第32話 題材が決まった!?
その日の夜、俺は自室で紙を相手に苦戦していた。
「素人に書けるか!」
ぐしゃぐしゃにした紙を後ろも見ずに後方へ投げ飛ばす。また失敗だ。脚本がそう簡単に生まれるわけないだろ! そもそも文章書くの苦手なんだよ。読書感想文ですら苦手な俺に演劇の脚本だなんて大層なものができるはずないっての。
「太一、大丈夫!?」
姉ちゃんが血相変えて部屋に入ってきた。俺の声が姉たちがいた一階のリビングまで響いてたみたいだ。
「いきなり入ってくんなって!」
「うわぁー。どうしたの? 紙のゴミがそこらじゅうに散らばってるけど」
姉ちゃんに言われて部屋を見渡すと相当なゴミが散乱している。あとで片付けるのはどうせ俺の仕事だからいくら散らかっていようが構わないけどさ。生ゴミとかじゃあるまいし。
「実はさ、高校の文化祭でやる出し物が演劇になったんだよ」
「へぇー、いいじゃんいいじゃん! 面白いよー。いろんなことができるからね!」
そういや姉ちゃんも演劇やってたな。ダメ元で聞いてみるか。
「なあ、姉ちゃんって脚本書けたりしないよな」
「脚本? 書けるよ?」
「だよな。ごめん、なんでも──」
ん? 今なんて言った?
「確認するけど、姉ちゃんって脚本書けないよな?」
「だから書けるって言ってんでしょ! 高校でやった演劇の台本書いたのわたしなんだから」
「マジかよ! 身近に書ける人がいるなんてついてんな」
「ねーちゃん頼む! 俺を助けてくれ!」
「やだ」
「即答かよ!」
少しは可愛がってもいいんじゃないか? 休日とか両親が出かけた時とか、料理作ってあげてんだからさ。その分の借りをここで返して欲しい。
「あったりまえでしょ! 太一のクラスでやるんだから、あんたが決めないでどうすんの!? それに、脚本を頼んだ人はあんたに期待してくれたんでしょ? ダメ元でいいんじゃない? 最初から完璧な人なんていないんだしさ、修正しながら進めていけばよくない?」
ド正論すぎて恐れ入った。ぐうの音もでないとはまさにこの時を言うんだろう。そうだよな。小宮さんも黒須も俺に託してくれたんだ。家族以外の他人から期待されたことなんて今までないから新鮮だ。
なんだかやる気が湧いてきた! ちょろいな俺。気分が乗ってきた今のうちに作業に取り掛かるとしよう!
「わかった。俺1人で完成させるよ。けど、アドバイスくらい欲しいんだけど」
「そうねぇ。ヒントを教えるくらいならまあ、いっか」
「で、どんなアドバイスをくれるわけ?」
「ズバリ!」
ズバリ?
「身の回りであったことをよーく思い出すことね!」
「……は?」
「じゃあ、ごゆっくり」
反論する隙も与えないつもりだな。すぐにドアを閉めやがった。ったく、まともなアドバイスをもらえると思ったら。なんだよ、身の回りであったことをよーく思い出すって。そんなんで書けたら誰も苦労しないっての!
文句を言いながらも俺は手を動かし続けた。テーマは決まってる。恋愛要素。そこにメイドを登場させるとなると、主人が必要だよな。金持ちの貴族? 王様? ああ、色々考えすぎて頭がおかしくなりそうだ。俺はマジで頭使う作業って苦手なんだな。
身の回りであったことか。休憩がてらぼんやりと最近で特にインパクトが凄かったのはなんだろうな。ふと10月31日のことを、思い出す。こんなことになるとはあの時の俺は予想していなかっただろう。ドラキュラの格好してたのが懐かしいな。
ん? ドラキュラ?
ドラキュラって城に住んでるイメージが強いよな。ドラキュラ伯爵って呼ばれてるし。てことは住んでる城とか館にメイドがいても不思議じゃない。ここに恋愛要素を含めてみるか。
ドラキュラの館に迷い込んだ1人の女性。女性に恋した主人公の青年ドラキュラは父の教えを破って彼女を館から連れ出そうとする。ドラキュラは人間に自分の正体を明かせば自身は灰になってしまう設定なんか追加したら面白くなりそうだ。
ライティングハイとでもいうのか。書けば書くほど気分が高揚して、次々と点と点が繋がっていく。これならいけるかもしれない。その館にはたくさんの怪物たちがいても不思議じゃない。その分、登場人物は増えるから尚都合がいい。この方向性でいっちょやってみるか!
あとがき
50話? あたりで完結予定です。星やいいね、ファローしていただいた方々、ありがとうございます。毎日更新は厳しいかもしれませんが、完結まで更新していきたいと思っていますので今後もよろしくお願いします。
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