第21話 林間学習!?

「じゃあみんな。これから点呼していくからねー」


 植木先生の呼び声に返事するクラス一同。いよいよ今日から1泊2日の林間学習が始まる。大自然の中、班に分かれて昼食を作ったり、自由行動したり、一部の生徒は好きな人に告白したり……最後のは余計かもしれない。ともかく、クラス内で親睦を深まることが目的だそうだ。


 元々開催が予定されていた時期の6月から色々と問題が生じた結果、11月も終わりを告げる今日まで遅れることになった。


 もはや年末が近いため、クラス内では各自のグループが既に出来上がっている。


 例えば、みんなと交流するのが好きなアウトドア系、1人でいるのが気楽なインドア系、ファッション好き系、アニメ大好きオタク系、などなど。


 俺はどこに所属しているんだろう。自分でもよくわかんねぇ。カメレオンみたいに上手くクラス内に溶け込んでるからな。


 林間学習を機に新しい友達を作りたい! なんて思ってるのは少数だろう。だが俺にとっては重要なイベントだ。なぜなら、新しい男友達が欲しいからさ!


 ノアさんたちと仲良くなれたのはいいけども、俺を見てる男子たちから発せられる殺気が日に日に強いんだよな。


 このままだと完全に孤立してもおかしくない。そうなる前になんとか脱出しなきゃなんねえ。別に何人も欲しいと高望みするつもりもない。けど、同性の友人がクラスに1人もいないのは精神上くるものがある。今のところ1番距離が近い同性がルイスだけってのも俺としては悲しいポイントだ。


 ちなみにバスの席は自由ではなく教室の座席順になっているので、必然的に俺の隣はノアさんだ。他の席に座ってる男子たちは常に殺気を俺に向けて放ってるから絶対寝れない。心臓に良くないって。植木先生も少しは考えてくれよ。隣が他のクラスメイトだったらどんなに楽なことか。あ、ルイスは勘弁な。


「太一くん良かったら食べる?」

「ん?」


 後ろの席から明るい声と共に一本の何かが俺に差し出された。チョコでコーティングされた棒状のお菓子。最後のひと口までチョコたっぷりで有名なパッキーだ。差し出したはいいものの、俺が受け取らないので小宮さんは首を傾げる。


「あれ? 太一君ってパッキー嫌い?」

「いや、好きだけど。なんで?」

「なんでって、お菓子あげるのがそんなに珍しい?」

「じゃなくて、なんでもうお菓子食べてるわけ!? まだ出発すらしてないだろ!?」


 せめて高速乗ってからじゃねえの? 朝ご飯食べてから2時間も経ってないだろ。


「あはは。恥ずかしながらお腹が空いちゃって」


 さては朝食を抜いてきたな。寝付けなくて寝坊でもしたのか?


「バレたら面倒だからしまっときなよ」

「えー、だってもう開けちゃったし。溶けちゃうもん」

「いいからしまっとけ」


 こういう時に限って見つかるもんなんだよ。


「あら? 小宮さん。美味しそうなもの持ってるわね」


(げ……)


 ちょうど俺たちを点呼しにきた植木先生に見つかった。


 ほらみろ。バレた。フラグって怖い。巻き添えなんて食らいたくないから俺は光速で後ろを向いていた姿勢を正す。


 カンケイアリマセン。オレ、ムザイデス。あー、外は曇りだなー。晴れたらいいなー。


「あ、植木先生も食べる? パッキー」


 あげるな、やめとけって。怒号が飛んでくることを察して俺は両手で耳を塞ぐ準備に入る。


「ありがとう。一本もらってもいい?」


(え……)


「もちろんですよー! 一本でも二本でもどうぞー!」

「それじゃあ、いただくわね。えーと、夜闇くん、ノアさん、小宮さんもちゃんといるっと……」


 俺たちを確認すると後ろの方へ行ってしまった。マジかよ。怒らねえんだ。やっぱり植木先生ってよくわかんない担任だよな。


「怒られなかったねー」


 なんだよその顔。ふふんっと軽く鼻息しなが小宮さん渾身のドヤ顔が俺を見つめてる。


「美味しそうですね。チョコレートですか?」

「外国にはこういうお菓子ないの?」

「そうですね。似たようなものは見たことありますけど、こちらは食べたことないです」

「そうなの!? ノアちゃん、食べてみて! 美味しいから!」

「ちなみにだが、チョコレートの語源は知っているか? 起源は古く、遡ること──」


 無理やり入ってくんな。前の席からお経のように流れてくる講釈を無視してパッキーを食べる。うん、うまい。旅のお菓子といえばこれだよな。


「林間学習、楽しみですね。いろんな風景が見れそうです」

「ノアさんが住んでたところも自然はあったでしょ?」

「ええ。でも日本でしか見られない光景もあると聞きます。お天気が良くなるといいですね」


 確かに。地域によって生えてる植物が違うからな。スマホの天気予報によると今日は曇り、のちに雨。コンディションとして最高とは言い難い。雨雲たち、空気読めよ。美少女がこれから行くんだから気を損ねるようなことなんかしてみろ。俺が許さん。


 今更だけど俺、ちゃんとノアさんと話せるようになってきてるな! 最初の時と比べたら雲泥の差だ。小さくガッツポーズしたのを隣の美少女が不思議そうに見ていた。


「太一くん。どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」


(あれ?)


「ノアさん。今、俺のこと名前で呼んだ?」

「あ、ごめんなさい。嫌でしたか?」

「全然。むしろ……」


 君付けとはいえ、下の名前で呼ばれる。それは流石に反則じゃないか? やばい、照れが隠せない。俺の顔、絶対に真っ赤だろうな。


「むしろ?」

「なんでもない。とにかく、俺は嫌じゃないから好きなように呼んで……いいです」

「はい。呼ばせていただきます」


 ニコッと俺に向けられた満面の笑み。めちゃくちゃ可愛い。天使だ。天使が降臨している。


「はい。全員ちゃんといるわね。それじゃあ、いきましょう!」



 ○



 途中のサービスエリアに寄って休憩をとり、バスに揺られる。隣のノアさんが気持ちよさそうにスヤスヤ眠る中、俺たちは目的地に着いた。


「んー! やっと着いたか」


 降りて最初に出た言葉だ。とにかく腰が痛い。ほとんど座りっぱなしだったからな。それに一睡もできなかったし。正直なところ、一時間くらい仮眠したい。


「おー! なんか、歴史を感じる見た目って感じだね、太一君」

「そうだな」


 宿泊施設の外観は年季を感じるものの、内装は今風にリフォームされているらしい。まあ、寝れれば俺はいいんだけど。虫とか苦手じゃないし。


「この後、昼食作りだっけ?」

「そのはず」

「はー、お腹ぺこぺこだよー」


 着いて早々、この後は4人班でのカレー作りだ。なんで同級生でカレーを作るのかなんてことはしらない。お偉いさんの考えることはよくわからん。


 お、植木先生が班分けの用紙を配ってるな。俺も貰ってこよう。さて、誰と一緒かな。話したことのない人とは気まずかなるかもしれないけど、この機会だ。頑張るとするか!

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