのに」
「それだけ期待されてるってことじゃん。頑張ろうよ!」
「やっべぇ。吐きそう」
「ちょっと黒須! 吐くならトイレに行ってよね!」
小宮さんと黒須のやりとりが微笑ましい。早いもので本番まであと10分だ。セリフを最終確認する人もいれば雑談で緊張を紛らわす人もいる。ちなみに俺は後者に値する。何も喋らないでいると余計なことを考えるんだよな。悪いことばっかり考えるのが俺の悪い癖だな。
「ノアさん。ルイスは大丈夫?」
「今連絡が来ました。体調は回復したそうです」
「そっか。よかったね」
「いえ。当日だというのに、ご迷惑をおかけして本当にごめんなさい。夜闇くんも急に主役をやることになってしまって」
「まあ、なったもんはしょうがないよ」
誰かが急に休むだろうなとは思ったさ。何か大きなイベントごとが行われる時にハプニングはついてくるもんだからな。演劇だと誰かが休んだり怪我したりで代役が必要になる的なやつさ。まさかルイスがダウンするなんて思ってもなかったけど。まさか俺が彼の代わりに主役をやるなんてな。
「緊張しませんか?」
「めちゃくちゃしてる」
胃の中身を全部ぶちまけたいくらい。深呼吸をするだとか、人の文字を手のひらに書けば落ち着くとは思ったが全く効かないほどだ。
「じゃあそろそろ開けるぞ!」
黒須が裏方役に合図を送り、幕がゆっくりと開いていく。
「太一くん! ノアちゃん! 頑張ってね!」
「太一! カッコいいよー!」
小宮さんもルウェナさんに声援を送られながら俺はステージへと歩く。
さあ、演劇の始まりだ。
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