第37話 文化祭前日!?

 ノアさんはクラス全員の推薦によってヒロインをやることになった。まあ、1番最初に決まった配役だったな。ちなみに彼女が恋するドラキュラ役に関しては多数決をした結果、ルイスに決定。カチカチ性格だから演技に関しても棒読みかと思ったけど俳優顔負けの演技力。芝居は上手いし容姿もいいなんてどうかしてると思う。


 圧倒的な票の差で敗北した時の黒須は可哀想だったな。とはいえ、その父親というそれなりにセリフも出番もある役をゲットしたから本人は気にしてないみたいだ。ていうか俺に4票も入ってたんだけど誰が入れたんだよ。1人は心当たりがあるけどさ。


 役が決まってから授業が終わった後の放課後に本番に向けて練習する日々が続いた。予想外だったのがクラスメイトの参加率の高さ。主要役のメンバーが参加するのは当然なのだが、なんと脇役の連中もほとんど毎日付き合ってくれた。みんな部活やバイトや趣味に費やせる貴重な時間を割いているんだと思うとなんだか心にくるものがある。クラス全体で一つのことを目標に取り組むっていいよな。


 そんなこんなであっという間に日程が迫り、いよいよ明日が文化祭開催日となった。前日の今日は一通り読み合わせした後に本番を想定しての予行を行ってるが、今のところ正直何も言うことがない。順調すぎて怖いくらいだ。俺は小宮さん、ルウェナさんと予行の様子を教室の隅で見ている。


「みんな凄い張り切ってるな」

「最初の文化祭に加えて演劇だもん。気合い入るよねー」

「みはちゃんは当日なんの役だっけ?」

「あたしはドラキュラ城にいるメイド役だよ。ノアちゃんと一緒にやる予定だったんだけどね……」

「ふーん、そうなんだ。でもいいなー。あたしの役より全然可愛い衣装じゃん!」

「えへへ、そうかな?」


 そうそう、あれから小宮さんとルウェナさんの関係は今までのことが嘘のように修復した。転校してきて早々は犬猿の仲だったはずなのに今では互いに「みはちゃん」「ルウェちゃん」なんて呼び合うほど親睦を深めている。


 なんでこうなったかわかんねえよ。一体この数週間で彼女たちの間に俺の知らないところで何があった? 俺たち男子は殴り合いから始まる友情的なやつはあるけど、女子界隈でもあったりすんのか?


「ね? 太一も可愛いと思うよね?」


 咄嗟に話を振られた。


「ど、どうかな? 似合う?」


 恥じらいながら、完成したばかりの衣装を身につけてモデルのようにその場でクルリと回ってお辞儀してみせる小宮さん。


 どうって。よく似合ってる以外の回答がない。こんな可愛くて愛想も良さそうなメイドがいるなら専属契約して毎日家に来てもらいたい。正直、俺の好みとしてらドストライクだ。


「ワワワ……」

「ん?」


 小宮さんの顔が一瞬で真っ赤になったかと思うと口をぱくぱくして硬直した。


「小宮さん!? 大丈夫!?」

「アワワ……」


 肩を掴んで揺するが反応しない。ダメだこりゃ。


「あーあー。みはちゃんには刺激が強すぎだねー」

「刺激って、俺何にもしてないだろ?」

「太一は頭の中で考えてたつもりだけど、全部声に出てたからね」

「マジかよ!」


 じゃあさっき俺が思ってたことは全部聞かれたってことか!? やっべ、めちゃくちゃ恥ずかしい。


「あれ? 赤くなった。もしかして恥ずかしくなっちゃった!? 太一のそう言うところが好きー!」

「離れろって!」

「照れなくてもいいじゃん! あたしと太一の仲なんだしさ!」

「ただのクラスメイトってことでいいんだよな?」

「そんなこと言わないでよー! ねぇねぇ、いつになったらウチに来てくれるの? あたしはいつでもいいからね?」

「少なくとも文化祭が終わるまでは行かない」


 その後も行くつもりはない。高校生にもなって何の用もなしに自宅に上がり込む度胸なんてない。彼女の両親から冷たい目で見られることは間違いないからな。


「えー。なんでー。じゃあ文化祭が終わったらパパとママに会ってよー」

「絶対に嫌だ!」


 なんで俺があんたの両親に会わなきゃいけないんだよ。むーっと頬を膨らましたってダメなもんはダメだし、無理なもんは無理なんだよ!


「だってー、もう太一のことは話しちゃってるし。パパとママも太一と会話したいって言ってるんだよ?」


 外堀を埋めてやがる! なんで俺の知らないところで話を通してるわけ!? 絶対行かないからな!


「そんなの知るか! ともかく行かないからな!」

「2人とも! それ以上喋るなら外でお願い!」


 せっかくの良いシーンだということを忘れていた。演じてる一同が俺たちの方を見ている。その顔つきはバラバラだ。「また夜闇たちか」なんて呆れてるやつもいれば「その隣を変われ!」なんて怒りの声が聞こえてきそうな気もする。


「ご、ごめん」

「ごめんなさい」


 俺たちはぺこりと頭を下げた。顔を上げると衣装を身につけたヒロイン役と目が合った。何だろう。俺を見つめている彼女の瞳の奥がメラメラもえてるような気がする。本気で取り組んでいるから邪魔しないでってことか。なら、さっさと退散しよう。


 このまま教室にいても邪魔する可能性の方が高いからな。俺の出番は既に終わってるから適当に時間を潰すか。


 その後、予行は無事終わった。修正点がないくらい完璧だ。明日もこの調子なら何も問題ない。そう思っていたが、文化祭に突然のハプニングは付き物なのだと俺が知るのは後のことだった。

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