第4話 俺のことじゃねえのか!?
翌朝。
寝ぼけた顔のままリビングに行く。
「おはよっすー」
気の抜けた返事をするとリビングには家族がいた。
「あ、太一。おっはよー」
マグカップでコーヒーを飲んでる。夜闇楓。俺と三つ離れた姉だ。今年から大学に進学し、校則という縛りから解き放たれた反動で入学早々、髪は金色に染め、両耳にはピアス。いわゆるギャルになった。染めてない方が可愛いとは言わないでおこう。
「早く食べちゃいなさいよ」
母親から朝食が運ばれ、無理やり口へと運ぶ。せっかく作ってくれたんだから食べない訳にはいかないからな。
トーストにバターを塗り始めたタイミングで姉が話しかけてきた。
「ねえ、太一。見てよこれ」
「ん?」
「昨日、太一がいつも乗ってる線の電車で痴漢があったんだってさ。時間的に太一が乗た電車じゃない?」
「ふぇんひゃ?」
電車がどうかしたのか。やれやれとテレビの方に顔を向ける。
寝ぼけていた目が即座に開眼した。朝のニュースに昨日の出来事が取り上げられていたんだからな。画面に映るキャスターの話を聞く限り、あの後犯人は自首したそうだ。長年付き合ってた彼女に振られたストレスが動機の原因らしいが、そんなことはどうでもいい。手を出した時点で人として失格だ。
ゆっくり自分のしたことを悔やんで生きてほしいもんだ。一人の人生を壊しかねないんだからな。同情の余地すらない。ああ、あの子の手。柔らかかったな。同じ女性でも、俺の姉とは大違い……何でもない。
「あの人混みなら痴漢が起きても不思議じゃないわよねえ」
「あたしの知り合いも言ってた言ってた。すごい人混みだったって」
「そう? お姉ちゃんも気を付けなさいよ。最近、不審者が大量発生してるみたいだから」
あんな奴がカエルみたいに増えてたまるか。それに、昨日みたいな出来事は一生涯に一回くらいでいいんだよ。できることなら関わりたくないけど。まあ、相手の股間目掛けて蹴ったのは気持ちよかったけど。
そんなことを思いながらパンを齧る俺の耳にキャスターの声が聞こえてきた。
『今回の事件ですが、被害に遭われたのは世界的に有名な大企業「ワールドイノベーション」のCEOを勤めているジョナサン=ルイスのご令嬢であるジョナサン=ノアと報じられております。彼女の話では助けてくれた勇敢な男性は渋谷のハロウィンイベントにて配られていた仮面を身に付けていたため、詳しい外見などはわかっておりませんが、危険な自分を救ってくれた姿に心を打たれ、婚約者として迎えたいとのことです』
「へー、すっごい。完全な玉の輿じゃん。あの大企業でしょ? 一生働く必要なんてないと思うんだけど」
「けど、相手の顔も名前も分かってないのなら、応募が殺到するんじゃないの?」
「確かに。まあ、お金は余るほどありそうだし、調査とかで分かるんじゃない?」
「それもそうね」
あはは。ふふふと笑いながら会話をする二人。一方、俺は笑うどころかパンを咥えたままテレビを見つめて硬直していた。
そこに映る光景が信じられず、頬をつねるが夢ではない。
ていうかこれって――
(俺のことじゃねえのか!?)
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