第34話 修羅場になった!?
今なんつった!? 俺がいるからこの高校に転校してきたって言ったよな。
「えっと……ルウェナちゃん?」
「なんですか?」
「夜闇くんに会うために転校してきたって本当?」
「はい。そこに座ってる夜闇太一くんに会うためにわたしはこの高校に転校してきました」
「「「えぇぇぇぇぇぇ!?」」」
クラスメイトたちが驚きの声を上げた。逆に指名された俺はというと、驚きのあまり声が出なかった。
(俺に会うために転校してくるなんて馬鹿じゃねえの!?)
彼女の主張に対する率直な感想だ。
「どうしてみんな驚いてるの? 好きな人がいる高校に転校するのがそんなに珍しい?」
ありえないカミングアウトをした彼女は首を傾げながら言った。頭のネジが数本外れてるに違いない。
(当たり前だろ! 何言ってんだこの子!? 今自分が言ったこと理解してんのか!?)
「そ、そう。うーん、こんなこと言う生徒は今まで聞いたことないわね」
植木先生は頬を手を置いて深刻な顔をしている。断言する。彼女みたいな生徒を受け持ったことのある教師なんて日本を探したって見つかりっこないってな。ほとんどストーカー行為と変わらないことを現にしているわけだし。
「ええっと、ルウェナちゃん。あなたの席は……どこにしようかしら」
「……」
植木先生が教室を見渡し悩んでいる最中、ルウェナさんは堂々と教室内を進んでいく。彼女の歩く姿に男子は皆、見惚れていた。無理もない。芸能人顔負けの容姿だからな。性格は難ありかもしれないけど。なにしろ転校してきた理由が親の転勤とかありきたりなもんじゃなくて俺に会うためだけなんだからな。いい迷惑だ。
確かに彼女は可愛い。可愛いけど、付き合う関係になるなら話は変わる。出会ってから気があるのかもしれないけど、俺は彼女のことについてほとんど知らないからな。一方的に向けられた愛がこれほど重荷になるとは知らなかった。
彼女は俺の左横に来たところでピタリと止まった。
「えへへ、来ちゃった!」
満面の笑みからのウインク。来ちゃった! じゃねえ。前屈みによって強調される胸元に視線が落ちかけたが理性でなんとか堪える。
「なんで俺がこの高校に通ってるのを知ってんの!?」
「どんな方法でもいいでしょ」
いいでしょで済むわけないだろ。個人情報がああだこうだ言われてる現代でたまたま出会った男子の通ってる高校を特定するなんて普通じゃない。
まして、あん時の俺はバイト帰りだから制服じゃなかった。マジでどこから漏れたんだ? 知り合いに内通者がいないことを願ううばかりだ。
「ということで──」
彼女の視線が俺の隣の席に座るノアさんへ移った。
「ねえ、そこのあんた。太一の隣に座りたいから、あたしにその席を譲ってくれない?」
「……!?」
笑顔の転校生が発した提案。ではなく一方的な宣言に唖然とするノアさん。狼狽して一言も喋らない彼女の代わりに前に座る騎士と俺の後ろに控えてる女子が反応した。
「貴様、お嬢に向かって席を変われとはどういうつもりだ!」
「そうだよ、転校してきてからいきなり席を指定するなんて図々しいと思う!」
「あんたたちには言ってないんだけど。なんなの? 太一の彼女?」
ルイスはもちろんだが、小宮さんとはそういった関係じゃない。ただ最近仲が良くなった男女。それ以上でも以下でもない。
「いや、今はまだそういう関係じゃないけど……」
「なにをぶつぶつ言ってるの?」
「とにかく、おかしいと思う!」
「あんたに言われる筋合いはないでしょ? 太一もあたしが隣に座った方が嬉しいよねー?」
俺に話を振るな。クラス中の視線が一瞬で俺に集まる。脚本を完成させてせっかく上がり始めた好感度が暴落する前になんとかこの状況を打破しなきゃならねえ。ここは正直に言った方がいいよな。
「……別に、そこまで」
「えー。せっかく来たのにどうしてそんなこと言うの? もしかしてあたしのこと嫌いになった!?」
「まあ、好きじゃないな」
こういうグイグイくる積極的なタイプが苦手なのもあるけど流石にやりすぎだ。面と向かって拒否すれば彼女の熱も冷めて大人しくなるだろう。そう思っていた。
「……なんでそんなこと言うの? せっかく太一の高校まで転校してきたのに。この子たちがいけないのかな? やっぱりあたし以外の女の子がいるのがいけないんだ」
なんかやばい。ドス黒いオーラがルウェナさんの全身から出てる。このまま彼女を放置するのは危険だと判断した俺はルイスに目線で助けを求めた。
(これは君が蒔いた種なのでは?)
(こんなことになることがわかってたら助けてるわけないだろ! なんとかできないか?)
(はあ、仕方がない)
目線だけで会話できるなんて俺たちの仲も深まったなと感心している場合じゃない。無言でルイスが立ち上がり、彼女を見据える。一体、どうするつもりだ?
「……」
「なに? これ以上あたしの邪魔をするつもりなら──」
ルウェナさんが懐から何かを取り出すよりも早く、ルイスの手刀が彼女のうなじを的確にとらえた。
「うっ!」
一瞬で気を失ったルウェナさん。俺は倒れかけた彼女の体を支える。
「先生、彼女を保健室に運んできてもいいですか?」
「夜闇くん……ええ、お願いするわ」
頭を抱える植木先生の口からため息が漏れた。そりゃそうだよな。きっとなんて生徒をクラスに引き受けてしまったんだと後悔してるに違いない。
「それじゃあ、失礼します」
「あとは頼むぞ」
「気をつけてね」
「夜闇も大変だな」
教室を出る際、ルイス、小宮さんに加えて黒須からも一言ずつ言われた。
「……」
一方ノアさんは俺の顔を見たまま何も言わなかった。けど俺を心配しているのは見てたらわかる。俺は不安げな彼女を安心させるために微笑んだ。気持ち悪い笑顔になってないことを祈るしかない。
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