第7話

 ケーキバイキングがメインのデート?はどうだったかと言えば、外で連れ立って、ぶらつくのは難しいと言う事が、確信になった。

 家の中で2人だけの時なら、誰にも介入されることなく、まったりとした時間を過ごせる。

 しかし、街中に出ると、2人は本人達の望みでないのに目立ち過ぎた。


 デートっぽい事するために、駅で待ち合わせした。樹里亜は昨日の読者モデルの時使用した服を販売してもらい、それを着てきた。雑誌から飛び出た様な格好だった。

 少し遅れた圭が樹里亜を見つけると、すでに、大学生風の男達にナンパされていた。

「結構です、待ち合わせしてますから」少し怒った表情だった。

「女の子と待ち合わせ?好都合!」

 冷たく睨んで、

「フィアンセです」

「またまた、たとえ男だとしても、高校生で婚約者はありえないしょ」2人は笑う。

「嘘ではありません!とても素敵な人です!」

 圭は行きづらくなった。ハードル上がってる。立ち止まる圭を見つけた樹里亜は、

「圭さん遅いですよ。私を焦らさないでくださいね」と今世紀最大の可愛らしい笑顔をして、手を振ってくる。

 ハードルはさらに3段位上げられた。

 くそっ!猿芝居に乗るしかない。

 圭はにっこり笑って、颯爽と登場だ。両手を広げ、

「樹里亜!ゴメン待たせたねー」と優しく抱擁する。

「さあ、君のためにレストランを予約しているんだ。君の瞳に乾杯!」

 見つめて、学生演劇の様な棒読みでそう言った。

「嬉しいわ、圭さん」と圭の胸に顔をうずめる。

 大学生だちはぶつぶつ言いながら去って行った。


「遅いわ、待たせすぎ!」

 2人だけになった途端、

 圭の胸元から顔をあげながら睨む。

「お詫びのキスを」樹里亜の頬に手を触れそう言うと鼻をつままれた。

「もう終わり!行きましょう」

 圭の手をつかんで歩き出す。

「今のはムード良かっただろう?」

「あのクサイ演技のこと?」鼻で笑われる。

「幼稚園の時のお楽しみ会で、あなたが桃太郎役で、鬼からお姫様役の、私を助けた時の演技と同レベルなのに?」とまで言われた。悲しい。


 レストランでお盆を持ち、バイキングのケーキを選び始めたら機嫌は良くなっていた。

 樹里亜の後ろから服装を見て、大人びた洗練された様子を見ると、やっぱり樹里亜は可愛いなって実感する。家の方が肌の露出は多いが。

「なに見てるの?」

「その服良く似合ってると思って」

 ありがとうと小声で応えた。「さあ、たくさん食べるぞー」ねえっと笑う。作られた笑顔でなく、圭だけに見せる笑顔。心臓が高鳴る。

「どうしたの?」

「ちょっとトイレ」圭は逃げ出す。チキンだもの仕方ないだろ。


 スッキリしてトイレから出た圭は

 小走りしてきた人影とぶつかった。

「ごめんなさい!急いでたもので‥」

 申し訳なさそうな顔した、茶髪で三つ編みした、瞳の大きな女性だった。白い帽子がずれて、直しながら言った。グレーのチェック柄のワンピースから眩しい位の、白く細い脚が目をひく。

「大丈夫です。あなたの方は、どこかぶつけませんでしたか?」圭は少し離れて聞いた。

 潤んだ瞳が、保護欲をそそる美少女である。

「はい。ごめんなさい。知らない男の人が、しつこく、遊ぼうと絡むので、隙を見て逃げてきたものですから」

「ひとりできてるんですか?」

「家の使用人と来ていますが、食べる前にお花を摘もうと思いまして別行動してました」

 使用人?確かに良いとこのお嬢様と思える。

「家の人のとこまで送りますよ」

「ありがとうございます。よろしくお願いします」丁寧なお辞儀をされた。

 話を聞くと、どうしても、ここのケーキバイキングに来たくて、無理を言ってついて来てもらってるとのことだった。

「お友達は誘わなかったんだ?」

「都合が合わなくて‥‥」

「そうなんだ」

「あなたはお友達とですか?」

「友達と来ている」

「羨ましいです」

 こちらを見て気づき、中年の女性がバイキング会場のテーブルから、立ち上がる。

「お嬢様!」

 こちらですと手をあげている。

「じゃあこれで」と去ろうとすると、

「私は櫻井奈々美と申します。お名前伺ってもよろしいでしょうか」

「僕は、秋葉圭です」と伝えた。

「また、会えたら嬉しいです」と頭を下げた。朝主人を起こしに来た、飼い猫の様な表情で言われると、顔が熱くなる。


「何してるの」

 樹里亜が後ろから声をかける。樹里亜を見て、奈々美が驚く。

「佐々木さんかしら!」

「‥櫻井さん、どうして圭と?」

「秋葉さんは、佐々木さんの連れの方でしたのね」胸元で、手を合わせて言う。複雑そうな感じだ。

「2人で来てるの」

「そうでしたか‥‥」すこし沈んだ声で、笑った。

 樹里亜は奈々美に、微笑んで

「櫻井さんまたね」そして「圭、トイレ長いよ」口を尖らせる。

 圭は叱られながら、空いているテーブルを探した。

 たくさんお盆にケーキを確保していた樹里亜は、向いに座る圭の脛を軽く蹴る。

「痛いだろ」

「許嫁とデート中に、他に可愛い女の子となに、知り合いになってんのよ」

「樹里亜の知人か?」

「保育園の時の友達。幼稚園に転校してから会ったことなかったけど、あまり変わらないからすぐわかったわ」「美人でしよ?」

 それには答えず、「腹減ったな、食べようか」

「確か、櫻井さんは櫻井グループ企業の社長の娘よ」樹里亜はじっと圭を見る。

櫻井グループとは廃藩置県の頃、主要な産業をこの地方で立ち上げた、歴史も規模もある企業群だ。

「農民には手の届かない女性だな」

「あら、豊臣秀吉も農民だったわ」

「天下取れそうになったらハーレム作ろうかな」

 樹里亜は鼻を鳴らして

「その時は食事には気をつけることね」

 ケーキの上のイチゴをフォークで刺しながら笑った。怖い。

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