第31話 二つを合わせる!?
「と言うわけで、多数決の結果、このクラスは演劇で決定ね」
マジかよ! てっきり仮装喫茶店の方が人気あるとふんだのに俺の読みが外れた! まさか期待してた方が圧倒的大差で敗北するとは。
そんなに演劇がやりたかったのかよ。まあ、誰かの一存で決められたのではなく、多数決でなら従うまでだ。こうなったらできる限り暇そうな仕事を引き受けることにしよう。仕事を通じて、話したことがない人と仲良くなれるかもな。いや、今までの傾向から可能性は絶望的だけどさ。
「あ、いけない! 大事なこと忘れてた! 各クラス2名の文化祭実行委員も決めなきゃいけないの。一応聞くけど、やりたい人いる?」
雑談していた声がピタリと止む。数秒もすれば
「お前やれよ」
「いや、俺は部活あるし」
「誰かやりなよー」
「私には無理だって!」
日本人特有の押し付け合いが始まった。そりゃそうだよな。文化祭実行委員なんて絶対めんどくさそうな雑用をやらされそうだし。やりたいやつは1人もいない。
「やっぱり誰もやりたがらないわね。じゃあ……」
植木先生の目線が俺たちを見渡す。まさか選ばれたりしないよな。流石にないよね? なんて考えてたら尚更、選出されるんだけどさ。
「小宮さんと黒須くん。お願いできる?」
(俺じゃないのか……)
嬉しさと残念だなと思う気持ちが混合してる。選ばれたのが嫌なやつだったら笑いが込み上げてくるけど、2人とも良い人なんだよな。
「えー! 黒須とやるの!?」
「なんだよ。俺じゃ不満だってのか?」
「別に、そうじゃないけどさー。どうせやるなら夜闇くんと一緒がよかったのになー」
「夜闇と?」
(まさかの俺!? なんで?)
「いや、その……ううん。なんでもない」
慌てて首を振って誤魔化された。一緒になりたいと思う理由がよくわからない。まあ、俺なら適当になんでもやりそうって感じなんだろう。間違っていないのが、少し悔しい。
「2人は周りの人と協力しながらどんな劇にしたいのか明日までに考えてきてね。ジャンルはなんでも構わないけど、あくまで健全なものでお願い」
題材か。色々あるけど、やっぱり人気なのは恋愛が絡んだものだと思うけどな。まあ、俺が気にすることはないだろ。黒須と小宮さんが勝手に決めてくれると思っていた俺は見事に裏切られることになる。
○
放課後。誰もいなくなった教室に残って作戦会議。テーマはもちろん、文化祭でやる劇の題材決めだ。
「よっしゃあ! やるからには面白いやつを作ろうぜ!」
「やることに賛成したわけじゃないんだけどー」
「んなこと言うなよ。やってみたら案外楽しいって! 後悔させないからさ。一緒に頑張ろうぜ?」
「あーあー。ノアちゃんと一緒にメイド服着て接客したかったなー」
ぐ……それはなんとも残念だな。やっぱり喫茶店の方が俺得だったんじゃないのか!?
結果からだいぶ時間が経ったが、敗れたことを受け入れてない小宮さんは、顔を机の上に乗せて項垂れている。
そんな彼女を慰めながらも自分の陣営に取り入れようとする黒須。流石だな。彼女を傷つけないよう、最低限フォローしているのがわかる。モテるやつってこういうところが違うんだろうな。
そんな2人に加えて、なぜか俺も机を合わせて座っている。
なんで俺がここにいるわけ? 俺、実行委員になった覚えはないんだけど。
「俺、帰っていいか?」
机から立ち上がり、帰ろうとした俺の腕を黒須が掴んだ。俺をここから帰さないつもりらしい。
「植木ちゃんがさー、実行委員だけで決めないで周りの人と相談しながらやる内容を決めろって言ってたよな?」
いや、わかるけどさ。別に俺じゃなくてもよくないか? もっと適任者がいるだろ。俺を学校から解放してくれ。
「それがよー。知り合いの奴らにも協力するように声かけたんだけどな。部活があるだのバイトがあるだの奇跡的に全員用事があって行っちまったんだよ」
それは奇跡的とは言わない。めんどくさそうだから逃げられたと世間では言う。仕方ない。少しだけ付き合ってやるか。
「演劇の題材かー。桃太郎とかでいいかな?」
まさかの提案が小宮さんから飛んできた。やけになって適当に決めるのだけは勘弁してください。当日になってからやっぱ無理だわーとか言っても修正はできないからな!?
「一応聞くけど、鬼は誰がやるんだ?」
「あたしとノアちゃん」
鬼のコスチュームを身に着けた彼女たちの姿を連想する。あの頭にツノを生やして、
うん、完璧だ! って、妄想してる場合か!
「却下」
「えー! 可愛いと思うのに!」
それはわかる。脳内シミュレーションしたから間違いない。むしろこんなかわいい鬼がいるかって思うくらい似合ってる。新しい性癖の扉が開きかけた。これほどかわいい女子の鬼たちを討伐したら悪いのは桃太郎の方になるという最悪の展開しか見えない。それはそれで面白そうだけどさ。
「俺もやめた方がいいと思うぜ? だってよ、登場人物が少なすぎね? もっとたくさん出るようなやつがいいだろ」
「そうかなー。太一くんはどう思う?」
「まあ、おおむね黒須の意見に同意だな」
「おー! 気が合うじゃん夜闇!」
味方がいなくなり、むーっと頬を膨らませる小宮さん。ご機嫌斜めのようだ。怒ってるはずなのに小動物系のかわいさがある。ハムスター的なやつだ。
「じゃあ何か他のアイデア出してよ」
黒須のやつは俺に「任せた」みたいな視線を送ったまま微動だにしない。せっかくここにいるんだからな。自分の意見くらいは言わせてもらうか。
「そうだな……メイド服が着たかったんなら、メイドが登場する内容の劇にしたらいいんじゃない?」
「ん? どういうこと?」
「ほら、演じる際には衣装が必要だろ? だから、配役でメイド役を追加したらいいんじゃないかっていう」
ごくごく当たり前の意見だ。しかし、小宮さんにとっては目から鱗。あるいは灯台下暗しだったのか、目を丸くして俺のことを見つめている。なんで一言も反応してくれないわけ? 時間止まってないよな?
「……そうだよ! メイドさんが登場する題材にすれば良いんだよね!」
「うし! 決まったな。それじゃあその方向で! 進めるとするか!」
それから1時間が過ぎた。手詰まりになったのか、2人の顔が息を合わせたシンクロのように俺の方を見てピタリと止まる。なんだよ。2人とも、俺の顔を見て。
「俺の顔に何かついてる?」
「なあ、夜闇……」
「ねえ、太一くん……」
「「脚本お願いします!」」
ほんと、神様はいないんじゃないのかと常々思う。これを理不尽と言わずしてなんというんだろうな。
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