第9話 転校生の姫と王子

 嘘だろ。なんでここに来たんだ!?


「植木先生。その子って……」

「凄いでしょ? あたしも来るって聞いた時は驚いたわ」

「なんでこの高校に?」

「うーんと、詳しいことは知らないんだけど。ノアさんのお父さんが校長先生と知り合いらしいわよ」


 植木先生が言うには、ノアさんは小さい時から日本に来たかったらしい。いや、そんなこと知るか! いくらなんでもタイミング良すぎるだろ。しかもピンポイントで俺が通ってる高校に普通来るか!?


 目の前にいるのは紛れもなく今、日本で話題のご令嬢。いいところ育ちのお嬢様。俺と住む世界が違う人だ。


「すっごく可愛いねー」

「あ、ああ」

「太一くん。すごい汗だけど、大丈夫?」

「ほら、今日って暑いから」


 一度引いたはずの冷や汗が滝のように流れてくる。いつの間にか教室がサウナ部屋になったのかもな。


「そうかな。結構寒い日だと思うけど」


 誤魔化せるとは思ってなかったが、特に怪しまれることはなさそうだ。


(ん?)


 俺は首を傾げる。既に転校生が入ったというのにドアは空いたままだ。てっきり先生が閉めるのを忘れたのかと思ったら続けてもう1人入ってきた。


 今度は男子。

 身長、高い。

 顔、イケメン。

 髪型、短く刈られた銀髪。

 結論、かっこいい。


 隣に並んだノアさんも相まって、まさしくおとぎ話に出てくる王子と姫だ。


「やばくない?」

「めちゃくちゃカッコいい!」

「ちょータイプなんだけど!?」


 銀髪の王子は女子たちの興味を僅か数秒でかっさらった。まさか2人も転校生が来るなんてな。おまけに美男美女の組み合わせ。別のクラスに1人くらいあげたいくらいだ。


「えっと、この子はエドワード=ルイスくん。ノアさんと同じくアメリカ生まれだけど、日本語はペラペラよ」

「よろしく頼む」

「「キャー!」」


 言い終わるとあちこちから黄色い声援が飛んだ。めちゃくちゃ堅苦しいな。見た目からしてもっとクールな感じだと思ったんだけど。


 ていうか声までかっこいいってなんだよ。あと数年後にハゲる呪いにでもかけられちまえ。


「やっぱり小宮さんもあんな感じの男がタイプ?」

「あ、あたし!?」


 いや、何もそこまで驚かなくても。普通の質問……だよな。


「えっと、あたしは別にあそこまでカッコよくなくてもいいかなー」

「へえ、顔よりも性格で選ぶって感じ?」

「う……ま、まあね」


 ふーん。めちゃくちゃいい子じゃないか。彼女を育てた両親にあっぱれ。将来付き合う彼氏、この子を大事にしてやれよ。


「それじゃあ、空いてる席はーっと」


 手でひさしを作って教室を見渡す植木先生。まだ彼女たちの席は決めてないらしい。


「はいはい! 俺の隣に大歓迎!」


(お? 流石は黒須。こういう時の発言力は流石だな)


 黒須が言った瞬間、ルイスの姿が消え、何かが黒須の頭に突きつけられた。


「貴様のような奴の隣に、お嬢が座るはずないだろう。口を慎め」

「…………え?」


(…………は?)


 彼の驚きは俺と同じタイミングに違いない。


 お嬢? 何言ってんだこの王子は。極道映画の見過ぎなんじゃないのか?


 ふざけていた黒須の動きが止まり、完全に硬直した。無理もない。


 だってさ。頭に拳銃が突きつけられたんだぜ!

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