第29話 林間学習の後に新たな美少女!?
「ただいまー」
「おー! 帰ったか我が使い魔よ! 我はたいそうお主の帰りを待っておったぞ!」
俺が家にいない間に姉が厨二病になってる。何がきっかけだ? 大学でアニメ好きな男友達でもできたのか?
「太一リアクション薄ーい!」
悪かったな。咄嗟にリアクションができたら俺は芸人を目指してる。
「帰ってきて早々なんだよ。俺めちゃめちゃ疲れてんだけど」
「お友達できた?」
ああ、元々仲良かった彼女たちと晴れて友達になれたと思う。連絡先を互いに知ってるし、呼んだらすぐに来てくれるくらいの仲には進展したからな。
「できたよ」
「へえ、いつもなら「俺はそんなの求めてないから」とか「友達? 友達の定義ってなんだよ」とか言ってたのにねー。弟が成長してお姉ちゃんも嬉しいよ」
いつもそんなこと言ってないだろ。俺をどんな弟だと思ってんだ。
「やっぱり楽しかったんだ」
「普通に楽しめたよ」
正直、普通どころじゃない。色々あったけどかなり楽しい林間学習だったな。帰りのバスでやったババ抜きも普通に面白かったな。何せ俺以外の3人とも顔に出るタイプだ。誰がババを持ってんのか丸わかりなんだよな。俺以上にポーカーフェイスが下手なのかもしれない。シートベルト外して楽しんでたのは運転手に謝罪しなきゃだけどさ。
「女の子と仲良くなれた?」
「……仲良くは、まあ、なれましたけど」
俺の脳裏に昨夜の光景が浮かぶ。まだ1日しか経ってないこともあって鮮明に覚えてる。あの感触は今まで味わったことがなかったからな。
「ははーん。さては、良い経験をしたみたいね」
「ノーコメント」
なんで俺の知ってる女性はみんな俺の心が見えんだよ! 全女性エスパー計画が俺の知らないところで始動してたのか?
「ただいまー。あら? 太一もう帰ったの?」
「おかあさーん! 太一にようやく春がきたかもー!」
「太一に春? 来るわけないでしょ」
「そうかもねー」
ゲラゲラ笑いながら語る女性陣。林間学習、あと一週間くらいあった方が良かったかもな。
○
「さーて! 寝るぞー!」
今日はバイトもないから、ゆっくりできそうだな。昨日はあんまり寝てないから存分に睡眠を楽しむとしよう。
できれば面白そうな夢が見れたらいいな。バタンとベッドに倒れ込み、夢を見始めたのも束の間。スマホに着信。一気に現実に引き戻された。
(誰だよ! せっかく人がいい夢見ようって時に)
画面に映る連絡先は──
(店長?)
よりによってこんな時にかけてくるか? 嫌な予感しかしないんだけど。無視を決め込んでシカトするのもいいけど、次会った時に誤魔化すことなんかできるはずがない。自分でボロを出して結局バレる未来が見えたからとりあえず出てみるか。
「はい」
『もしもしー? 太一?』
「俺の携帯にかけてんだから俺が出ますよ」
『それもそっか。実はね、お願いがあるんだけど。今からウチに来れる?』
嫌な予感的中。
「店長。俺、林間学習から帰ってきたばっかで疲れてるんですけど」
『それがね聞いてよー! 今日手伝ってくれるはずのゆきのちゃんが急に予定ができちゃってさー。人手が足りなくなっちゃったの』
「雪野がいなくても平気じゃないんですか? 1人でもなんとかなるってこの前言ってたじゃないですか」
『それがねー。急な注文を引き受けちゃってー。1人じゃ納品が間に合わないのよー』
「完全な自業自得じゃないですか。悪いですけど俺、今日はもうまともな活躍はできないですよ? 午前中は山に登ってたんでスタミナないですから」
『わかった! それじゃあ、バイト代とはべつに五千円でどう?」
金で釣るつもりか! 汚い。実に汚いやりかた。
「すぐ行きます!」
通話終了を押し、即座に部屋から飛び出す。目指すはケーキ屋ゆきの。樋口のお姉さまが俺の到着を待ってる!
