第22話 ドタバタのカレー作り!?

 (嘘だろ……)


 俺の見間違えか? 配られた班分けの紙を上から3回見直しても記載されてる内容は変わらない。俺たちのクラスは全部で28人だから4人班に分けると全部で7班できる。流石にノアさんとルイスは2人でワンセットだとしても俺か小宮さんのどちらかは分かれると思ったのに。


「わぁ! 太一くんたちと一緒だ! こんな時もあるんだねー!」

「わたしも嬉しい。美春ちゃんやその……太一君も一緒で」


 ま、マジ? ノアさんにそう言ってもらえるなら悪くないな、うん。


「私も皆様と同じ班に加わることができて光栄です」


 お前はお嬢と一緒ならどこだっていいだろうが! と思ったが口に出すのをやめとく。けど、どんな経緯で俺たち4人を同じ班にしたのか植木先生から教えてほしいもんだ。面倒だから近い人で班を作ったりして。


「ックシュン!」

「植木先生、かぜ?」

「ううん。誰か私のこと噂してるのかしら?」


 いや、まさか……ね。にしても黒須のやつは嬉しそうだったな。まあ、あいつの気持ちもわかる。行きのバスで隣がルイスだから緊張が取れなかったに違いない。


「それじゃあ、材料は既にあるみたいだし、早速手分けしてカレー作ろっか! どこの班よりも美味しいやつを目指すよー!」

「おー!」


 料理する俺の力を存分に発揮するせっかくの機会だ。ま、どうせ3人とも料理は得意なんだろうから俺は食器洗いとか野菜の皮むきくらいしかやることないんだろうな。


 ……俺じゃなくても良くないか?


 ○


 カレー。その期限はとても古く、16世紀にまで遡るらしい。語源の由来はスパイスを入れて煮込んだカリから派生した、あるいは美味しいを意味するターカリーが英語に派生したとも言われている。


 各家庭において味が変化する料理の一種。多数の友人を自宅に招いた際に作られる料理ランキングにおいて不動の第1位を誇る。俺には縁のないランキングだけど。


 カレーの作り方は実にシンプルだ。野菜を切って、炒めて、水を入れて、最後にルーを入れて軽く煮込めば完成だ。


(うし、こんなもんか)


 じゃがいもと玉ねぎの皮剥きと切り分け終了! 下ごしらえ作業って無心になれるから好きなんだよな。さて、俺のやるべき仕事はこれでおしまい。ほかのみんなはどんな感じだ? 暇だし、ちょっと見てみるか。


(お……やってるやってる)


 俺の視界にルイスの姿が映った。彼は小宮さんと野菜を担当している。ちゃんとやってんな。ちょっと待て。まな板と包丁があるのは当然なんだが、なんで定規が一緒に置いてあるんだ?


「なにやってんだ?」

「見てわからないか? 人参を切っているところだ」


 そう言ってボウルを指差すルイス。確かにそこには均等に切られたにんじんが入ってる。


 けど、正直遅くないか? まだ半分も残ってんじゃん。


「気になってたんだけどさ、なんで定規がここにあるんだ?」

「む。これを見てもらってもいいか?」


 そう言って懐から出してきた一枚の紙を見る。なになに。


(これって……あー)


 シェフパッドに掲載されているカレーのレシピ。シェフパッドは俺も使ったことがある。これ便利だよな。掲載されてる手順通りに作ればまず、失敗しない。


「見たけど?」

「ここに記載されているだろう? 人参は五センチほどの大きさに切ると」

「それがどうしたんだよ」


 何を言いたいのかわからない。嫌な予感がする。まな板に置かれた定規。レシピの記載。それらのアイテムが一つの回答を導き出した。


「まさかお前……」

「うむ。長さを均一に揃えているのだが、何か問題でもあるのか?」

「お前……馬鹿なのか頭いいのかわかんねえな」


 いちいち長さを測って切ってんのかこいつは! んなことしてたら日が暮れるって!


「カチカチだな! そんなにこだわる必要なんてないだろ」

「しかし、5センチがどの程度なのか私はわからないぞ?」

「大体でいいんだよこういうのは。ほら、小宮さんを見てみろ。彼女だって──」


 適当に切ってるだろ? そう言おうとした俺の口がポカンと空いたまま塞がらない。


「ふふーん!」


 ダンッ!


「ふんふーん!」


 ダンッ!


 呑気に鼻歌を奏でながら包丁を振り下ろしている。そこまではいい。問題なのは人参を三等分すると真ん中だけ残して上下二つをポイッと袋に入れてることだ。


(待て待て待て! まさかあれ、捨てるつもりか?)


「ストッープ!」

「わぁ!? びっくりした」

「ちょっと見るぞ」


 ガサガサ。


 袋の中を拝見するとやはりというべきか、大雑把に切られた野菜が入っている。


「え! この部分って捨てるんじゃないの!?」


 食べ物を粗末にするんじゃありません! 人参の中央部分だけ使うなんて聞いたことねえぞ。


「小宮さんはこれをやり直して」


 あとはノアさんだ。彼女は野菜と肉担当なはずだけどって、こっちも待った!


「ストップ!」


 俺の声にビクッと反応するノアさん。


「なにか問題でもありましたか!?」

「そんな切り方してたら指を一緒に切るって! ひょっとして料理は初めて?」

「はい。料理経験は全くないんです。お恥ずかしい」


 美少女はコクリと頷く。別に恥ずかしいことじゃない。俺だって生まれてすぐに料理できたわけじゃないし。


「そっか。じゃあ、包丁の使い方から教えるよ」


 ○


「最初はこう……猫の手を作ると指が切れないから安全だよ」

「こうですか?」

「いや、こんな感じ……」


 震える彼女の手に重なるようにして猫の手を作る。教えるにはこの方法が1番手っ取り早いんだよな。


「どうかした?」

「いえ……なんでもない……です」


 顔が真っ赤になってる。それにそっぽを向いて俺と目も合わせてくれない。恥ずかしいんだよな。俺なんかに教わって。


 その後は順調に進むかと思われたが──


「なあ夜闇、ここに玉ねぎを飴色まで炒めるとあるが、飴色とはどんな色だ?」

「……俺がやっとく」

「太一くん、えっと、切ったお肉はここでいいですか?」

「え? もう切り終わったの? ありがと」

「ねえ太一くん! お米って洗剤で洗った方がいいのかなー?」

「んなわけないだろ!」


 そんなこんなで俺たち特製のカレーは完成。


(あー、疲れた)


 1人で作った方が全然楽だな。次は絶対に小宮さんやルイスとは違う班にしてくれと切に願いながら、俺はカレーを堪能した。その最中、


「あの! よかったらこちらのカレーを貰ってもいいですか?」 


 クラスメイトの男子たちが皿を持って俺たちのところに来た。作りすぎたくらいだから是非持ってってくれ。


「わぁぁ、ありがとうございます! んー! めちゃくちゃうまいです!」

「こんなにも美味しいカレーを食べたことありません! いやー、ノアさんが作ったカレーを食べることができるなんて本当に俺たちは幸せもんだなぁ」


 涙を流しながらカレーを頬張る男子たち。


「それ、ほとんど太一くんが──」

「ごほんっ!」


 小宮さんが真実を言う前に咳き込んで静止させる。ほとんど俺が作ったという事実は伏せておいた方がいい。その方がお互い幸せだ。

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