第13話 なんか、勘違いしてないか!?

「顔を見てはないか? 背丈や体格でもいい。相手を特定するのに役立ちそうな情報ならばなんでも構わない。ぜひ聞かせてほしいのだが──」

「ちょっと待った! だから、俺だって」

「は?」

「へ?」


 どうにも話が噛み合わない。俺の正体に気付いたはず。そうだよな?


 ──コンコン


 こんな時に誰だ? 今いいところなんだから放っておいてくれ。


「よくわからないが、君はあくまでお嬢にケーキを渡しただけなのだろう? ならば、痴漢犯からお嬢を救った人物について誰よりも詳しいと思っていたのだが──何も知らないと言ったところか」


 いや、何も知らないとかじゃなくてさ。俺なんだよ。それ以外に正しい答えがあるか!


「あのさぁ、だから俺なんだって」

「そんなわけないだろう。あれだけ筋肉質な犯人に勝てる人間が君ではないということに関しては確実に言える。失礼だが、風で倒れそうな君の身体でどうやって勝つというんだ?」


 怒っていいのか? 馬鹿にされてるってことでいいんだよな。


 どうやって勝つ? 男子限定の一撃必殺技を繰り出すに決まってるだろ。


 渾身の力による金的蹴り。急所に体格とか関係ないからな。


「はぁ……」

「なっ!?」


 通話越しでもはっきりわかるくらいにデカいため息をついてきやがった。落胆しているに違いない。


「えらく不満がありそうなため息だな」

「お嬢の父上であるルイス氏が探しているのはあくまで痴漢犯から救った者だ。ケーキを渡しただけに過ぎない君はお呼びではない」


 ルイスって名前は英語圏に多いのか? ひとまずそれは置いといて。


(まてよ? たしかに言われてみれば)


 ニュースを思い出す。確かに痴漢犯の確保に成功したとはあるが、どのような方法によって身柄を拘束したとは報道されてない。


 俺と別れた後にノアさんがルイスを始め周りの人間になんて言ったのかなんてわからないけど、助けられ、その後ケーキをもらった。話を聞けば彼女を助けた人物は2人いたってことになってもおかしくない。


 つまり、筋肉ムキムキを相手にすることができる者と傷心中の彼女にケーキを渡した者。


 後者はともかく、前者の候補者リストの中に俺が含まれてなくても不思議じゃないしな。


 俺が彼の立場なら真っ先に候補者から外す。こんなやつは見て見ぬ振りしかしないだろうし。おそらく、あの犯人と張り合えるほどのムキムキな奴を思い浮かべているに違いない。例えばプロレスラーとか、格闘家とか、戦って勝てそうな人。


 そうと決まればひとまず安心だ。完全回避とまではいかないが、妥協点だろう。


「よかったー」

「何もよくないんだが?」

「ああいや。なんでもない。こっちの話だ」

「貴重な時間を取らせてすまなかったな。要件は以上だ。ああ、このことはお嬢に伝えないようにしてくれ」

「そのつもりさ」

「すまないな。では、失礼する」


(ふーーーーーー)


 この数分間で一気に寿命が減った気がする。勘違いしてくれてるおかげでなんとかまだまだ貫き通せそうだな。


安心したのも束の間、俺の首に手がかけられた。


「うおっ!?」

「はぁーい。太一、ずいぶんとお楽しみのようで。彼女と長電話ですかな?」

「何も言わずに入ってくるなよ! いつもノックしろって言ってんだろ!」

「したよ? したけどさぁ。なんか全然聞こえてないって感じだったし、お互い様じゃない?」


 ぐ……確かにノック音がしたような。


 俺の完全敗北だ。姉に勝てる日がいつか来ると信じたい。

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