第33話 助けた子が転校してきた!?

 今にも寝そうな目をしたまま学校に着いた。結局一睡もできなかったせいで全身が重い。


「あっ! 太一くん。おはよ!」


 教室に入るや否や、小宮さんからとびきりの笑顔で挨拶された。相変わらず朝から元気だな。持ってるエネルギーを少しだけでもいいからわけてほしい。副作用もなさそうだしさ。


「おはよ」


 椅子に座る時にどっこいせと声が漏れた。一瞬だけおっさんが乗り移ったに違いない。それにしても高校生になってから徹夜したのは今回が初めてだけど、やっぱやるもんじゃないな。なにしろ体への負担が尋常じゃない。今すぐ寝ていいって言われたら一分で寝れる自信があるくらいには疲労感がある。


「大丈夫? クマがすごいけど」


 マジ? 周りから心配されるくらいひどい顔なのか。まあ、寝てないからしょうがないよな。今日は授業の大半を睡眠に費やすことになるかも。一体、何しに高校に通ってんだろう。怒られた際も事情を話せば先生も理解してくれるかもな。


「脚本できた?」

「なんとか完成させたよ」

「ほんとに!?」

「ほら、この通り」


 カバンから書き上げた脚本を彼女に渡す。目をキラキラさせながら俺を見つめる小宮さん。


「すっごーい! たった1日で完成させるなんて、太一くんは天才だよー!」

「いや、まあ、俺なりに頑張りました」


 自分を褒める機会なんてないから今回くらいはナルシストでもいい。


「これ読んでいい!?」

「え、今!?」

「だって面白そうだもん!」


 そんなに期待しないでくれ。俺の処女作だからな。ダメ出しが飛んできて当然ってレベルだと思うのが自分でもわかるくらいだ。特に後半部分は追い詰められた徹夜がもたらす謎のハイテンションで書き上げたからな。


「まあ、いいけど……」

「やったー! それじゃあ、早速読ませてもらうね!」


 俺の脚本を読み進める小宮さん。苦戦しながら書いたんだからもっとゆっくり読んで欲しい反面、もうその辺にしといた方がいいんじゃないかと思う気持ちでいっぱいだ。なんだろうこの感じ。出版社に持ち込みする漫画家とかもこんな気持ちなんだろうか。


「これ、ほんとに太一くんが書いたの?」

「信じてないってことか?」

「そうじゃないよ! すっごく面白い! 人間に恋したドラキュラのお話を書くなんて思わなかった。太一くん、恋愛映画とか好きなの?」

「いや、別に。そんなことないけど」


 俺はむしろアクションとかSFとかの方が好きだな。テレビに出てるイケメンが誰かに恋した系のドラマや映画は苦手な方だ。現実の自分が嫌になってくるからな。


「これを書くときに何か参考にしたの?」

「ほら、ハロウィン事件があったろ?」

「ノアちゃんが人気になった事件のこと?」

「そ。あれを思い出してさ。ノアさんを助けたドラキュラの仮装をしたやつは名乗り出てないってところに着目して発送を広げたって感じかな」

「へぇーすごいね。なんていうのかな。創造性? が豊かなんだねー」


 ほんとは俺のことだけど。正体を隠してるのは日常生活がおくれなくなるかもしれないからな。


「あたしはこういう文章書くの苦手だからさ。何書いていいか全然思いつかないし」

「でも俺には脚本の才能なんてないからさ。やっぱり新しいやつを別の人に書いてもらった方がいいと思う」

「なんで? 面白いんだからこれでいこうよ!」

「おはよっすー。何読んでんだ? 漫画なら俺にも貸してくれよ?」


 押し引きしてる俺たちの間を割り込むように黒須が来た。


「太一くんが書いた文化祭の脚本を読んでるの」

「マジかよ! たった一日で書き上げたってのか!? 夜闇、お前やっぱすげえわ」

「あ、ありがと」


 やばい。人から褒められるのって気持ちいいな。にやけ顔から戻らない。


「で? 読んだ感想は?」

「文句なし! これでいこう! あと決めなきゃいけないのは登場人物の配役だね」


 あとは彼女と黒須に託すとしよう。俺の役目は終わったからな。布団で過ごす有意義な放課後を過ごせそうだ。


「それじゃあ2人とも放課後よろしくね」

「おう! 任せとけ!」

「……ん?」


 今なんて言った? 2人?そんなことないよな。俺がやる仕事は終わったよな。


「なあ小宮さん」

「なーに?」

「俺は帰っていいんだよな?」

「ううん。一緒に配役を決めようよ」

「なんで!?」

「だって脚本書いてくれたんだから。ほとんど監督みたいなものでしょ? 一緒に決めようよ! 三人寄ればなんとかって言うし!」


 三人寄れば文殊の知恵とでも言いたいのか? 


「報酬は?」

「あたしとデートができるってどう?」

「マジで!? 俺も立候補できるか」


 黒須が飛びついてきた。


「黒須はいらない」

「なんでだよ!」


 速攻で拒否された。ご愁傷様。涙くらいは拭いてやる。


「みんなー。そろそろ席についてねー」


 なんてことをやってたら植木先生がやってきた。気がつけばあと数分でHRの時間だ。


「さて、文化祭の件についてなんだけど、実行委員の小宮さんたちからみんなに報告することはある?」

「はい! 今回の演劇でやる脚本ができました! 書いてくれたのは夜闇太一くんです!」


(小宮さん!?)


 俺が書いたことみんなの前で発表するなよ。きっと「なんであいつが?」「きっも!」とか言われるって!


「まじかよ」

「すげぇー」

「やるなあ」

「すっごーい。夜闇くんって脚本書けるんだ」


 小宮さんのおかげでクラスメイトの視線が俺に向いてる。めちゃくちゃ恥ずかしい。苦手なんだよな。こんな感じに注目を浴びるのって。穴があったら一日中入りたくなる。家の自室にテレポートしたい気分だ。俺を非難する声は今のところ聞こえてないけど。


「そう、夜闇くん。ありがとう」

「いえ、俺は……別に」


 頼まれたから引き受けただけです。ただそれだけのことなんですからそんなに褒めないでくださいよ。なにもでませんからね? 今日は寝るって決めてんですから。定期テストで一位をとるのも無理ですからね。


「さて、今日はみんなに報告があります。なんと、転校生を迎えることになりました!」


 またかよ、とは思ったけど人は慣れるもんだな。ノアさんたちの影響でそんなに驚かない。転校生? そうか、ふーんって感じだ。


「それじゃあ入って」


 大勢の拍手が迎え、ドアから入ってきた人物。


(なんで!?)


 俺は彼女を知っている。バイトからの帰り道。しつこいナンパから助けたあの子だ。彼女と目が合いそうになって慌てて逸らす。気付かれたかもな。いやいや、向こうは俺のことなんか忘れたかもしれないよな。


「ケルン=ルウェナちゃんです。みんな、仲良くしてあげてね。それじゃあ、簡単な自己紹介をお願いできる?」

「ケルン=ルウェナです。夜闇太一くんがいるので、この学校に転校してきました」


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