第24話 なんでおんぶしたら泣くの!?

 すっかり暗くなった道。俺たちは街灯と渡された懐中電灯の光を頼りに歩いている。まるで神秘の宝を探す冒険家の気分だ。


 神秘的なお宝だって彼女の前だと霞む。先に進む俺の背中に手の感触を感じる。流石に手を繋いで進むのは馴れ馴れしいよな。今の俺たちの距離感を表しているみたいだ。沈黙の空気に耐えられなかったのは俺の方だ。


「まさか俺のペアがノアさんだったなんて。驚いたよ」

「わたしとでは、いやでしたか?」

「え?」


 振り向くと悲しげな顔をして俯く美少女。俺は思わず手と首を横に振って否定する。なんでそんな解釈になる!? 驚いただけだ。嫌なわけないだろ。


「いや、全然。そんなことない! むしろ、嬉しいよ」


 ふふっと笑った顔はやっぱり可愛い。未だに信じられないな。芸能人顔負けの子が同じクラスメイトだなんてさ。


「よかった。同じですね」

「え?」

「わたしも太一君がペアだといいなと思っていたので」

「えっと、それはどういう」

「いえ……その、男性の方で1番安心できる方なので」

「ああ……なるほど」


(このパターンは覚えがある)


 俺の経験上、異性として認識されてないってことだ。俺が告白した相手からもそう言われたんだよな。気が合った女子に対して好意があると見越しての告白だったけど「夜闇君はいい人なんだけど、その……彼氏にするのはちょっと違うかな」なんて言われたのは今でも覚えてる。俺の人生初になる告白は見事に爆発四散したわけだ。


 あれは、フラれたってことでいいんだよな。時折思い出すくらい記憶に残っている。あの子は今、どこで何してるんだろ。肝心の名前を覚えてないんだよな。顔が可愛かったのは覚えてるんだけど。あとでアルバムでも見るか。


「一くん。太一くん?」

「あ、悪い。考え事してたよ」


 ノアさんの発言になんか引っかかるようなこともあるけど、気のせいか。それにしても結構驚かしてくるもんだな。先生か実行委員会の連中がやっているのか、こんなクソ寒いなかよくやるよな。温かい飲み物でも差し入れしたいくらいだ。


 ちなみにホラーの類は大嫌いだ。特に突然驚かして心臓に悪い系は生み出したやつをぶん殴ってやりたいくらい憎んでいる。別に違うからな? 夜中にトイレに行けなくなるなんてことはないから……多分。立ち止まっている


 ガサリ!


 突如、茂みの中から何かが飛び出してきた。


「きゃっ!」

「危ないっ!」


 バランスを崩したノアさんの身体を支えようと彼女の手を掴んで引き寄せた。


「大丈夫か!?」

「あ、ありがとう」


 めちゃくちゃ至近距離。小さな光が俺たちを照らす。先に耐えられなかったのは俺の方だ。あまりにも綺麗な瞳に吸い込まれそうになり、慌てて視線を逸らす。


「危なかったなー! いやー、この辺は動物も多いかもな」

「ありがとうございま……っ!」


 ノアさんが顔をしかめている。なにかあったのだろうか。彼女の視線がチラッと足付近に移ったのを俺は見逃さなかった。


「ノアさん。ひょっとして、足を怪我してる?」

「……ごめんなさい。実は驚いた時に足を挫いてしまったみたいで」


 マジかよ! 捻挫ってことだよな。応急処置の方法とか知らねえぞ。とにかく安静にしておくのが1番だよな。


「無理に動かないで。ええっと、どうしたら……」

「わたしのことは気にしなくていいので、太一君が先生を呼びに行ってください」

「呼びに行ったって。仮に俺がそうしてる間、ノアさんはどうするつもり?」

「わたしはここで大人しく待っていますから」

「それはダメだ」


 んなことできるわけないだろ。これから寒さも厳しくなるってのに1人にしておけるか! 野生動物だって出るかもしれないのに。とはいえ、どうすっかな。スマホはないから外部への連絡は無理だ。俺を杖代わりに使って歩くのも時間がかかる。なら、この方法しかないな。


「はい」


 俺は背中をノアさんの方に向けてしゃがむ。


「え?」

「その状態じゃ、歩けないだろ? 俺が背負って入口まで連れてくよ」

「で、でも……太一くんが大変なんじゃ」

「気にしないで。女の子1人おんぶして歩くくらいの筋力はあるさ。それに、困ったときは遠慮なく助けを求めていいんだよ?」


 本当はそんな筋力があるとは思えない。女性どころか子供1人おんぶしたことなんかない。けど、困ってる彼女に何かできないかと俺なりに考えた結果だ。何もしないでただ助けを待つなんて選択肢はハナからあてにしてない。


「ほら」

「……うん」


 少し恥ずかしそうにしながらも俺の両肩に手を置いた。あとはここから俺が姿勢を起こせば──


「よっと!」

「……!」

「ごめん。落ち着かないとは思うけど、少しの間だけだから我慢してくれないか?」


 俺と同い年の人を背負ってるはずなのにめちゃくちゃ軽い。ほんとに俺と同じ人間か? これなら余裕だ。今の地点は出発してから10分くらいしか経ってないから帰るのにもあんまり時間はかからないはずだ。


「どうして……」

「ん?」

「どうして太一くんは、そんなに優しいんですか?」


 震える声が背中の方から聞こえて思わず肩越しに振り返る。


 目に涙を浮かべる美少女の顔がそこにあった。


 なんで泣いてんの!? 俺、何か悪いことでもしたか!?




あとがき

 明日は更新できないかもしれません。楽しみにして頂いている方々、申し訳ないです。

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