第15話 待ち合わせ場所にいる!?

 翌日の土曜日。


「そろそろ時間か」


 待ち合わせ場所の広場に着いてから30分が経過している。誘われた身ではあるが、待たせるわけにはいかないからな。こういうのは予定時間より早く来ておいた方が得策だ。俺は緊張が緩和するし、相手からは好印象を得られる。まさに一石二鳥だ。


 とはいえ、流石に張り切りなんじゃないのか?


 まさか、かしこまった時にしか着ないような服を家族の女連中に着せられることになるとは。いつも通りのパーカーに黒パンツというシンプルな格好で行こうとした時にうっかり姉に話した俺が馬鹿だった。今度から言わないようにしておこう。着せ替え人形やマネキンの辛さを見に染みて感じる昨夜だった。


 女子と2人きりでの買い物。世間的にはこれをデートと呼ぶんだろう。小宮さん的には自分の買い物ついでの荷物持ち要員として俺を呼んでくれたに違いないんだけど、意識しちゃうよなやっぱり。


 土曜日ということもあって周りを見渡せばカップルらしい人も多い。他人から見たら俺もそういう人に見られているんだろうか。


 こういう時は何して待つのが正解なんだろうな。よくわかんねえ……とりあえず漫画の情報サイト巡りでもしてるか。


「あれ? 夜闇くん?」

「ん?」


 名字を呼ばれて振り向く。そこにいたのは俺と買い物を約束した小宮さんではない。


 銀髪が印象的な美少女がそこにいた。


「ノア……さん?」

「こんにちは。お出かけですか?」

「いや、まあ、ええ……」


 緊張が一気に復活した。まさか休日に会うなんてどんな確率だよ。まだ出会った期間が短いということもあって私服姿はめちゃくちゃ新鮮だ。見るからに高そうな服。一体上下を揃えるだけに何枚の諭吉が犠牲になっているのか。髪型もめちゃくちゃかわいい。たしかクラウンなんとかって言うんだっけ? 


「お出かけか?」

「ええ。これからお買い物に行く予定なの」


 へえ。いくら高貴な人でも自分で買い物するもんなんだな。てっきり全部執事さんとかに任せるもんだと思ってたけど。


「お待たせしましたお嬢。さっそく──あ」

「あ」


 おっと、美しい姫を守る凶暴な猛獣がお連れのようだ。そういやあの事件について話すなって言ってたな。だから警戒心がなおさら高いのか。


「なぜ君がここに?」


 失礼な。俺だって外出くらいするさ。そんななら睨まなくてもいいだろ。ナンパとかしてないんだからさ。


「待ち合わせ場所がここなんだよ」

「奇遇ですね。あたしたちもそうなんですよ」

「へえ、珍しいこともあるもんだな」


 平日のみのご褒美が、休日まであるとは。見るだけでまさに至福。このままずっと見ててもいいんだけど、あいにく今日は先客がいる。にしても、まだ来ないか。途中で事故とかに遭ってなければいいけど。


「小宮さんはまだ来ていないようですね」

「寝坊ですかね?」

「そうかもしれないですね。楽しみで寝付けないような性格の方ですし……」


 ん? 小宮さん? 


「2人が待ち合わせてるのって、小宮さんなのか?」

「ええ」

「そうだが」


 マジかよ! ノアさんたちが同伴するだなんて聞いてないし、考えてもない。あっぶね、パーカーとかで来なくてよかったー! ていうか誘うんだったら伝えといてくれよ。心臓に悪い。


 胸をさすっていると小宮さんが息を切らしてやってきた。はっ、はっと呼吸を整える姿は子犬みたいだ。


「ごめんみんな! 待たせちゃったかな?」

「いや、俺は全然」

「大丈夫ですよ」

「無事でなによりです」

「よかったー。太一くん、その格好……」


 不評か? やっぱり似合ってないよなこんな服装。今すぐ家に帰りたいと思っていたが


「すっごい、きまってるね! カッコいい!」


 とびっきりのグーサインを向けられてそんな気持ちは吹っ飛んだ。てっきり「やめた方がいいかな」的なことを真顔で言われると思った。やばい、照れる。しっかりしろ俺。


「さ、サンキュー」


 姉と母が喜んでるだろうな。あとで夕飯でも作ってあげるか。気が向いた時、限定だけど。


「ノアちゃんかわいい! ルイスくんもかっこいいね!」

「ありがとう」

「小宮さんもお似合いですよ」

「ねぇノアちゃん! その服どこで買ったの!?」

「えっと……」


 やめとけ。聞かない方がいいと思う。俺たち庶民には到底手が出せないブルジョワだろうからな。


 俺の知らないところで交友関係が急接近している。距離の詰め方すごいな。誰とでも仲良くなれる秘訣を教えてもらいたい。


「あ」


 何かを思い出したかのように小宮さんが俺の方を見た。


「そうだ太一くん。あたしの服装に対してのコメントは?」

「ええっと……」


 小宮さんは俺と対照的にラフな格好だ。腰までの青いワンピースがよく似合っている。日差しがあるとはいえ、11月だと流石に寒いんじゃないのかと思う。女子ってすごいよな。冬のスカートとか履けたもんじゃない。


 俺なら絶対、凍傷になる──いやいや、そんなことを考えてる場合じゃなくて、褒めるべきなんだろうけど、なんて言ったらいいのか。語彙力に乏しい己が情けない。


「よく似合ってる」

「返答が遅い。けど、ありがと!」

「どこに行くんだ? 買いたいものの目星はついてんだろ?」


 肝心の何を買うのか聞いてないからな。女子高生の休日の過ごし方という貴重な体験をできるに違いない。


「色々ブラブラするつもりなんだけど、あんまり予定は決めてないんだよねー」

「ブラブラ?」

「うん。ノアちゃんとルイスくんは日本に来てからそんなに日が経ってないから、いろんなお店に行こうとおもって」

「ごめんなさい。せっかくの休日をとらせてしまって」

「いや、本当はその……あたし1人じゃ……耐えられないっていうだけなんだけど」

「何か言ったか?」

「ううん。なんでもない。それじゃあ行こっか!」

「おー」


 かくして4人のお買い物もとい、お出かけが始まった。美少女2人にイケメン1人。俺、肩身狭すぎないか?

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