○
「つ、疲れた……」
ケーキ屋から出てきての第一声。相変わらず店長は人使いが荒いんだから。いい加減に俺以外のバイトを雇ってくれ。そしたらこんなことも起きないんだからさ。あー、体は限界が近い。寄り道なんかしないで真っ直ぐ帰ってさっさと寝よう。風呂も明日の朝に入ればいいや。待ってろよ俺のフカフカベッド今行ってやるからなー。
駅まで亡者のようにヨロヨロと歩いていると
「あなたたちさっきからなんですか!?」
(うおっ! 急になんだよ。びっくりするなあ)
路地裏の方から女子の怒号が聞こえた。声のした方を見ると数人の男子と1人の女子がいる。男たちのしつこいナンパに女子の方がうんざりしたって感じだな。やろう達はともかく、女子の方は後ろ姿しか見えないからどんな顔をしてるのわからない。けど、年齢は俺より下っぽいな。肩のあたりまで伸びた銀髪のボブカットがよく似合ってる。髪色的にハーフ? それとも外国の人かな。にしては日本語がえらくお上手なことで。
「まあまあ大きな声出すなって。何も悪いことしてるんじゃないからさ」
「いい加減にしてください。これ以上しつこいなら警察を呼びますよ」
俺には関係ない。
「何言ってんだよ。ていうか、断れるとでも思ってるわけ? 人数差を考えろよ」
「あなたたち……何かしたら許さないから!」
俺には……関係ない。
「あっそ。ま、許すか許さないかは俺たちが決めるからそのつもりで」
俺は……黙って見てられるほど大人じゃない。自然と足が動く。気がつけば少女の前に俺は立っていた。
「あ? なんだお前」
別に。たまたま近くを通ったバイト帰りの高校生だよ。
「黙ってねえでなんか言えよてめえ!」
パキパキ鳴らして俺たちを威嚇してくる。そんなに鳴らしたところでビビると思うか? 正直、トイレに行かせてくれ。
俺は後ろの女子にしか聞こえないくらいの声で
「足の速さに自信ある?」
「え? それなりかな」
「スタミナは?」
「それなりにある方だと思うけど、その質問って関係ある? まさかあんた」
ああ、そのまさかだ。それなりに体格の良い連中に囲まれたこの状況。俺が連中に勝てるとでも? 殴り合いなら無理でも足でなら勝機はある。
「あーーー!」
「なんだ!?」
連中の意識が俺の指差す方向に向いた今のうちだ。この間にさっさと逃げるぞ!
「なんだよ、何もねえじゃねえかって、お前! 待ちやがれ!」
待ちやがれって言って誰が待つかよ。何もしないってんなら立ち止まってやるかもな。
途中で路地裏に入って連中を撒けた。今頃存在しない俺たちの幻影を追いかけてんな。ざまあみろ。この辺の地形に詳しくてよかった。
「平気みたいだな」
「う、うん」
「日も落ちればああいう連中も増えるから気をつけろよ。可愛いから大変だと思うけどさ」
「か、かわいい? かわいくないし……」
素直な感想を言っただけなのに何をぶつぶつ言ってんだろ。まあ、いいか。これにて一件落着。俺は自宅に帰る任務を再開する。
「じゃ、俺の家はこっち方面だから」
駅に向かおうと振り向いたところで声をかけられた。
「あのっ!」
「ん?」
「あ、ありがと」
俺に向けられた彼女の顔は快晴そのものだった。どこか見覚えのあるような彼女の笑みに思わず俺の口元も緩んだ。
「どういたしまして」
電車に乗るタイミングで大事なことを思い出した。
(やべっ、名前聞くの忘れた。ま、いっか。もう会わないだろうし)
あとがきです
これにて林間学習編? は終了になります。次のイベントは文化祭。太一たちのクラスが何をするのかお楽しみください。
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