第23話 肝試しのペアがノアさん!?

 その後は近くの学習センターで簡単な勉強を挟み、時刻は午後8時。夕食を食べ終えた俺たちは学習施設の裏にある林に集められた。


「それじゃあ、毎年恒例! ドキドキ肝試しについて説明するわね」

「いえーーい!」


 植木先生の言葉に男子たちのボルテージが上がる。この日を待ち望んでいたに違いない。11月末にもなると流石に冷えるな。こんな季節にオバケなんて出るわけないだろなんて正論は無視だ。


「これから二人一組のペアになってもらいます。ここからまっすぐ行くと二つの分かれ道があるから、そこを左に曲がってね。その先に小さな神社があって、境内に石が置かれているから各自1つ取って帰ってくること」


 ふむふむ。ルートは簡単。あとは道中に出てくる脅かし役に気をつけろってくらいか。


 みんなの方から質問はある? と先生が聞き、真っ先に黒須が手を挙げた。


「はいはい! 植木ちゃんに質問!」

「ちゃん?」

「植木先生……に質問です」

「はい黒須くん。どうぞ」


 よろしいと言わんばかりの頷きを確認した黒須が続ける。


「2人のペア決めは何で決めるんですか? バスの時みたいに教室の席と同じじゃないですよね?」


 遠回しにルイスとのペアが嫌だと言ってるな。当の本人はキリッとしたまま一歩も動いていないから気にする必要はないとは思うけど。聞こえてないのか、聞くつもりがないのかよくわかんねえ。


「よく聞いてくれました。今回のペアについては公平なクジで決めます。その方がみんなも楽しいでしょ? ちなみに、男子と女子でクジは分かれてるから必ず異性とのペアになるわ」

「おおおっ!」


 またもや歓声が上がる。盛り上がってんなー男子たち。理由はノアさんや小宮さんといった美少女とペアになる可能性があるからだろうな。彼女たちの相手になる確率は決して低くない。宝くじの一等なんかより全然当たりやすい。


「それじゃあ、準備できた人から引きに来て」

「おおおおおおっ!!!!!」


 一目散に植木先生の元に駆け寄る男子たち。さながら正月の福袋争奪戦みたいに我先に引いていく。


(す、すげぇ。なんて迫力だ! そんなに本気なのかよ)



 ○



「はい、最後は夜闇くん。引いてないのは君だけだよ」

「……そうですか」


 完全にスタートダッシュを乗り遅れた俺は必然的にあまったクジを引くことになる。


「男の子はみんな必死だったのに、夜闇君は冷静だね」

「冷静じゃないです。単純にビビって近づけなかっただけなんで」


 あんな殺気の目を見たらくじ引きがトラウマになるっての。


「そう? でも、余り物には福があるっていうから、あんまり気を落とさないで。きっといいことがあるわ」


 先生。そういうフラグはやめてください。担任から哀れみを込めた慰めの言葉を貰いながらくじを引いた。周りからいろんな声が聞こえてくる。俺よりも先にクジを引いた連中からだ。


「うわー、あいつと一緒とか最悪なんだけど」

「え、あんた黒須君と一緒なの? よかったじゃん!」

「ペアはあいつじゃーん。交換して欲しいよー。え? だって、デリカシーないじゃん」


 相手から「交換して欲しい」なんて言われたら2日は寝込む。優しい人なら誰でもいい。お願いします。クジを開き、おそるおそる目を開ける。俺の紙に記載されていたのはD。


 辺りを見ると既にみんなペアが出来上がっているようだ。けど、俺と同じクジを持った人はどこにいるんだろ。


「ねぇー、Dの人いるー?」


 今まで聞いたことがない声で呼ばれた。多分、全然話したことのない女子が俺のペアに違いない。嬉しいような少し寂しいような。ともかく俺を呼んでるあの子とこの機会に仲良くなれるかも!


「はい! 俺が──」


(痛って……)


 声のした方に向かう途中、ガタイのいいやつとぶつかった。


「あ、悪い。平気か?」

「ああ、大丈夫」


 体格の割に優しい声。おおっといけないいけない。手に持ってたクジを落としちまった。地面に落ちたのを拾おうとするが……


(あれ? なんで2枚もあるんだ?)


 さてはぶつかった拍子に彼も落としたんだな。見たところ友人と仲良く話しているからまだ相手が誰なのか判明してないな。ペアが見つかる前に気づいてよかった。


「なあ」

「ん?」

「クジ、落ちてたよ」

「おお、サンキュー。まだ見てなかったんだよ」


 相手に渡したところで俺の元に小宮さんが駆け寄ってきた。


「太一くんは誰とペア?」

「俺はまだペアの人と会ってないからわかん──」

「あたしはねー、ルイスくんと一緒だったよ!」


 訊ねたんなら最後まで話を聞かんかい!


「俺のくじはDだよって……あれ?」

「どうしたの?」

「いや、その……」


 俺の手元にある紙に記載されているのはアルファベットのM。さっきまで持ってたのはD。


 やばいっ! 落とした時に入れ替わったんだ! すぐに取り替えないと。


「やったー! 立花くんがあたしのペア?」

「はははっ、よろしくね」

「んーん。こちらこそ」


 本来の持ち主である立花くんは既に俺が組むはずだったペアを見つけて仲睦まじい雰囲気だ。こりゃ無理だな。大人しく引き下がろう。今更「あなたのクジはこっちなんです!」なんてって言ったら雰囲気をぶち壊すことになる。


「それじゃあ、みんな。自分たちのペアを確認したわね。アルファベットの若い方から順次行ってもらうからねー」


 1組目のペアが行き、帰ってくると2組目が行く。何度も繰り返し、最後に残ったのは俺ともう1人。


 ノアさんだ。


 なんでこうなるんだよ! むしろありがとうございます!

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