第24話 作戦の実行
「ねえ、アレン、ジルがキャンプ地に向かっているわよ」
ルナと寝室でお茶を飲みながら寛いでいると、母さんから報告があった。
「ちょっと上手く行き過ぎだな」
ひょっとして、ジルは引っかかっている演技をしているのではないか、とすら思えてくる。
「アレン君の作戦だもの。デイビス以外は引っ掛かるわよ」
ルナは俺の作戦は成功すると見ているようだ。
キャンプ地に誘導したのは毒ガスを使うためだ。
当然、毒ガスを作る技術はこの世界にはないため、そこらで発生している硫化水素を使う。
硫化水素は火山ではよく発生するガスだ。卵の腐ったような臭いのするガスで、濃度が高いと即死する。空気よりも重いので、窪地に溜まった硫化水素で死亡する事故が、レンガ島でも起きている。
キャンプ地としてジルたちに案内したのは窪地だ。ここに各所で発生している硫化水素を流し込めるようにしてある。
レンガ島は至るところで硫化水素のにおいがするので、ジルたちは異臭だとは思わないはずだ。しかも、硫化水素の怖いところは、濃度が濃くなっていくことに臭いでは気づけないことだ。
寝ている間に硫化水素をキャンプ地に流し込んで、硫化水素の濃度を致死量まで上げて、全滅させてしまおうという作戦だった。
「毒ガスを使うのは非人道的か?」
俺の独り言だったのだが、ルナが反応した。
「落とし穴作って、竹槍で突き刺す方が、私は残酷だと思うわよ。あれ、凄く痛そうよね」
ルナはそう言うが、硫化水素も窒息死なので辛いはずだ。どのみち、殺される側は酷い目にあう。
大量殺人を前にして、日本の前世での感覚に影響されてしまっている俺は、気持ちの整理がなかなか出来ないでいた。
「兵士はついて来ただけだよな」
と俺が実行命令を躊躇していると、ルナが俺を真剣な顔で見つめて来た。その表情があまりにも魅力的で、ドキッとしてしまう。
「兵士ってのは、人を殺すのが仕事だ。人を殺すつもりなら、殺される覚悟も持つべきだ。兵士を殺すことを決して躊躇するな。って、アレン君はどこかの前世で部下に訓示してたわよ」
うへえ、俺はそんなこと言ったのか。だが、確かに兵を殺すのを躊躇っていたら、こっちが殺されてしまう。あいつらは俺たちを殺しに来ているのだから。
「母さん、実行命令お願いします」
俺は母さんにグリムさんへの伝言をたのんだ。グリムさんには母さんの声のことを女神の啓示と説明してある。レオン、サイラス、シンジにも母さんの声を連絡手段として使っているが、母さんに伝言を頼んで以来、彼らの俺への忠誠心が格段に上がったように思う。
「伝えて来たわよ」
「母さん、ありがとう。4人には絶対にキャンプ地に近づかないよう念押しお願いします。様子を見に行くのもダメなので」
「了解よ」
でも、硫化水素の誘導なんてことをするのは初めてなので、果たして上手くいくかどうか分からない。
***
翌朝、ジルも兵士も誰も起きてこなかった。
「アレン君、容赦ないわね」
いや、背中を押したのはルナだろう。
「馬鹿な指揮官についた兵士は哀れだ。冥福を祈ろう。北の村に来るまでの数々の罠が全て無駄になってしまったが、こちら側に死人が出なかったんだ。よしとしよう」
遺体はガスが完全に晴れるのを待ってから焼却されたが、2000人の兵士が忽然と消えてしまうという事態となり、エルグランド王国では緊急対策会議が開かれることになった。
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