第30話 文化祭の出し物決め!?
林間学習から一週間が経過した教室では、次のイベントに向けての会議が開かれていた。既に昼食を食べて眠いけど、俺にも関係ある話だからスヤスヤと寝ているわけにはいかない。何をするのか聞いてなかったなんてことがあったらやばいからな。
「文化祭に向けてそろそろクラスで何をやるか決めて提出しないといけないんだけど。何かアイデアのある人いる?」
そう。高校生にとって楽しいイベントランキングベスト3に入るであろう文化祭がまもなく開催する。うちの高校はクリスマスの24日が文化祭の日となっている。でも、なんでクリスマスに? それは俺が知りたい。この高校、こういうところは変わってるよな。創設者のおっさんが軽い気持ちで始めたに違いない。
リア充たちざまあみろ。学校もグルになってお前たちの自由にはさせないつもりだ。俺としては助かる。なぜなら、クリスマスの言い訳ができるからな。
「どうせ今年も予定ないんでしょ? まあ、あんたには無理か」
と姉に笑われることもない。
「今年も1人で過ごすのね。誰がいい人いないの? お母さんが若い頃はね──」
と母の嘘かほんとかわからない昔話を聞くこともない。
「太一も大変だな」
と父から俺の心境を同情する温かい目を感じることもない。
「ちょっとみんな。何かアイデアのある人はいないの?」
「なんでクリスマスにやるんだよ。普通11月くらいにやるよな? 俺、その日デートする予定だったのに」
「うわー。その日かれぴと約束あったのにー」
「正直、休みたいよなー。でも俺、皆勤賞狙ってるから行かなきゃじゃん」
意見が出てくるどころかクラスから出るのは日程に関しての文句のみ。植木先生の顔がだんだん暗くなっていく。可哀想に。将来、教師になるのだけはやめといた方がいいな。そんな状況に植木先生はやれやれと大きなため息をついて、
「それじゃあ、近くの人と話して何か意見をだしておいてね。しばらく職員室に行ってくるから」
そう言って植木先生は教室から出て行った。担任の目が無くなったことでなおさらクラスメイトたちはガヤガヤと騒ぎ出す。
「なあ、お前はなにがいいと思う?」
「適当でいいんじゃね?」
「あーし、可愛い系の店とかやりたいんだけど」
俺はこういう近くの人となにかしてねー的なやつが嫌いだった。大体グループができてないあまり物になってたからな。けど、過去の俺とはおさらばした。今の俺には友達と呼べる人が近くにいる。
「クラスで出し物かぁ……太一くんは何がいいと思う?」
「俺? そうだなー」
できれば準備が楽で、当日もあんまり大変じゃないやつがいいな。うーん、とにかく楽なもの。楽なものだと……
「展示とか?」
頑張れば1日で作業が終わると思う。題材としては学校の歴史! とかでいいと思う。ネットでコピってくればすぐ出てくるだろ。大変なのは模造紙への写しやパネル作成くらいだし、楽したいなら1番だろ。
「つまんない」
小宮さんは信じられないものを見るような目で俺を見てる。そんな目で見ないでくれ。
「じゃあ休憩所とか?」
「それもなし! 高校生になって初めての文化祭なんだよ!? もっと面白そうなやつにした方がいいって!」
小宮さん。熱く語ってるところ申し訳ないけど、3回も機会があるんだぜ? そこまで熱中するほどでもないんじゃないのか? 留年したら上限は増えるし。ていうか、高校って何年まで留年できるんだ?
「ノアちゃんもそう思うよね?」
賛同を求めるな。隣の彼女がそうですね。なんて言ったら俺が悪者になるだろ!
「その通り!」
前に座る黒須が振り向き、俺に身を乗り出してきた。なんだよ急に。
「小宮ちゃんの言う通りだ。展示とかしょうもないやつよりパーっとするようなやつをした方が思い出になるだろ? 夜闇もその方が絶対楽しいって!」
うんうん頷いて黒須の言葉に同意する小宮さん。
「いやー、黒須くん。わかってるねー」
「まあな、せっかくの文化祭ならできるだけ楽しんだ方がいいだろ!」
パチンと互いの手を叩き、俺を挟んで謎の同盟が結ばれた。これがオセロなら俺も彼らと同じ意見にならざるを得ないが人間様なので関係ない。意思は曲げない。そのつもりだけどさ、このままじゃ俺が悪者みたいじゃん。俺がおかしいの?
隣を見るとノアさんは顎に手を当てて何やら考え事をしている。
「文化祭で1番人気なのはなんですか?」
「そりゃあ、展示が1番人気に決まって──」
「太一くんは黙ってて」
「すみません」
冗談はさておき、高校の文化祭って何が人気なんだろうな。メイド喫茶とかじゃねえのかな。俺たちもやったらいい。うちのクラスにはノアさんをはじめ、可愛い子がたくさんいるんだし。金稼ぐことを第一に考えたらめちゃくちゃ効率いいだろうし。悪い点があるとすれば、彼女たちが衣装を着てくれるかわからない点だな。
「やっぱり人気なのは仮装喫茶店じゃないかな?」
「やっぱり人気なのは劇じゃねえの?」
小宮さんと黒須の声が重なる。顔を合わせる2人。周りの空気が冷たくなった。かと思えば2人の目からバチバチと音を立ててビームが発射されてる。もちろん出てはいない。けど、俺の目にはそう見えてんだよな。
「劇はないでしょ! 素人がそう簡単に手を出せるもんじゃないと思うし」
「仮装喫茶店もないだろ! クラス全員が一丸となってやるには劇が1番いいに決まってるさ」
「仮装喫茶店がいいはず!」
「劇のが良いに決まってる!」
「なあ、周りのみんなも驚いてるし、その辺に──」
「「っ……!」」
白熱した言い合いを止めようとしたけど2人から舌打ちが飛んできたから身を引いた。
「楽しそうですね」
この光景を見てどんな感性をしてたらそんな言葉が出てくるんだか。小学校の教室で行われてた言い合いみたいだ。
そのあと最終候補は2つに絞られた。小宮さん筆頭の仮装喫茶店。黒須筆頭の演劇。明日のHRに多数決で決まるらしい。俺としてはどっちもめんどくさそうだけど、喫茶店の方がいいかな。メイド服を着たノアさんを見れるに違いない。俺が彼女にリクエストすればの話だけどさ。
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