第38話 文化祭当日なのに!?

「ただいまー」

「おかえりーって、疲れ切った顔だね。今日も文化祭の練習?」

「まあ、そんなとこ」

「毎日放課後残って大変じゃない?」

「流石にもう慣れたよ」


 補修とかで残ってる訳じゃないから俺としては苦じゃない。数学のプリントを何十枚も解かされるよりよっぽどマシだ。


「ていうか姉ちゃん。服着ろよ」

「えー。だってめんどくさいからさー」


 下着姿でソファーに寝っ転がりながらスマホをいじるな。こんなところ母さんに見つかったら雷が落ちるぞ。とばっちりが飛んでくるかもしれないから嫌なんだよな。


「これでいいの?」


 その辺に脱ぎ捨てられた寝巻きをポイポイ姉に投げつける。そりゃあ自宅はどんな格好で居ようと自由だけど、少しは俺のことを配慮してほしいもんだ。


「ありがとー。太一は優しいねー」

「へいへい」


 聞き飽きたセリフだ。俺が姉ちゃんに何かするたびに言われるからな。ほんとに1人暮らしさせちゃいけない人間だ。


「ご飯にする? お風呂にする? あっ、それともあたしの相手してくれる?」

「ご飯で」


 最後は聞かなかったことにしよう。疲れてんだからさっさと夕飯食べたら風呂に入って寝たい。


「どうぞー」

「サンキュー」


 電子レンジで温めた夕飯を運んできてくれた。疲れた体に温かい料理はしみるって言うけどその通りだな。いつもより美味しく感じる。


 寝巻きに着替えてそのまま部屋に行くと思ったら俺の前に座った。なんでニヤニヤしてんだよ。気持ち悪い。


「で、どうなの?」

「なにが?」

「なにがって太一。明日が何の日か知ってるわけ?」

「文化祭の開催日だろ? それがどうしたんだよ」

「それだけじゃないでしょ! 明日はクリスマスでしょ!」

「あー、そういやそうだな」


 完全に忘れてた。姉ちゃんに言われなかったら絶対に気づかなかった。けど、何の関係があるんだ?


「太一は好きな人いないの?」

「い、いないよ!」

「あっ、今嘘ついたでしょ。お姉ちゃんに隠し事したって無駄だからねー」


 これだから姉がいるのは困る。妙に勘がいいんだよな。特に異性の影を少しでも感じたら警察官ビックリの尋問が待ってんだからな。迂闊に会話もできない。


「いたとしても姉ちゃんに言わねえよ」

「なんでぇ!? お姉ちゃんに教えてもいいじゃない!」

「教えたらどうしたいわけ?」

「そりゃあ、可愛くて仕方ないわたしの弟に相応しい女性かどうか見定めるにきまってるじゃん」


 ほらな。こんなこったろうと思ったよ。だから教えたくないって。


「その子に告白するには絶好の機会じゃない?」

「クリスマスにか?」

「クリスマスだからこそでしょ! きっと生涯の思い出になるわよ! あたしだったら大して好きじゃなくても恋に落ちちゃうかなー」

「世の中の女性は姉ちゃんみたいに単純じゃないんだよ」

「おかあさーん! 太一がイジメるー!」


 そう叫びながらどこかへ行ってしまった。

 告白か。俺はノアさんに伝えるべきなんだろうか。好きとか彼女になってくださいとかそんなんじゃなくてさ。ハロウィンの日に助けたのは俺なんだって。けど、彼女は自分を助けた人間が俺なんかだと思ってないだろうし、冷やかしだと思われるかもしれない。最悪、そんなことを言う人じゃなかったなんて思われて嫌われるかもしれない。


「クリスマスだから……か」


 全ては明日の俺に期待することにしよう。クリスマスマジックがあるかもしれないからな。


 ○


 次の日。登校すると教室は謎の空気に包まれていた。


「やっば。もうドキドキしてきたんだけど」

「流石に早すぎない? まだ本番まで時間あるじゃん」

「おいおい、しっかりしろよ。お前だって声震えてんじゃん」

「そういうあんたも衣装逆に着てるけど?」


 みんな緊張してんな。そりゃそうか。ステージを利用するのは俺たちの他にもいるけど、トップバッターだから無理もない。俺の心臓も持久走を走り終わった時みたいにバクバク鳴ってる。


「さあ、みんな! いよいよ今日が本番ね! 悔いのないように思いっきり楽しんでいきましょう」

「「「おー!」」」


 植木先生の掛け声に応えるクラス一同。その後は黙々と本番に向けての準備に取り掛かる中、ノアさんに話しかけられた。


「太一くん。ちょっといい?」


 なんだかソワソワして落ち着いていない。なんかあったのかな? 


「どうかした?」


 今日はルイスと一緒じゃないみたいだ。いつもは誰もノアさんに近づかせないように見張ってんのにに。急用ができたかもしれないけど、あいつのことだから本番までには来るだろ。


「どうしよう……ルイスが来れないって」

「……え?」

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