第12話 やる気スイッチ
やる気スイッチがない。
以前は心のここを押せば、元気がギラギラとみなぎるツボがあったのだけれど、今はなくなってしまった。
同僚の東原くんと仕事の合間にそんな話をしていたら、彼も「僕もやる気スイッチなくなっちゃったですね」
そっかそっか。みんななくしていくものなのだね。
青春の残滓みたいなものだね。そんな風に感慨にふけっていたら、
東原くんの唇の横にホクロがあった。
ちょうどボタン状の大きさだ。
これ、やる気スイッチじゃね?
そう考えると、私は東原くんのほくろという名のやる気スイッチを押したくて押したくてたまらなくなった。
「どうしたんですか? そんなに僕の顔をマジマジと見て」
いや、東原くんの顔ではなくて、やる気スイッチを見ているのだ。それを押すとどうなるのか想像するとワクワクするのだ。
押したらいきなり、腹筋と腕立てを100回するかもしれないし、カツラと噂されてる部長の頭をはたくかもしれない。いきなりほくろから長い毛が生えてくるかもしれない。
なにしろやる気スイッチだ。何をやる気になるかは未知数なのだ。
私はどうしても押したくなって、
東原くんの顔に手を伸ばして、そのホクロを押してみた。
そして何かを取るような仕草をして、
「ごはん粒ついてたよ」と嘘をついた。
すると東原くんは、なんかポッと赤くなったような、なんだか恋する人の顔になった。
しまった、取り返しのつかないことをしてしまった。
私は東原くんの勘違いのスイッチを押してしまったのだった。
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