第25話 富国強兵 ルナ視点

おバカなジルの最期からもう1年が経つのね。


私は北の村が「ルナシティ」って名前の市になったときに、市長になっちゃったわ。といっても、仕事は全部配下のサンとシイにやってもらってるけど。


相変わらず、月に一度、アレン君と一緒に南に出張に行ってるけど、南の町も随分と大きくなって市になっちゃって、イーサンが市長やってるわ。


人口が、北が1万人、南が3万人だって。私は多産の女神でもあるから、人が増えるのは私のおかげかもね。


出張のたびにアレン君が頭痛を我慢して、灌漑やら漁業やら前世の記憶を切り替えて、公共事業のアドバイスをしていたら、生産量が凄いことになっちゃった。


もう国内消費を完全に上回ってしまったので、半年ほど前に、ナタールに久々に帰国して、パパにお願いして来たわ。


「レンガと生糸と農作物とお魚が余ってるので、兵器と交換して下さい」


ってね。


その結果、ルナシティの西の大きな港にナタールの貿易船がよく往来するようになって、ルナシティは貿易と軍事産業と海軍基地の町って感じになったわ。


南は「サザンシティ」って、そのまんまの名前になっちゃってるけど、あそこはアレン君も言ってたけど、養蚕業、農業、漁業の第一次産業の町ね。


こんな感じで、レンガ島はアレン君の言う「富国強兵」に邁進してるのよね。


それで、アレン君は特に海軍を強くしたいみたい。


「蒸気船を作ったら、この世界で無敵だっ」


って意気込んでたけど、作り方知らないのよね。蒸気でタービン回すってヒントだけじゃあ、レンガ島に連れて来たいくら優秀なナタールの職人でもすぐには無理でしょう。


それで、仕方なく、ナタールから軍艦を購入して、色々改良しているみたい。アレン君は理想の戦艦のイメージはしっかりと持っているから、それを職人たちに伝えて、職人たちが創意工夫して、イメージ通りは無理だけど、近いものを実現する、ってのを繰り返しているみたいね。


この海軍を強くするという方針は私も良いと思う。アレン君も言ってたけど、エルグランドとは陸上で戦っても勝ち目ないからね。


操舵技術もしっかりと訓練しているわ。エルグランドがレンガ島に上陸しようと何度も船団を送って来るので、それを撃沈するのがいい実戦経験になったようね。エルグランドの海軍って、本当に弱いのよ。


少しずつ強くはなっているけど、それがレンガ島の海軍のレベルアップにちょうどよかったみたい。エルグランドがレンガ島を強くしてどうすんのよ。もう相手にならなくなっちゃったわよ。


あっ、それで、エルグランドの船を攻撃するために、西の港から出航して、東の港まで行くことが多くなって、東にも港町が出来たのよ。「スプリングタウン」と呼ばれていて、温泉の湯量が豊富なので、いろんな温泉宿を建設して、ナタールから観光客を呼ぶ計画を立てているのよ。


私もとても楽しみにしているのだけど、町長がレオンで、センスが心配なのよね。大丈夫かしら。


この前、お母様がレンガ島とエルグランドの海戦の実況中継をしてくれたけど、エルグランドは全くいいところなしね。あっという間に沈められて、捕虜にされて、強制労働所行きよ。エルグランドはレンガ島に労働力を提供しに来てくれているのかしら。


それで、エルグランドはもはやレンガ島をどうにも出来ない状態なのよ。だから、レンガ島は独立して新たに建国するつもりでいるのだけれども、国体をどうするかで揺れてるのよね。


アレン君を国王、私を王妃にして、君主制にしたい人たちと、君主なしの共和制にしたい人たちが半々みたいなのよね。


私は王妃は何十回も経験済だからどっちでもいいんだけど、イーサンやガリレイなどの上層部は君主制にしたいみたい。それでアレン君と私の人気が十分に上がるのを待ってから、国民投票で決める準備を進めているわ。


ところで、最近のアレン君はますます大忙しなのよ。私はいつもそばにいるけど、ちょっと働き過ぎよね。


国全体の舵取りみたいなことをやってるのよ。軍事と経済産業はアレン君がほぼ全部を担当しているわね。


宗教関係はガリレイに任せて、軍も指揮はグリムのおじさんに任せているけど、その他はアレン君が見ている。アレン君の秘書をやってるレベッカ姉妹がかなり優秀で助かっているわ。


でも、あの二人、完全にアレン君の虜になっちゃってる。アレン君が王様になったら子供が必要だから、側室にしてあげようかな。私は子供は作れないからね。


そう言えば、サーシャの妹のメリンダちゃんもアレン君にメロメロよね。ムサシくん、かわいそうに。ブラコンのサユリが何とかしてくれって私に頼みに来るから、一度メリンダちゃんにムサシくんとデートしたい気分にさせてみたけど、完全に逆効果だったわ。


ムサシくんはますますメリンダちゃんを好きになるし、メリンダちゃんはアレン君の素晴らしさを再認識したようで、もうとろけちゃうくらいアレン君のことが好きになっちゃったみたい。


まったくどいつもこいつも、私に遠慮するってことしないのよね。でも、アレン君の魅力にやられちゃうのは、同じ女として、よく分かるわ。この私が、数千年もずっと好きでいる人だから。


それにひきかえ、サーシャは本当におっさん好きね。ガリレイと結婚しちゃったのには驚いたわ。歳の差30よ。まあ、ガリレイはダイエットして随分とカッコよくなっちゃって若く見えるし、サーシャは美人なのに老けて見えるから、見た目はそんなに歳の差は感じないけど。


サーシャのもう一人の妹のソフィアは、アンディと結婚してとても幸せそう。アンディは私のことを女神のように崇拝して鬱陶しかったから、ちょっと私に雰囲気が似ているソフィアを紹介したんだけど、バッチリはまったわね。あまり鬱陶しいようだったら、殺しちゃうところだったわよ。アンディ、あなた、命拾いしたのよ。


こうやって、みんな伴侶や好きな人を見つけて、人生を謳歌しているのよ。


もうエルグランドなんてどうでもいいから、アレン君も仕事はそこそこにして、私とスローライフを満喫すればいいのに。


でも、お母様によると、あのバカ兄貴達がまだ諦めていないのよねえ。バカは死ななきゃ治らないみたいね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る