第9話

「お嬢様‥、少しだけでもお食べにならないと」

「ごめんなさい、胸がムカムカして、食欲が全くないのよ」

 櫻井奈々美は寝込んでいた。きっとケーキバイキング行ったから、食べすぎたのだと思っていたが、その夜も全く食欲がわかなかった。帰って来てから何もする気になれず、ベットで横になっていた。

 うとうとすると、ケーキバイキング会場の夢を見る。見知らぬ男から言い寄られて逃げた事。佐々木樹里亜と再会した事。秋葉圭と出会った事。

 佐々木樹里亜の勝ち誇った様な顔が、アップになり、驚いて目が覚める。

 また、ため息する。無性に樹里亜と圭の関係が、気になって仕方がないのだ。

 お付き合いしてるのかな?ただの友人‥以上?優しくて信頼できると、思える男性だったわ。また会えるかな?でも私なんかが、迷惑になるわ。樹里亜と同じ高校かしら?

 布団をかぶって、目を瞑る。圭の顔が思い浮かぶ。

 奈々美は圭が気になっていた。だけど男性慣れしてないので、自分の感情が、よく理解出来ていない。また会ってお話ししたいなぁ。

 胸が高鳴り続けている。

「お嬢様、ケーキバイキングの会場から様子おかしくなりましたが、何かお悩みでも?」

「わたしもよくわからないけど、胸が痛いの、病気かしら」

「昔のご友人と会われましたが、何かありました?」

 また樹里亜の楽しそうな顔が浮かぶ。

 大きくため息する。

「そう言えば男の人もいましたね」

「そうね‥」はにかんだ。


「お嬢様、まさか!」

「どうして気分がすぐれないのか分かるの?」

「その男の方と何かありましたか?」

「絡んでくる人から逃げた時優しくしてくれたの嬉しかったわ。それで、彼は樹里亜の友人だったの」

「そうでしたか」

 男に免疫のない娘にはよくわからないのだろう。異性が気になって仕方がない状態だと。肩を落とし、切なそうな表情の奈々美が不憫でならない。初めて興味持った男性が彼女持ちだなんて‥。


「ご友人とせっかく再会したのですから、この機会に親交を深めたらよろしいのではないでしようか」


 樹里亜と圭の顔が浮かんでくる。

「そうね、でも突然会いに行くのも変でしょ?」

「わたしにお任せくださいませ。自然に交友できる様に手筈を整えます」

 お嬢様に深々と頭を下げた。

 櫻井グループの力で手助けをさせていただきますと、思いながら。

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婚約時代 ユッコ @umesann

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