第16話 下着姿の美少女!?
休日にクラスメイトとのお出かけ。昔から憧れてるシチュエーション。まさに青春を謳歌してるはずなんだが──なんか……思ってたのと違う。
「スッゲェ、見ろよあれ」
「やっば、銀髪の2人ヤバすぎ! 芸能人かな?」
「それに対して格好だけキマってるあいつはなんなんだろうな」
「荷物持ちなんじゃね?」
「あー、なるほどね」
なんて声がヒソヒソ聞こえてくる。悪かったな。そんなこと言われるまでもなく、俺が1番理解してるっての。一緒にいるのはお門違いだって。
連中としては俺に聞こえてない音量で喋ってるつもりなんだろうけど丸聞こえだ。生まれつき耳はいい方だからな。楽しい気分が一瞬で台無しだ。あいつらの口を塞いでやりたい。
「ノアちゃんの家はここから近いの?」
「ええ。そう遠くないところ」
「へえー、一軒家? それともマンション?」
「一軒家よ」
めちゃくちゃグイグイ聞くな。お金持ちの家かー。きっと大きいんだろうなー。犬、猫、鳥などなど。ペットもたくさんいるに違いない。お城みたいな家だろう。ちょっと興味がある。高貴な人の家なんて見たことないからな。まあ、誘われることなんてないだろうけどさ。
「学校には慣れた?」
「うん。みんな仲良くしてくれるから」
「お嬢をイジメる愚か者がいれば私が制裁を与えますのでご安心を」
冗談じゃないから怖い。現に別のクラスメイトを恐怖の波に突き落としたんだからな。そもそも彼女をいじめるほど度胸がある奴なんていないだろうぜ。いるとしたらそいつは天性のバカだ。
「おお、さすがはルイスくん! 頼りになるなぁ」
「もちろん。お嬢と同じクラスメイトであればこの身をもって安全を保証します」
「どこかお気に入りのお店とか見つけた?」
「それが、まだ全然」
「そっかー。じゃあ、色々見ていこう! 太一くんも元気出して行こー!」
「あ、おう」
○
色々見ては次の店に行き、また新しい店へ行く。その繰り返しだ。
もちろん店を行くたびに飛んでくる声は3人の容姿に関してが4割、俺の容姿に関するものは6割くらい。完全に嫌な方で目立っているみたいだ。まあ、覚悟してはいたけどさ。
しかしよくもまあこんなに色んな店があるもんだな。しばらく外出しない間にいくつも増えてるだなんて思ってもいなかった。やっぱり世界は俺の知らないところで動いてるとつくづく思う。
4人で行動してから既に1時間が経過した。けど、俺の体感的には10分くらいしか経ってないように感じる。アインシュタイン先生、相対性理論がなんとなくわかったような気がします。
食べ物屋、駄菓子屋、CDショップを巡り、今俺は更衣室の前に置かれた椅子に座っている。別に内緒で覗きにきたわけじゃない。カーテンの奥にある少女から似合っているか判断してほしいと言われたからここにいる。だから、まあ、合法的にここで休んでいるわけだ。
(まだかな)
気のせいだよな。なんだか、周りの視線が俺に集中してるような。女性用の服しか取り扱ってない店だと男である俺の肩身が狭い。店員のクスクス声を聞くたびに俺のことを噂してるんじゃないかとついつい気になるのが悪い癖だ。本当は他愛もない世間話をしているかもしれないと言うのにさ。
シャー。
そろそろ出てきてくれと思っていたところでカーテンが開いた。
「ジャーン! これなんてどうかな?」
「……まあ、いいんじゃない?」
「こういうのはタイプじゃないか。よし! ちょっと待ってて!」
そっけなく返すと不満なのか勢いよくカーテンが閉じられた。それから1分もしないうちに開く。
「これはどう?」
「まあ、いいんじゃない?」
閉じて、また開く。
「じゃあねー、これは?」
「まあ、いい──」
「いいんじゃないは禁止!」
「ぐ……」
困った時のフレーズを禁止されるとは。だって難しいんだよ。俺、ファッションとかよくわかんねえし。大前提として顔がイケてるやつは何着ても様になるから嫌いだ。
例えば俺がチェックシャツを着てたら一昔前に秋葉原にいたとされるガチオタクにしか見えない。一方、容姿が良いルイスとか小宮さんとかノアさんに同じ服を着せた途端、イケてるファッションに進化する。結局、ファッションやおしゃれなんてものは顔なのだ。QED証明完了。
「なあ、俺以外のやつに聞いた方がいいんじゃないのか?」
店員さんに聞いたら正直な意見を言ってくれると思うぞ。もちろん男性目線からの意見も重要なのかも知れないが、異性の目を気にしないのであれば同じ同性の意見を参考にした方がいいと思うんだ。
「林間学習って私服で参加だからさー。周りの目を気にしちゃうんだよねー。1人だけ変な格好とかして浮いてたら嫌じゃない?」
完全に無視されてんだけど。泣いちゃうぞ。
小宮さんが悩む気持ちもわかる。失敗したら今の俺みたいな気持ちになるからな。一日だけならいいとは思うけど、林間学習は一泊二日だ。昨夜、部屋中をひたすら探して見つけだした日程表に書いてあったから間違いない。合計二日間も浮くようなことがあれば一生忘れられない日々になること間違いない。
それにクラスメイトだけならまだしも、他校の生徒と交流する時間があるってんだから驚きだ。なおさら恥をかくわけにはいかない。誰だよこんな合コンみたいなセッティングしたやつは。あの校長か? ハゲてしまえ!
「だから張り切ってるわけか」
「まあ、それもあるんだけど……やっぱり男の子の意見も聞きたいじゃん? 決めた! これにする! ちょっと買ってくるからここにいてね!」
「うーい」
「あ、そうだ。ノアちゃんが出てきたらちゃんと感想言ってあげなきゃダメだよ!」
「りょ、了解……。どこにいんの?」
「あそこ」
ああ……。指された方向にノアさんの姿は確認できないが、銀髪の番犬の姿が見える。間違いなくあそこにいるのか。
果たしてファッションに疎い俺に褒められて嬉しいのだろうか。そう思いながら俺はルイスの方に向かう。
「気まずくないのか?」
「ん?」
「いや、ほら。女子専門の服屋って感じだろ? 俺たち男子お断り……的な」
「そんなことを気にしているようではまだまだだな。いかなる時でもお嬢の身を守るためならば、どこへだろうと共にいるのがボディーガードの務めに過ぎない」
見事な演説なことで。クラスで述べてみたらどうだ? 拍手喝采だろうよ。
「すまないが、少しの間お嬢を頼んでもいいか?」
「……は?」
さっきの主張はどうした。いついかなる時も側にいるんじゃないのかよ。
「お手洗いに行きたくてな」
あ、限界ってことね。流石の番犬も生理現象には勝てないか。
「いいよ。行ってきな」
俺が責任もって彼女を守ってやる。地球を滅亡するくらいの隕石が墜落してきたら無理だけど。
「すまない」
そう言って駆けて行った。大変だなボディガードも。さてさて、どんな服装で来るんだろうな。
期待に胸を膨らませて待っている中、カーテンが開いた。
「ルイス。ちょっとキツイから、ワンサイズ大きいのを持ってきて……あ……」
下着姿の美少女が俺の視界を一瞬で埋めた。
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