第四章 逆襲
第27話 王都での新規事業
王都の外れにあるダンスホールに五十人の若い男たちが集められていた。
ホールには長机が整然と並べられており、各机に2名ずつ座らされていた。これから事業内容の説明があるという。
それぞれの前には、蓋のかぶせられたプレートと飲み物が置かれていた。
室内の前方の壇上には、本日のホストの男が座っていた。金髪をオールバックにした目つきの鋭いがっしりとした中年の男だ。全員が席に着いたことを確認し、男が話し始めた。
「皆さま、本日はお越しいただき、ありがとうございます。本日の司会を務めさせていただきますエイと申します。簡単なお食事をご用意いたしました。まずはご賞味ください。お口にあわない方は、別の料理とお取り替えいたしますので、ご遠慮なく挙手をお願いします」
50人のうちの1人リカルドは、蓋を開けてみた。今まで見たことのない料理だ。牛肉? の割にはものすごく柔らかく、ナイフがすっと入る。とても食べやすくジューシーだ。少し甘いソースが絶妙で、驚くほどうまい。口にあわない奴なんているはずがない。案の定、誰も手を挙げず、一心不乱に食べている。
「お口にあったようで嬉しく思います。ハンバーグという料理です」
リカルドは新規事業の立ち上げスタッフの募集に応募していた。これまで2回筆記試験があり、本日は最終面接ということで、このダンスホールに呼ばれている。新規事業が何なのかはこれから説明があるとのことだ。
メイドが何人か入って来て、料理の皿が下げられた。
ホストの男が説明を始めた。
「今日お集まりいただいているのは、貴族のご子弟の方で、三男や四男といった実家からの支援がなく、ご自身で生計を立てて行かなければならない境遇の方々です」
確かにリカルドもそんな境遇の1人だ。彼は貧乏貴族の三男で、長男のスペアのスペアだったが、長男が家を継ぎ、用済みとなり、家を出された。万一に備えて、教育は受けてきたため、ある程度は自分の能力に自信があり、家を出てもやっていけると思っていた。
ところが、地方に手に入れられる土地はなく、王都には就ける仕事はなかった。
(能力のある俺が、力を発揮できず、こんな境遇に甘んじているのは、チャンスを与えない社会が悪い)
リカルドのこの考え方は、同じ境遇の貴族の子弟の多くを代表した考え方だ。
(そんな社会を黙視している王政が諸悪の根源だ。この国は改革が必要だ)
ここまで考えると、考え方を知られた時点で政治犯として投獄されるので、考えても黙っているのが普通だ。リカルドもバカではないため、黙ってはいたが、諸悪の根源は王政だと思っていた。
リカルドは周りを見渡した。俺と似たような考えのものが集められたのだろう。そう考えると、筆記試験は社会への不満の度合いを測るようなものだったように思えてきた。
壇上のホストが話を続ける。
「皆さんは筆記試験でも優秀な成績をおさめた有能な方々です。それなのに社会に埋もれてしまっているのは嘆かわしいことです。我々の新規事業は社会の転覆です」
室内がざわめいた。
「我々の新規事業にご興味のない方は、この場で退出をお願いします。残っていただいた方には、今後の活動内容の詳細をお話しします。1つお約束します。我々の活動にご協力いただける方々は、先ほどのような食事を毎日できるようになります。では、いったん私は退出し、10分後に戻ってきます。退出される方は入ってこられた入り口からご退出ください」
そういって、ホストの男は本当に退出してしまった。
全員がすぐには席を立たなかった。そりゃあ、そうだ。恐らく全員が食うや食わずの状況のはずだ。
リカルドは必死に考えた。どうせこの先いいことなんてありはしない。このチャンスを逃せば、盗賊に身を落とすか、飢え死にだ。
であれば、俺たちをこんな状況まで追い詰めた社会をひっくり返す活動に協力してやる。
10分後、50人全員が残ったまま、ホストの男が新規事業の詳細を説明した。
まず最初の活動内容は、首都の交番の襲撃だった。10人が1チームとなり、1チームが3か所の交番を1つずつ順番に襲撃する。決行は明日。今日はここに宿泊して、明日の朝、武器を持って襲撃をおこなう。
襲撃計画の詳細が記載された書類を1人1人渡され、2時間近くかけて、各自に襲撃手順が刷り込まれた。
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