第10話 俺の隣に座ることになった!?

「ルイス。やめて」

「はい。すみませんお嬢」


 ノアさんに指摘されるなり即座に黒須の頭に向けた拳銃を懐にしまった。


「ごめんなさい」


 ペコリと頭を下げる彼女。謝っただけのはずなのになんでこんなに優雅なのだろう。


「い、い、いや、だ、だ、だいじょうぶ」


 一方、後ろから見てわかるくらいガタガタ震える黒須。ダメだ。身体に恐怖が刻み込まれてる。


 無理もない。平和な日本に住んでたら拳銃を頭に突きつけられる経験なんてないからな。そもそも所有してたら銃刀法違反? だしさ。


 多分だけどあれ、エアガンとかじゃなくて実弾入ってんじゃないのか? 見るからに重そうなやつだし。


「……」


 一連の出来事にクラス全員が引いてる。言葉を発することすらできない感じだ。


「それじゃあ、気を取り直してルイスくんたちの席を決めましょう! ぜひ隣に座ってほしい人はいるー?」


 いや、1人だけいた。

 

 何を見てたんだこの教師は。クラスメイトが危うく殺されかけたと言うのに。植木先生の言葉に誰も反応しない。辺りを見渡すとそれどころか目線を彼女たちに合わせてない人の方が多い。


 関わらない方が安全だと思っているのだろう。


「立候補はなしかー。じゃあ、せっかくだし。ルイスくん」

「はい」

「座る席に関してなんだけど、君が決めていいよ。もちろん、ノアさんの場所もね」

「わかりました」


 コツコツと歩くルイス。彼なりの基準で散策しているようだ。彼が通り過ぎたことで安心したのか息を吐いてる生徒もいる。ロシアンルーレットをやってる気分だ。


 まあ、俺には無関係。こんな奴の隣にわざわざノアさんを座らせるなんてことは──


 ストン。


「よろしくお願いします」

「あ……うん。こちらこそ」


 俺の隣に座る美少女。ピンとした背筋はプロのピアニスト顔負けだ。


 なんで俺の隣に座らせるんだよ!? ていうか断れよ俺!


 ちなみにルイスはノアさんの前席。つまりは黒須の隣だ。お気の毒さま。本人曰く──


「お嬢の前が1番落ち着くため、俺はここにする」


 らしい。いや、知らねえよ! クラスメイトからは面倒なことを引き受けてくれたお礼なのか拍手されるし。


 絶望している俺の背後から


「よかったね太一くん。隣に可愛い子が来て」

「代わってあげましょうか?」

「……遠慮しておこうかな」


 だったら言わないでくれ。


 拍動が鳴り止まないまま、ホームルームは終わりを告げた。


 ジョナサン=ノア。

 容姿端麗。

 たぶん、頭脳明晰。

 おまけに父親が大企業のCEOときた。こんなとびきりのお嬢様が隣に来たら誰だって落ち着かないだろう。


 そして、彼女はハロウィンの日に俺が助けた人でもある。向こうは多分、俺のことに気がついてないとは思うけどさ。顔も見せてないし。


 昼休憩になれば、てっきり人だかりができると思ったが予想とは違った。


「……」


 何せ前には腕を組んで仏頂面の恐るべき番犬もといルイスがいる。仮にノアさんと話したければ彼の視線をくぐり抜けてこいってことか。


 そんな真正面からぶつかっていく生徒がいるわけなんて──


「ねえねえ、ノアさん。あたしたちと一緒にお昼食べない?」


 嘘だろっ!? 俺の後ろにいやがった!


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