第18話 転居

「アレン、大変よ。この島に軍隊を送ってくるかもしれないわ」


母さんがリチャードとデイビスの話を俺に伝えてくれた。


ルナの正々堂々の輿入れは、ナタール国の後ろ盾と、エルグランド王都のルナ姫直属の隠密集団の指揮権の維持というメリットがあるが、このように兄たちを警戒させる諸刃の刃だ。だが、俺もルナもそんなことは重々承知している。


ただ、ナタールの姫が来訪して間もない島に軍隊を送るのは、正気の沙汰ではないと思う。ナタールへの宣戦布告と取られかねないからだ。


冷酷だが頭は悪くないカイザー二世が、そのような判断を下すとは思えないが、上の判断通りに下が動くとは限らない。そのため、軍隊を送ってくる可能性が少しでもあれば、備えが必要だ。


とはいえ、島からすれば、俺とルナのとばっちりを受けた形だ。備えましょう、と言っても、そう簡単に住民から協力をもらえるとは思っていない。それどころか、厄介者の俺たちを排斥しようとする可能性が高いと考えている。


そのため、少なくとも上陸同期からの協力を取り付けたかった。そこで、ガリレイ神父のいる教会の会議室に集まってもらった。5人で集まるのは久しぶりだ。


まず、俺から近況を報告をした。最初はガリレイ神父だ。


「ガリレイ神父、教皇に話をつけました。7神教のガリレイ神父への全面支援と国内のガリレイ派の復活です。すでに効果は出ていますでしょうか」


「はい、アレン王子。ありがとうございました。このご恩は神に誓って一生忘れません」


「それはよかった」


次に俺はサーシャの方を向いた。


「サーシャさん、妹さんたちは私の婚約者といっしょに来島します。明日、港に着きますよ」


「アレン王子様、本当にありがとうございます。私もご恩は一生忘れません」


続いてトムとベンに向き合った。


「トムさんとベンさんは、ルナとは久しぶりなのですか? くノ一のイチとニイも明日来島するそうですよ」


「はい、姫様とは1年近くお会いしていないので、本当に久しぶりです。イチとニイとは2カ月ぶりぐらいです」


とトムの方が答えた。ベンも同じような感じだ。


「ガリレイ神父、サーシャさん、私の婚約者はナタールの第一王女のルナ姫です。ナタール王と王妃が私への輿入れを承知してくれました」


「それはおめでとうございます」


ガリレイ神父が顔をほころばせて、お祝いの言葉をかけてくれた。


「ルナ姫って、あの真珠姫ですか」


サーシャさんはルナを知っているようだ。


「ええ、まあ。でも、私はまだ彼女を見たことがないんですよ」


「そうなんですか? 月の女神の化身と言われるほど真珠のように美しいお姫さまという噂です」


実際に月の女神なんだけどさ。


「はい、美しい姫のようですね。私も楽しみです。ただ、不穏な噂を聞きましてね」


「どんな噂ですか?」


ベンが聞いて来た。4人は心配そうだ。


「王がこの島に軍を派遣するかもしれないという噂です」


「え?」


4人とも固まってしまった。信じられないという表情だ。


「私は第5王子だったのですが、上の4人の王子と仲が悪くて、兄たちが父をけしかけて、軍を出そうとしているという噂を聞いたのです。父が耳を貸すとは思いませんが、兄たちが私兵を集めて、攻めて来る可能性はあります」


「教皇にお願いして救世軍を派兵してもらい、けん制することはできると思います」


ガリレイ神父がまじめな顔をして話した。


「ナタールも姫を守るために軍を派兵すると思います」


トムとベンも追随した。


「私もそうしてくれるのではないかと思っています。また、実際に戦いが発生する可能性は低いと思います。それよりも危惧しているのは、こういった状況を招く張本人である私とルナの排斥運動が島で起きてしまうことです」


全員が難しい顔をした。その可能性が十分にあるからだ。


「そうなる前に、島の北西に住居を構えようと思っています」


「北西って、山の牢獄のあるあたりですか?」


ベンが確認してきた。


「そうです」


北西には山が2つあり、山と山の間の麓には村がある。


その村には、凶悪犯や性犯罪者の牢があり、見張り役として、武装した50人ほどの村民が牢を監視している。


村民は定住者もいるが、ほとんどがこの町から派遣され、1年で交代するようになっている。


「そこで、皆さんにもいっしょに来ていただきたいのです」


全員の目に力強い光がともっていた。


うん、この人たちは協力してくれそうだ。

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