第11話 今度こそ俺の正体がバレた!?
マジかよ。誘いやがった! 小宮さん、どんだけ屈強なメンタルをお持ちで!?
「……」
ほらー。ルイスが怪訝そうな顔でこっちを見てるじゃん。なんで俺も睨まれてるわけ? ていうか今、あたしたちって言ったか? まさか、俺も入ってるわけないよな。
「お昼のお誘いですか。どうされますかお嬢?」
「一緒に食べる」
「よろしいのですか? 確かに同性の方々と共に食を召し上がるのはいいかと思いますが……」
チラリと王子の視線が俺と黒須の姿を捉える。
「私以外の男性も共にとなれば話は別です。何かよからぬことを考えているという場合も──」
「うるさい」
言い放った。
ルイスは数秒硬直したが、「わかりました」と言って教室から出て行った。どこに行ったのか知らないが、もしかしたら弁当を持ってくるつもりなのだろう。
まあ、お嬢様だからな。学食なんて利用するはずがない。俺の勝手なイメージだが、こういう人の弁当は専属のシェフが作っているのだろう。トリュフだの、キャビアだの、フォアグラ三昧に違いない。
「お待たせしました」
ルイスが帰ってきた。机を合わせる時に黒須も誘ったんだが、「いや、俺は遠慮しとくわ」と言って入れ替わりでどこかへ行ってしまった。
「お嬢。どうぞ」
厳重に包装された中から出てきたそれに俺は既視感がある。なぜかって? 今まで何百と見たことがあるからだ。
「ひゃ、それ!」
既に弁当を開け、ウインナーを食べている小宮さんの目が瞠る。食べてからしゃべってくれ。
「まさか、それが昼飯なのか?」
「なんだ? お嬢がこれを昼食に食べてなにか問題でもあるのか?」
「いや、ないけどさ」
黄、茶、紫。贅沢に三色のクリームによるコーティングが施され、上には巨大な甘栗が乗っかっている。これでもかと言わんばかりの栗を存分に堪能できる一品。
ケーキ屋「ゆきの」が誇る秋の新作メニュー。『贅沢な栗のモンブラン』だ。ネーミングセンスは問題だが、味に関しては俺が保証する。
「すっごーい。そのお店のケーキ、中々予約が取れないんだよ?」
「その心配はいりません。なぜなら、私たちが所有する膨大な情報網を通じて手に入れることができますから」
フフンと自慢げに語るルイス。要は金という大人の力で手に入れたってわけか。資本主義バンザイ。
「ふーん。けど、ノアさんもああいうお店のケーキって買うんだ。なんか意外だね」
小宮さんは悪気があるわけでもなく、単なる純粋な疑問のつもりなのだろう。
多分だけど、その台詞を店長に言ったらぶん殴られるぞ。俺が言ったら間違いなく半殺しにされる。
「なんで、そこの店のケーキが好きなんだ?」
「ハロウィンのことについて知っていますか?」
「あ、ああ……ニュースで聞いた程度だけど」
「あの後、あたしを助けてくれた人がくれたんです。きっと泣いてたから喜ばせるために。きっと彼も怖かったはずなのに」
「へ、へぇ……めちゃくちゃいい人がいるもんだな」
「その時に食べたこのケーキがあまりにも美味しくて。それ以来、ずっと食べてるの」
「そ、そうなんだ」
緊張のあまり、大根役者顔負けの完全な棒読み。それを差し上げたのは俺なんです。なんて言えるはずねえ。
「うん。直接会ってお礼を言いたいけど、顔を見てないからどんな人なのかわからないの」
「すみません。私があの人混みで見失ったばっかりに。しかし、お嬢が笑顔で帰ってきたことを知ったお父上は大変感動しておりました。特にこちらの商品を提供しているケーキ屋と助けた者に感謝したいと」
「そうそう。そのことについて聞きたいんだけど、助けてくれたお礼に結婚ってほんとなの!?」
「パ──父が喜んでしまって」
パ? パパって言おうとしたよな。めちゃくちゃ可愛いな。
「あのような報道をする事で、目当ての人物が名乗り出てくると思ったのですが、どうやら完全に逆効果でした。全く関係ない愚か者どもが次から次へと名乗り出てくるだけで、肝心の方は未だに……」
ルイスの補足にうんうんと頷く俺たち。
結婚なんて重すぎる。自慢じゃないが、俺はどこにでもいる庶民階級の人間だぞ? あまりにもレベルが違いすぎる。
「黙っとくのがいいよな」
「何をです?」
聞こえてたのかよ。とんでもねえ地獄耳。流石はボディーガード。俺は二度と呟かない方がいいと心に決めた。
○
「ただいやーす」
「おかえり。お姉ちゃんが帰ってきたらご飯にするからね」
「うーい」
ベッドに顔からダイブ。めちゃくちゃ疲れた。今日は色々とありすぎる。バイトがなくて良かったと実感。
なんとかボロを出さないように気をつけながら昼休憩を過ごせたと思う。弁当の味はほとんどしなかったけど。味覚が治ってたらいいんだが。
ともあれ、自宅につけば気にすることなどない。解放されたひと時を満喫しようと枕元に置いてある漫画を手に取ろうとしたところで──
スマホに着信。
知らない番号だな。こういうのってなぜかついつい出たくなるんだよな。怖いもの見たさみたいなもんだ。セールス電話とかならすぐ切ればいいし、とりあえず出てみるか。
「はい」
「私だ」
出た瞬間「私だ」なんていうやつは俺の知り合いにいない。新手の私だ詐欺か?
「あのー、失礼ですけど、どちら様です?」
「ん? だから私だ。エドワード=ルイスだ」
エドワード……ルイス?
そんな外国人の知り合いなんて俺には……あの王子か。
一体誰から俺の連絡先を聞いたのか。小宮さんが教えたのか? それとも黒須を脅したのか? まさか金で手に入れたんじゃ。
おっと、そんなことを考えてる場合じゃないな。とにかく出てやらないと。
「突然すまない。君に聞きたいことがあってだな」
「へえ、俺に聞くことねぇ。悪いけど、けっこう疲れてんだけど」
「時間は取らせないつもりだ」
「助かる」
「単刀直入に訊ねる。夜闇太一。ハロウィンの日、お嬢にケーキを渡したのは君か?」
眠りに入ろうとした俺の目が一気に覚醒した。
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