第3話 流刑の地へ

俺は罪人用の護送馬車の木枠の荷台に乗せられて、市中で絶賛晒され中だ。このままレンガ島行きの船のある波止場まで向かうらしい。


俺が何か悪いことをした訳ではないので、むしろ市民からは同情の目が多く、石を投げられたりしないのは幸いだった。


ただ、流刑地に行く途中に兄貴たちが何か仕掛けて来るのではないか、という危惧が俺にはあった。


母さんに頼んで調べてもらおう。


(母さん、いる?)


「いるわよ。アレン、いよいよレンガ島ね」


すぐに答えが返って来た。


(母さんは下界のことはどれぐらい分かるの)


「見ようと思えば、何でも見られるわよ。ただ、アレンが一人エッチしているところは見ないから、安心してね」


一人エッチとか、母親には触れて欲しくないなあ。


(そ、それはどうも。兄貴たちの監視を頼みたいんだけど)


「兄たちの動向にはすでに注意を払っているけど、全員を四六時中見張ることは不可能よ」


(最終的に動くのは長男のリチャードだろう。リチャードを見張ってくれれば大丈夫と思う)


「母さんもそう思って、リチャードをマークしているわ。それと、策略家の4男のデイビスも少しね」


(ありがとう。完璧だね。何か動きはあった?)


「島に行くまでは手を出さないようよ。島に送るところまでは王の命だからね。その代わり、島の住民に手を回しているようよ。何人かの住人の家族を人質にして、言うことを聞かせているみたい」


なるほど。逆に俺は王都で動ける手下を持っている住人を味方につけないと、状況がどんどん悪くなってしまうということか。


(母さんの実家の力は借りられそう?)


「今は難しいわ。陛下は私を死罪にしたけど、一族の罪は不問にしたわ。私が不義していないことを陛下は知っているようね。でも、世間は実家に冷たいわ。しばらく大人しくするしかないわ」


そうするしかないか。となると、ルナに頼るしかないか。


(ルナとは連絡取れるの?)


「出来るわよ。女神様が憑依した女の子、隣国ナタールのお姫様よ。物凄く綺麗で、巨乳なのよ! アレンの好みってこういう子なのねえ」


(はあ、まあ、そうかも。どうやってレンガ島に来るんだろう)


「王妃様が生理のときに操って、国外に脱出するそうよ。途中で死んだことにするみたい。本当はアレンと婚約するようお膳立てしてたのに、今回の件で全て台無しになっちゃったの。アレンに嫁いだ後のことも考えて、直属の諜報員を何人か王都に潜ませているそうだけど、王女としての地位がなくなっちゃうと、その人たちも動かせなくなるようね」


ルナには月の力で、生理中の女性を操る能力があるが、それを使って脱出するのか。だが、王都の兄たちをもう少し牽制しておきたい。


(ルナにもう少しナタールにいてもらうことは可能かな)


「長い間待ってたのよ。うんと言ってくれるかどうか分からないけど、聞くだけ聞いてみるわ」


護送馬車が波止場についた。俺は手枷足枷されたまま、船に乗せられた。水兵が俺を船室に乱暴に押し入れた。この水兵、後で百叩きの刑にしてやる。


船室で壁にもたれて足を投げ出して床に座っていると、母さんから連絡があった。


「結論から言うと、20日間だけならOKだって。王妃の次の生理予定の20日後まではどのみち動けないそうよ」


俺も早くルナに会いたいからなあ。仕方ない。20日で出来ることをしよう。


レンガ島までは5時間かかる。俺は自分で思っていた以上に疲れていたようで、どうやらグッスリと眠ってしまっていたらしい。


「おい、起きろ。島に着いたぞ」


こいつ、蹴飛ばしやがったな。さっきのと合わせて死刑にしてやる。


俺はレンガ島に上陸した。他の罪人も船に乗っていたようで、俺を含めて5人が船から降ろされた。


辺り一面に広がる荒野は、火山の島なのか、地面には溶岩が多い。見渡す限り木が一本も生えていない。


船は俺たちを下ろすと、何の説明もなく、そのまま帰ってしまった。


あいつら、手枷足枷を外さないまま置き去りにしやがった。

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