第14話 買い物の約束!?

 次の日。


「行ってきまーす」


 重たい身体に鞭打っての登校。高校生にもフレックスタイム制度を導入していいんじゃないのか? と思いながら家を出る。


「じゃあねー」


 他人の視線など微塵も気にしない服装の姉に見送られた。顔にパック、服装は下着姿に軽くシャツを羽織っているだけというどこぞの露出狂を彷彿とさせるスタイル。このまま放置すれば10年後くらいには無我の境地に辿り着いていることだろう。その前になんとか阻止しなきゃな。なにかいい方法は──


「太一くんおはよー!」


 後ろから聞こえたと思ったら鞄で背中をぶっ叩かれた。


(痛ったいなぁ)


 自慢じゃないが、寝起きはいい方じゃないのでリアクションしてる余裕なんてない。


 慰めるように優しく腰をさすりながら振り向くと元気ハツラツのオーラをこれでもかと発している少女がそこにいた。彼女の背後に後光のようなものが見えるのは気のせいか?


「……おはよう小宮さん。朝から元気だな」

「朝ごはん食べてエネルギー満タンだからね! お昼前には枯渇して睡魔に襲われちゃうけど」


 効率がめちゃくちゃ悪いな。今あるエネルギーを計画的に貯めておけばいいものを。


「言われてみれば、昨日もずいぶん気持ちよさそうに寝てたな。寝言も言ってたし……」

「う、うっそだー。流石に寝言なんか言ってないよ」

「今度から録音アプリを起動しておいた方がいいかもな」


 ていうかそうしてほしい。自分の寝言を聞いて改善してほしいもんだ。あんな寝言を聞いてるこっちが恥ずかしくなる。


「ね、ねぇ……あたし、寝言でなにか変なこと言ってないよね?」

「……」


 立ち止まり、昨日を思い出す。聞いてる俺たちがおかしくなりそうな寝言だったなんて言えるはずがねえ。


 中でもとびきり空気を重くしたのが、


「あんっ」

「うんっ」

「そこはっだめっ!」


 この3つだ。ノアさんたちを迎えて温かったはずの教室が葬式みたいに一気に冷えたからな。 


 例えるなら、家族が仲良く夕飯を食べている最中、テレビで過激な描写の映画が映ったときくらい気まずい空気だ。ああ、思い返すだけで恥ずかしくなる。


「太一くん?」


 下から覗き込んできた彼女の顔を見て意識を取り戻した。首を振って、歩みを再開する。


「平気。普通にむにゃむにゃ言ってただけだからさ。なんの夢を見てたんだ?」

「うーん………………覚えてないや」


 歩きながら腕を組んで考えるも思い出せないらしい。彼女の腕の上に乗っかった胸に見惚れそうになったが、慌てて目線を逸らす。


「あれ? なんでニヤついてるの?」

「いや、楽しそうでいいなって」


 本当は違う。ニヤついた理由を本人に言ったら殺される。小宮さんなら笑って許してくれるかも知れないけどさ。


 2人並んで歩き、信号につかまったところで小宮さんに訊ねられた。


「明後日楽しみだね。もう準備は終わってるの?」


 はて、明後日? 何の変哲もないただの11月30日のはずだけど。


「ん? 明後日になんかあるのか?」


 さまざまなイベントが全国で行われている日本でも11月は静かなもんだ。まあ、後には非リア充殺しのクリスマスや学生にとってのボーナスであるお正月とか色々あるからそれまでの休息期間だな。


 今日は金曜だから明後日ということは日曜日になる。近所で大きなイベントでも開催するのか?


「何言ってるの。林間学習でしょ!」


 林間……学習? 何言ってんだ。こんな時期に行くわけがないだろって…………。


「太一くん?」

「あーーーーーー!」

「うわっ!? いきなり叫んでどうしたの!」


 そうだ、林間学習! やっべぇ、完全に忘れてた! 元々6月に予定してたのがいろんなハプニングが重なった結果、11月末に変更されたって植木先生が夏休み前に言ってたっけ!?


 ていうか、あと2日しかねえじゃん。今から準備して間に合うのか俺……。必要なものを確認すらしてないのに。


「まさかとは思うけど……完全に忘れてた?」

「……わかる?」

「太一くん、顔に出やすいからなぁ。もう少しポーカーフェイスを鍛えたほうがいいかもね」


 いやいや。普通、日時が近づいてきたら知らせるもんだろ。俺みたいな奴がいるかも知れないってのに。


「その様子じゃあ、何も準備してないって感じだよね」

「お恥ずかしながら……そうです」

「そうだ! 太一くん明日って何か用事ある?」

「え? いや、ないけど」


 あるとしても林間学習の準備だな。あと、趣味の漫画とかを読むくらい。生粋のインドア人間を舐めてもらっては困る。予定はなくても1日を簡単に潰すことなどお手のものだ。


「明日は土曜日だし、あたしの買い物に付き合ってよ! 何か必要な物があればその時に買えるし。どう?」


 別にそれは構わないんだけど。特に予定なんてないしさ。けど、1つ気になることがある。


「いいけど、俺とでいいのか?」


 こんな華のないやつと一緒で楽しいのかってことだ。退屈な時間を過ごす羽目になるかもしれないしさ。


「もちろん。むしろ、嬉しいかな」

「ん? 何か言ったか?」

「ううん。なんでもない。それじゃあ決まり! 約束ねっ!」


 そう言って小宮さんはそそくさと先に行ってしまった。会話してくれてるから嫌われてないとは思うんだけど、こうも目の前から颯爽と去られると心にくるもんがある。


 とりあえず明日はアウトドア人間になりそうだ。女子と買い物か。母さんと姉以外の女子と買い物に行くのって久しぶりだな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る