第23話 シナリオ通り
北の村は家屋の建設が終わり、村の奥に地形を生かした砦を建設中だった。万一、村まで攻められたときは、ここに籠って防戦するためのものだ。ただ、この砦を今回使うことはないだろう。
島の北側から上陸された場合にはここで応戦することもあるかもしれないが、今回は東の海岸から上陸することは、母さんの監視で分かっている。
この母さんの千里眼というか、どこにでも瞬間的に移動して見聞きできる能力って、いくら何でもチート過ぎるのではないだろうか。
ルナにそう言ったら、
「あなたのお母さまを殺す方が悪いのよ」
とのことだった。
ルナと一緒に砦の周りをチェックしながら散策していると、多くの人が石垣を組み上げていたので、いったん保留してもらった。石垣は耐久性はあるが、石と石との隙間に手足をかけやすく、登りやすいのだ。今回に限っては土手を作った方がいい。
現場の職人が一瞬子供が何をという顔をしたが、横にルナがいることに気づき、俺がアレンだとわかると、すぐに作業の優先順位を変更してくれた。
ちなみに俺とルナはこんな感じでいつも一緒だ。くノ一のイチとニイが目立たないように護衛してくれている。
引き続きルナと二人で村を歩いていると、母さんから連絡が来た。
「東海岸に軍が上陸したわよ」
母さんの言葉はルナにも伝わっている。
ガリレイの救世軍は、今回は出動しないで存在を隠すことにした。その代わり、島から逃げた兵が1人も戻れないように、大陸の海岸沿いを見張ってもらっている。
軍が上陸後に東海岸に停泊している船は、鹵獲するようナタールの水軍に依頼した。エルグランド軍が移動した翌日には行動を開始してくれるはずだ。
レオン、サイラス、シンジには、東海岸の近くに住まわせて、任務を与えてあった。
彼らがうまくジルと接触し、軍を南の町まで誘導することに成功した、と母さんから連絡があった。裏切る可能性もあったので、そのときには次善の策を用意していたが、使わずに済みそうだ。
母さんの話では、現在の行軍速度だと、夕方には南の町に着くそうだ。案内するのは南の町から北に10キロほど離れた今は誰もいない旧市街だ。100家族に貧しい格好をさせて、住んでいるふりをしてもらっている。
レオンがジルに島の状況を説明した。シナリオ通りの説明だ。
「島には南に町があり、北に凶悪犯だけの村があります。私たちは南の町で生活してましたが、疫病がよく発生するんです。サユリは疫病で死にました。今もまた疫病が蔓延しているので、私たち3人は海岸近くに避難していたのです」
ジルが形のいい眉を顰める。実はジルはかなりの美青年だった。
「そうか、疫病か。では、兵士たちを近づける訳にはいかないな。で、アレンはどうしている?」
「アレンは凶悪犯の村で生活しています」
レオンはシナリオに沿った話を続けた。
「ルナ姫も一緒か?」
「ルナ姫様御一行は北の村の奥に砦を築いて、そちらにお住まいとのことです」
「アレンとは一緒ではないのか」
「それが、レベッカがうまくアレンとの結婚にこぎつけておりまして、すでに結婚していたことを知ったルナ姫が激怒して、アレンを近づけないそうです」
ジルは驚いて目を点にした。そして、腹の底から笑い出した。
「はっはっは、あいつはいったい何をやっているのだ。レベッカというのは、確かデイビスが送った女だったな。妹は病で死んでしまったというのに、忠義なことだ」
エルグランド軍は、気味が悪くなるほど、アレンたちの描いたシナリオ通りに動いてくれる。
レオン、サイラス、シンジは無事ジル軍を南の旧市街まで案内した。ここで偽市長役のグリムにバトンタッチすることになっている。
「ジル様、町長を呼んできます。疫病が流行ってますので、町には近づかないようお願いします」
ジルは町を遠目で見た。
家屋はぼろぼろで、雨露をようやくしのげる感じだ。住人の姿も見えるが、貧しく不衛生だ。これでは疫病が流行るわけだ。
「何度も何度も疫病が流行って、人口は減る一方です。私たちも、もうそろそろ王都に帰っていいでしょうか?」
サイラスがジルに聞いてみた。アレンから、聞いてみろよ、断られるから、と言われたからだ。
「それはリチャードが決めることだ。私では決められない」
本当だ。アレンの言う通りだった。
レオンがグリムを連れて来た。
「初めまして、ジル様、私が町長のグリムです」
グリムが頭を下げた。
「うむ。ご苦労。これから我々はアレンのいる北の村へと向かう」
「このまますぐでございますか? 夜の移動は危険です。ここから少し離れたところにキャンプに適した場所がございます。そこで一泊してから出かけられた方がよろしいかと思います。よろしければご案内致します」
ジルはレオンたちを見た。3人は町長に賛同して頷いている。
「分かった。それでは案内を頼む」
「かしこまりました。それではご案内します」
グリムは兵士達をキャンプ地に案内した。
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