第16話 島への輿入れ ルナ視点
アポロンがうざい。
「いやあ、俺が早く見つけたおかげだよなあ」
さっきから同じことを何度も何度もアポロンが繰り返しアピールしてくる。
「それで今はどういう状況なの?」
「アスクレーピオスが治療中だよ」
「治療中ってどういうことよ?」
治療中とはおかしなことを言う。アスクレーピオスであれば、一瞬で完治させられるはずだ。
「死ぬ運命である人間を治療するのは不味いかな、と思ってさ」
病気の治療は神々どころか人間にも認められている力だ。結果、寿命が延びたからって、どうということはない。アポロンもそれは知っているはずだ。結局のところ、彼は私からご褒美が欲しいのだ。
「あら? てことは、せっかくアポロンが早く見つけてくれたおかげで助かるかと思っていたら、結局、あなたの手柄はなしってこと?」
「い、いや、そんなことはないさ」
「早くしないとタナトスに気づかれるんじゃない?」
タナトスは死を司る神で、非常に性格が悪い。死にかけの人間の近くに長い間いると、いつタナトスに遭遇するとも限らない。
「う、ちょっと待ってよ。完治させたようだ。もう大丈夫だよ」
「よくやったわ。もう、仕方ないわねえ。確かにお手柄だから、ご褒美をあげるわ。何処の世界に降りたいの?」
ルナには神が降りるための人間の器を作る力がある。神々にとって、人界での生活は大人気の娯楽の一つだが、神の存在に耐え得る器となる人間は殆どいない。いたとしても直ぐに埋まってしまう。
アポロンが待ってましたとばかりに答えた。
「ケンタウロス星だ」
「じゃあ、戻ったら、仕込むわよ。それでいいわね」
今から70年ぐらい後になるが、神々にとっては大した時間ではない。
「勿論だ、ルナ! 今日も綺麗だね!」
「お世辞はいいから、もう行って。助かったわ、ありがとう」
アポロンは嬉々として天界に戻って行った。実はアポロンには手柄を立てさせてやったのであるが、本人は知る由もない。
「さて、ブレンダを病院から連れ出すわよ」
ルナはくノ一のイチとニイに指示を出した。
病院のナース4人をすでに仕込んである。2人は連れ出す役、残り2人は死を偽装する役だ。ブレンダの体調が回復次第、代わりの死体を置いて、ブレンダを連れ出す手筈になっている。
アレンは非常にデイビスを警戒しており、ブレンダを救出したことをデイビスに気づかれないようにしてほしいとのことだったのだ。
デイビスからの監視もブレンダが危篤状態になってからは解かれており、連れ出すのは簡単だ。
実はアスクレーピオスを呼ぶことをアポロンに指示した裏で、アレンの母にお願いして、アスクレーピオスの娘のヒュギエイアにブレンダを危篤状態にするよう頼んでいたのだった。婦女の病については、ヒュギエイアの方がアスクレーピオスよりも優秀だ。
無事作戦は成功し、ブレンダ・キルリスは死亡したことになった。さすがのデイビスもうまく騙されたようだ。
よし、アレンからの依頼は全部完了したわ。いよいよ私もレンガ島に行くわよ。あぁ、楽しみだわ。
レンガ島の内情が当初聞いていた内容とは随分と違っていたため、ルナは作戦を変更した。
当初は王妃を操って王宮を抜け出し、強引に島に渡る予定だったが、両親である正妃と王に提案をしたのだ。
エルグランド王国に恨みを持つアレンにレンガ島で力をつけさせ、エルグランド王国への牽制とする案だ。
それを実現するため、ルナが島に渡って、アレンと予定通り結婚することを認めてほしいとルナは懇願した。両親はルナのアレンへの深い想いをよく知っているので、渋々ながらも了承した。
当然、エルグランド王国から抗議は来るだろうが、娘がアレンに惚れてしまってどうしようもなかった、とでも言えばいい。
こうして、ルナはナタール国の王女として、レンガ島に渡った。
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