第26話 対レンガ島政策 デイビス視点
エルグランド王国では、王を中心に家臣が集まってレンガ島への対策が議論されていた。
リチャード、スティーブ、デイビスの3王子も参加している。
2000人の兵士が忽然と消えてしまった1年前の事件以来、何度もレンガ島には派兵しているが、悉く海上で撃退されてしまっている。犠牲者は2万人以上にのぼる。
だが、ようやく王国はレンガ島の情報を入手することができた。レンガ島と交易しているナタールの住人に扮していた王国の間諜が、最新情報を王都に持ち帰ったのである。
情報から浮かび上がったレンガ島の姿は、想像とはまったく異なるものだった。
養蚕業、農業、漁業の生産性が高く、低コストで大量の収穫量を上げており、国民の生活は非常に豊かで、治安はすこぶる良いらしい。財布を落としても、必ず持ち主に返ってくるそうだ。
衣食住は島が支給していて、家屋はメンテも島が行っており、南の都市では全家屋温泉付きらしい。
アレンとルナは島の象徴のような存在となっていて、特にルナは見目麗しく、島民の8割が男性ということもあって、絶大な人気があるようだ。
軍事面では島民の男子に1年間の兵役義務があり、戦時には1万5千人以上の兵を集めることができるようだ。
あの艦隊を構成する戦艦は、やはりナタールから購入したものだった。しかも、レンガ島で改良されて、性能がオリジナルよりも遥かに優れているらしい。
ナタールは北の海を隔てた異国に対抗するため、昔から海軍が強い。そのナタールよりもレンガ島の海軍の方が艦隊単位では上なのだ。王国が勝てる訳がなかった。いくら海軍の育成を進めても、レンガ島海軍にまったく歯が立たない理由がよくわかった。
ただ、間諜が持ち帰った情報を照らし合わせても、どのように王国の船の位置を補足しているのかがさっぱりわからない。どんな航路をとろうが、必ず行手に現れて一掃されてしまうのだ。
危険を犯して新月の夜に移動しても、待ち伏せされた。内通者がいるとしても、どのようにレンガ島に情報を伝えているのかがわからない。
「伝書鳩でしょうか」
家臣の一人が言った内容は全員が最初に思い浮かべたが、新月の夜の星あかりだけでは鳩は飛べないのではないか。
それに航路は船長に任せてあり、風や海流の状況によって柔軟に変更されるので、鳩を飛ばしたときの航路とは微妙に違うのに、きっちりと見つけて、沈めに来るのだ。
そもそも戦艦に鳩を隠して持ち込めるわけがない。
「はっきり言って、もはや王国単独ではレンガ島は手に負えないのではないでしょうか」
言いにくいことをデイビスが言った。
王の前での敗北宣言とも取れるこの発言に王以外の全員が緊張する。
「デイビス、何が言いたい」
王がデイビスを睨む。
「レンガ島に勝つには、ナタールの海軍を仕向けるしかないと思います」
この大陸は北のナタール国、南のエルグランド王国、そして東の都市連合からなるが、都市連合も海軍は持っていない。
レンガ島の海軍に対抗できるのはナタールの海軍だけだ。艦隊の性能はレンガ島が優っていても、ナタールの海軍は規模が違う。
「ナタールを攻めるというのか」
そう言って王は目を瞑った。東の都市連合と同盟を結んで攻めれば、勝つことは出来るだろうが、こちらも大怪我を負うだろう。そんなリスクを負う理由がない。
「レンガ島は放っておけばよろしいのでは? こちらは攻めることは出来ませんが、あちらもこちらを攻められないでしょう」
そう提言したのは宰相のマルコスだ。王の心情はマルコスに近い。確かに癪だが、放っておけばいいのだ。
「朕も宰相の意見に賛成だ。レンガ島のことは忘れる」
デイビスは何もナタールを攻めようとしたわけではなかった。外交交渉でレンガ島を王国とナタール国で共同して攻められるような展開に持って行けないかと考えていたのだ。
しかし、どの方法もアレンに阻止されてしまうように思う。
また、ナタールのレンガ島への親和策を何とか崩す工作もしているのだが、ナタール王がルナ姫を溺愛しており、一向に効果を上げることが出来ないでいる。
アレンを放っておくと、将来きっと後悔する。今でも1年前、島送りではなく、殺しておくべきだったと後悔しているのだ。
ナタール経由で何人か刺客を送ったので、今はその結果を待つしかないか。
こうしている間にもアレンがどんどん力をつけている気がして、デイビスは戦々恐々とするしかなかった。
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