第三章 変革

第17話 兄たちの動揺 デイビス視点

ナタール国のルナ王女が、アレンに輿入れした情報はすぐにエルグランド国に届けられた。


「まさかあんな牢獄島に娘を輿入れさせるとは、ナタール王は気でもふれたか」


デイビスは一報を聞いても直ぐには信じられなかった。


ルナ王女をデイビスも見たことがあるが、この国の王宮でも見かけないような美少女で、ナタール王は溺愛していたはずだ。


アレンは島で貧苦にあえいでいるはずで、そんなところに輿入れさせるなど、ルナ姫を死地に追いやるようなものだ。


ルナ姫が何かナタール王の逆鱗に触れることでもしたのか、それとも……。


島に送ったレベッカから情報を入手したいが、島とすぐに連絡がとれる有効な手段がない。次の囚人の護送のときに連絡員を忍び込ませる予定でいたが、それでは少し遅いか。


それに、レベッカを操るための人質が先日病気で死んでしまった。それでもしばらくはレベッカを操作できるだろうが、そう長くは続かないだろう。


島に4人送っているリチャードに相談してみるか。


そう思っていたら、リチャードの方からコンタクトしてきた。


「デイビス、島に送っていた女の人質だった弟に逃げられた」


確かセリナ妃が運営している孤児院に幽閉していると聞いていた。


「どうやって逃げられたんです?」


「それがさっぱりわからない。幽閉した部屋の鍵は外からかけていたし、侵入者の気配はなかった」


「中のものの手引きでは?」


「それしか考えられないのだが、そんなことをするメリットのある者がいないため、犯人が誰なのか見当がつかないのだ」


リチャードは腕を組んで考えているが、本当に見当がつかないようだ。


「逃げられた前後で何か変わったことはなかったのですか?」


「特にないが、院長が叱責を恐れて、何か隠しているかもしれない」


送った女2人の人質が相次いでいなくなった。これを偶然と片付けるべきか。しかし、ブレンダは病死だ。厳重に監視していたので、薬を盛ったりもできないはずだ。医者にもう一度確認させるべきか、あるいは、医者を疑うべきか。


起こってしまったことは仕方がないが、教訓として再発しないよう防止する必要がある。再発防止策をすぐに検討すると同時に、新たに代替要員の派遣を行う必要がある。


「引き続き調査が必要ですね。ところで、あなたの兵士だった3人がまだ島にいるはずですが、連絡はとれますか」


「ああ、次の島送りのときに連絡員を送る予定だったが、それだと遅いかもしれないので、独自に連絡員を派遣する準備を進めている」


「美女2名を送ったのですが、ルナ姫が輿入れするとなると女の意味はなくなりますね」


「俺が送った女は、島の有力者の嫁にして、アレンが来た後にはアレンと不倫させろ、と兵士たちに事前指示を出している。今回の連絡員に首尾を確認させるつもりだ」


「なるほど。ところで、リチャード、あのナタール王が、ルナ姫をあんな島に行かせる判断をしたことについてどう思いますか?」


「島が俺たちが思っているようなところではない、のだろう。少なくとも娘を送ってもいいと思う程度の魅力はある島なのだろう」


やはり、そうとしか思えない。俺たちはとんでもないところにアレンを送ってしまったのではないだろうか。


「リチャード。これはちまちました作戦を取っている場合ではないと思います。軍を派遣するか、それに相当する視察団をすぐに島に送るべきです。陛下に上申しましょう」


「……何とか俺たちで対応できないかな」


陛下と聞くとリチャードの動きが悪くなる。躊躇している場合ではないが、確かに陛下に睨まれると後がなくなってしまう。


「わかりました。私がジルを焚きつけてみます。結果、この策がうまくいって、ジルがあなたの強敵になっても恨まないでくださいね」


リチャードは複雑な表情をしていたが、最終的にはデイビスにすべてを任した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る