第2話 女神のお詫び

牢での最後の夜、俺は女神と話した。


「アレン君、アレン君」


誰かが俺を呼んでいる。

牢の中で俺は寝ているはずだ。誰が一体俺を呼んでるんだ?


「月の女神のルナよ」


祝福してくれた女神か。何か用か?


「うーん、15歳のくせにワイルドな口調ね。格好いいと思ってるんでしょ?」


なっ!?


「いいの、いいの。お姉さんはそういうのを含めて、あなたのことが大好きなのよ」


何だか調子の狂うやつだ。


「教会の神の柱には細工がしてあったわよ。神々7人全員があなたを祝福したのだけど、光ったのは私のだけ。神の力を使って光らせることも出来たのだけど、なんだかあなたを独り占めしているような気分になって、このままでいいかな、って思っちゃったのよ」


そうだったのか。


「細工した神父には神罰を下し、地獄へ送ったわ。裏で指示していた王子については、あなたに処罰を任せるわ」


きっと四男だろう。いつかぶち殺そう。


「今回は申し訳なかったわ。まさかこんなことで、お母さんが殺されちゃうなんて、神でも分からなかったのよ。ちょっとお母さんに替わるわね」


は?


「アレン、こんにちは~」


声が変わった。この声は母さん!?


「そうよ。あなたの大好きな母さんよ」


いや、何だかちょっと性格が変わっているぞ。


「女神様に天界に連れて来ていただいて、テンション上がりまくりなのよ。32歳の若さで服毒自殺させられたときはとても無念だったけど、こうして年をとらず、ずっとアレンと一緒にいられるなら、死んで正解だったわ」


え? ずっと一緒?


「そうよ~、ずっと一緒よ~。じゃあ、女神様に替わるわね」


再びルナと切り替わる感じがした。


「せめてものお詫びにお母さんとはいつでも会話できるようにしておいたから。ところで、私ね、下界で育てていたあなた好みの可愛い子に今から憑依して、レンガ島に向かうわね。だから、しばらくお別れになっちゃうけど、悲しまないでね」


完全にルナのペースでやられてしまっている。ルナもレンガ島に来るだって?


「アラン君、レンガ島だけど、流刑地だけあって厳しい気候なの。住人は主に政治犯が多いけど、一部凶悪犯もいて、治安も最悪よ。私と一緒に仲良く暮らしましょうね」


しかも、一緒に暮らすだって?


「さて、最後にこれをしないとね。あなたにはこれまでのすべての前世の知識があるのよ。全部思い出しちゃったら、脳がパンクしちゃうから、私が止めてるの。とりあえず、1つ前の前世の記憶だけ流すわよ。かなり頭が痛くて、気分も悪くなるけど、我慢してね」


うぐっ。頭の中に一気に色々な情報が入って来る。日本の記憶。日本ではルナは20歳で俺の前に現れたのか。ルナを想う熱い記憶も蘇って来た。ルナに対しての愛情が急速に高まって来る。ルナは俺が転生するたびにパートナーだったのだ。


前世の記憶を全部思い出したが、頭が猛烈に痛くて、船酔いしたように気分が悪い。


でも、最愛の女に早く挨拶をしておきたい。


「ルナ、久しぶり。今世もよろしくな」


「うん。また、楽しもうね」


俺はルナと数百回もの人生を共にしてきた。そして、その数百回分の人生の知識と能力を自由に使えるのが俺の力だ。

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