第35話 ドタバタの保健室!?

 どこから説明すべきか迷ったが、適当に話を作ることにした。保健室勤務の先生も俺の話に対して特に不審に思うことなく、好きなだけベッドを使っていいと言ってくれた。なんて優しい先生なんだろう。俺が中学の保健室勤務の先生なんかろくにベッド使わせてくれなかったからな。サボりたいのが見え見えだった俺にも原因があるとは思うけど。


「ちょっと職員室に用事があるから席を外すわね。何かあったらそこに置いてある電話で呼んでね」


 それだけ言い残して保健室を後にした。それでいいのか? 今まで利用したことなかったから気づかなかったが、こんなに優しい先生だったら合法的に授業を休めるかもな。


 気を失ったルウェナさんを保健室のベッドに寝かせて俺は近くにあった椅子に腰を下ろす。寝ている時の彼女が先ほどまでの人物と同じだなんて信じられない。まじで、ルイスの助けがなければどうなってたんだろう。懐から何を取り出すつもりだったのかわからないけど想像したくない。マジで怖かった。


 願うことならあんなことはもう経験したくないけど、彼女が即座に「はい。わかりました。もうしません。大人しくします」なんて言うはずないよな。まったく、面倒な子に好かれたもんだ。見た目がかわいい分、性格で損してる。彼女は残念美人ってやつだな。


 そんなことを考えながらぼんやりと眠る彼女を見てたら閉じていた目がゆっくりと開いた。


「あれ……ここは?」

「保健室だよ」


 それ以外の説明がない。詳しく言うと医療関連の本に囲まれ、ベッドが二つ設置されている部屋だ。誰が持ち込んだのかわからないぬいぐるみがそれなりに置いてある。


「……なんでわたしここにいるの?」

「はぁ!?」


 ふざけてんのか? と思ったが彼女の様子を見るにふざけている感じではない。きょとんとしたまま首を傾げてる。これはガチなやつかもしれない。


「まさかとは思うけど、記憶にないのか?」

「うん。教室に入った時から覚えてないの」

「マジかよ」


 器用な脳だな。都合の悪いことは全部記憶からリセットされるように設計されてるのか? ぜひ俺にも備わってほしい。


「あたし……ひょっとしてとんでもないことしちゃった?」

「まあ、第一印象としてはかなりやばいな」


 男子を追って転校してきた挙句、他の生徒に対して負の感情をこれでもかと出してたからな。あのことがきっかけで避けられても仕方がない。


「はぁ……どんな顔して教室に戻ったらいいんだろ」


 今にも泣き出しそうな顔をして落ち込んでしまった。俺が慰めるべきなのか? 


「えっと──」

「でもいいんだ! あたしには太一がいるもん! 周りの目なんか気にしなくてもいいよね!」


 急に元気になった。なんだよこのテンションの落差は! どう接するのが正解なのかマジでわかんないって。


「いや……俺は困る」

「またまたー。太一は冗談が好きなんだね。覚えておかなくちゃ」


 ルウェナさんはふむふむ頷きながら何やら怪しげな黒いノートに高速で何かを書き込んだ。書かれた人が殺されるノートじゃないと信じたい。俺はあと1分後に心臓発作で死なないよな!?


「でもなんか悔しいな」

「な、何が?」

「だってせっかくあたしと2人きりだったんでしょ? それなのに何もされてないみたいだし」


 制服を確認し、特に乱れた様子がないことを確認しながらルウェナさんが言った。当たり前だろ。さっきまで先生がいたんだから。欲望に負けて手を出そうもんなら間違いなく停学処罰だ。最悪の場合、退学になるかもしれない。


「俺をなんだと思ってんだ。言っとくけど、異性と2人きりになったところでなにもしないからな」

「草食系なんだ」

「慎重派だと言ってほしい」


 石橋を何百回も叩いて渡るような性格だからな。


「ふーん。なんか意外。わたしに言い寄ってくる男の子ってみんな獣みたいな人だったから太一くんみたいな人がとっても新鮮!」


 都会にいるチャラ男と俺を比べたらそりゃあ新鮮に感じるだろうな。


「ちょっと手出して」

「は?」

「いいから! ね?」 

「一体なんだよ」


 手相占いでもしてくれるのかと思った次の瞬間──抵抗することすら敵わず俺は彼女が寝ているベッド内に連れ込まれた。捕食植物に誘われた虫たちの気持ちがわかったような気がする。


「これで一緒に寝れるね」

「ちょっ、マジで離れて」


 こんな近距離じゃ色々と目の毒なんだよ。可愛い顔は見れないし豊かな胸を見るなんてもってのほかだ。ああそうか、目を瞑ればいいのか。いや、無理だ! 目を瞑ればその分余計なことを考えちまう! どうすりゃいいんだよ!


「ねーぇー。聞いてるのー?」

「聞いてます! 聞いてますから解放してください!」


 早くここから抜け出さないと頭がおかしくなりそうだ。俺の理性がぶっ壊れる前にどうにか対処したい。それにこんなところ誰かに見られたりでもしたらヤバいって!


 ガララ。


 ドアが開いた。てっきり用事を済ませた先生が来たのかと思ったけど違った。


「植木先生が2人の様子を見に行ってほしいから来たよー……って……太一……くん?」


 明るい小宮さんの顔色がだんだん血の気を引いていく。信じられないものを見るような目で俺のことを一瞥すると


「ごゆっくりどうぞ」


 そう言い残して去っていった。


「ちょっと待ったーーー!!!」


 黒須の話によれば俺の叫び声は教室にまで届いたらしい。これで俺も学校で有名人の1人になれた。全然嬉しくねえよ!

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