第3話 ぬくもり

寒くなると自販機で暖かい飲み物が欲しくなる。

あの缶のぬくもりを求めて、いつもはあまり買わない近所にある自販機にスマホをかざして、Hotのコーヒーを買うことにした。


あ、これなんか飲んだことない。

そう思って、ボタンを押した。

缶が下の出口に転がり落ちてくる。


私はその温かなぬくもりにそっと手を伸ばす。

そのささやかなぬくもりが、心まで暖めるのだ。


そしてそのぬくもりに、指先が触れた。


ぬくもりが、ぬくもりじゃなかった。


心を凍らすほどの冷たさが指先に伝わり、思わず私は手を引っ込めてしまった。


恐る恐る、私は自分が押したコーヒーを見てみた。

コーヒーの下にこの文字があった。


『Cold』


Cold!

私は私が買ったコーヒーの列を見ていった。

Hot、Hot、Hot、Hot……

でも私が買ったコーヒーからColdに変わっていた。

私の……所で……Coldに……


取り返しのつかないことをしてしまいました。


目新しいコーヒーに目が行って、下にあるColdの文字を見落としてしまったのだ。


落ち度だ。自分の落ち度だ。

温かいと思ったモノを触ったら冷たい。

そのギャップは激しく、厳しい。


私はキンキンに冷えた缶コーヒーを、

ハンカチに包んで取り出し、バッグに入れた。


帰って、カップに移してチンして飲もう。

やっぱり今夜はぬくもりが欲しいのだ。




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