第44話 私が歌に惹かれた理由


 天使さんがこちらを見てふふっと笑う


 何で笑うのか分からなくて頭にはてなを浮かべる


「いえ、本当に嬉しそうになさるなと思って」


「何で嬉しそうにしていると笑うの?」


 天使さんはうーんと悩んでから左上を見てこちらを見ずにいる


「天使は感情が薄いんです。表情がない人もいます。私は人を見てその時の表情を真似していたらいつの間にか重要なポジションについていました」


 トーレはきっと感情がない人に囲まれたくなかったんだろうな。だから嘘とはいえ微笑みを浮かべていた天使さんを近くにおいたのかな


「私は人の感情が全くわかりませんでした。ですがあなたと一緒にいると段々とわかってきた気がします」


 何で私といると感情がわかるようになったの?意味がわからない


「あなたも分からなかったのではないですか?だから感情の表現の仕方が少しだけ大げさな気がします。特に主様に対する感情は」


 確かに私は最初執事の歌を聞くまでは感情が理解できなかった。それもあると思う。でも感情の表現が大げさなのは別の理由だと思う


「大げさな理由は私が歌を歌っていたからだと思う」


「歌……ですか?」


 天使さんはキョトンとしてそう聞き返した


「歌だよ。歌はいいよ~だって感情的に表現するか、ボーカラードみたいに無表情だったりして感情が殆どなかった私でも違いを理解できたから。」


 ボーカラードはヤマイから出た音声データで、ヤマイは"人を病に突き落とすほどに素晴らしい音楽を!"をコンセプトにした会社なんだけど


 ボーカラードは歌っている人の音声から電子音で声を作り出したもので名前の由来はボーカルとカラーバリエーションに富んだ人形ドールたちがいるって意味で付けられたらしい


 元々人の体から楽器に負けぬほどの音を出すことができるそしてそれを演奏するための歌に興味があったけど無表情だった私は声も平坦だったから的確に音を拾うだけの歌しか歌えなかった


 そこにボーカラードが歌うボカラが出て私の歌も一気に親しまれるようになってボーカラードも人のように徐々になっていったのを真似ていって大きな感情を歌で表現できるようになった


 そこから少し抑えめにした表現で嬉しいや悲しいを表現すると人は直ぐによって来たからもっと完成度を高めていってとそれを試行錯誤していったら今の私になった


 今も感情を表そうとしたら少し大げさになってしまうのはその検証から良いと判断した声や表情の動かし方が身についているから……そうしている期間が長くなってきたから


「ただ……それだけのことだよ」


 そう言うと天使さんは近づいてきて私の両手を取ってそうだったんですねと言った


「歌を歌うことは天使でもよくありますがただ美しいだけです。地上でもただ美しいだけの歌しかまだありません。天使の真似ですね。ですから感情のこもった歌を広めてもらえませんか?妖精も歌を歌いますがこれもやはり天使の真似です」


 少し悲しげに下を向き少しだけ黙る天使さん


「何もかも天使の真似は良くないと思うんです。だから感情のわかるようになったあなたが歌ってくれませんか?天使の歌もきっとあなたには歌いこなせるだろうから……」


 そう言うと天使さんは少しだけ離れて手を組んで口を開いた


 ♪~~


 とても美しい……これを真似したいというのもわかる……だけど


 今の私だからわかる……この歌はあまりにも無機質すぎる。歌はもっと楽しいはずなのに……


 ……楽しい?歌うことが楽しいと私は思っていたの?


 ふふっ知らなかったな~


 それじゃあこの歌をもっと感情が溢れる歌にしよう


 と思っていたら曲が終わっていた


「という感じですね。もう何回か歌いましょうか?」


「ううん。大丈夫。覚えたから、取り敢えず歌ってみるから」


 目を閉じれば歌詞の情景が浮かんでくる


 ♪~~


 神すらも全ては知らない


 ♪~~


 悲しみも苦しみも全てを浄化する


 ♪~~


 その光は何処に


 ♪~~


 歌いきり、目を開けると天使さんが驚愕の顔でこちらを見つめていた


「何で驚いているの?」


「いえ、この歌はとても難しい高低差の大きい曲なのによく歌い切れたなと思いまして……私も半年ほどこの曲を歌う下地を作るのにかかったので……まさに神の歌声のようだったから……もう何も言葉が出ません。素晴らしかったです」


 何を言っているの?


「天使さん。あなたは、これに感情を足してと言ってたでしょう?」


 そういえばとでもいうかのような顔でこちらを見る天使さん


「一度歌ってみたら感情をつけるところが分かったからもう一度歌うね」


 その瞬間すべてが私を受け入れてくれるかのような暖かさを感じた


 その暖かさに身を任せて力を抜く


 すると自然に歌声が響く


 ♪~~


 ♪~~


 ♪~~


 徐々に終わりが近づいてきてこの感覚に終わりが来ることに悲しみを覚える


 それでも私は歌いたい!歌い切るの


 そしてすべてを歌い切ると徐々に周りの音と光が入ってくる


 一番目の前にいたのはトーレだった


 あれ?天使さんに聞かせてたんじゃなかったっけ?それにトーレはのの字を書いてたんじゃなかったっけ?


 そう思っているとトーレに思いっきり抱きつかれた


「グヘッ」


 口から可愛らしくない声が出るけど気にする余裕もない


「すごいわ!私が聞きたかったのはその歌声よ!デル!」


 どういうこと?でもその前に……


「離して……きつい……」


 そう言うとトーレは急いで手を離してごめんなさいと謝った


「つい興奮しちゃって……その曲は私が作ったんだけど天使に歌わせようとしたんだけど納得の行く歌声は聞けなかったの。だから他の種族にも教えていったけど真似ばっかでなんの面白みもなかったからもういいやって思ってたけどあなたが歌えるなんて!」


 トーレは目をキラキラさせている


 ……まるで誕生日プレゼントに欲しいおもちゃをもらえたかのように


「何曲も歌はあるの!だから覚えたら歌って見て頂戴!暇なときに見ておくわ」


 何か面倒なことになった。ヒュアリーの説明はどこに……!

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