標的!!!!!!!!!!
チュンチュンと、鳥の
「ん〜……ッ、ずっと基礎練とルールブック読む事しか出来なかったけど……大丈夫かなあ……」
「おう、八雲〜。もう、出発するのかぁ?」
「あ。じいちゃん、おはよう!」
「じいちゃん、後で試合見に行くからなぁ。八雲が新しく始めたスポーツ、観るのが楽しみだ」
「うん。三人一組だから……僕が、どこまで役に立てるか……分からないけど」
両方の人差し指を合わせて、自信無さげにする孫を見た
「大丈夫だ八雲。今のお前ェの目は、昔みたいにキラキラしとる」
「じいちゃん……」
「テコンドー教えてやった時、じいちゃんに褒められたくて一生懸命頑張ってたろう。八雲はなぁ、誰かの為に頑張れる良い子だ」
「……うん。久々にドキドキしてるんだ。僕が頑張ると、喜んでくれる人がいる……。チームとして、認めてくれる人がいる……まだ全然、お互いの事分からないし、セパの事も知らない事だらけだけど——僕も一緒に、挑戦してみたいって思えるんだ」
「そうかそうか。仲間の為に、引っ込めていた力を貸してやれ、八雲」
「頑張ってくるよ! 行ってきます、じいちゃん」
八雲は自信満々に右手を振って、自宅から出発した。運動に適した身体能力を持ちながらも、それを使う事に怯えて人と接する事も苦手になって、孫の心配をしていた
「これからどうなるか、全ッ然わからねぇが……三人揃わねぇと、出来ねぇ経験があるだろう。見えねぇ景色があるだろう。八雲、お前がどんな大人になっていくのか……じいちゃんは楽しみで仕方ねぇよ」
祖父の安心と期待を背で受けて、八雲は急勾配の石段を下りて行く。いつもは飛ばし飛ばしで駆け下りていく階段。しかし今日は、一段一段、しっかり踏みしめ、山の中腹から見える景色をじっくり見た。
「なんか……あっという間に毎日が終わって、行き当たりばったりで初試合だけど——もし、本当に今日、僕ら三人で勝てたら……何かが、変わるのかな。それとも、始まるのかな。じいちゃん……」
離れていく祖父に尋ねながら、八雲の足は加速していく。未来への期待、新しい分野の挑戦、役に立ってみたい仲間の存在。それらのワクワクを胸に、石段を飛び跳ねるように駆け抜けていく。
「よ……ッ、ほ……ッ」
普通に上り下りすれば、五分以上はかかる急勾配の石段。垂直落下と同等の速度で、あっという間に山の麓に到着した。そしてこの地点は、快晴とサルジとの待ち合わせ場所になっている。八雲は辺りを見回した。
「……、あれ? 約束の時間なのにな……」
私服のポケットからスマホを取り出して、八雲は時間を確認する。ここから試合をする大学までは、バスや電車を乗り継がなければならない距離なので遅刻は厳禁だ。しかし、この場所に二人の姿はない。
「おう」
その言葉に八雲は横を向くが、期待していた二人の声ではなく、気が引き締まる。近付いてくるのは、快晴でもサルジでもなく強面の半グレ集団であった。
「え、なッ、なに……?」
「お前が
中心にいる半グレ男の裏から、全身をボロボロに痛め付けられたサルジが転がった。不安になる状態に、八雲は焦りで声が上がる。
「紅葉川くんッ!」
「くあぁ……しッ、しんにゅ、部員……」
「どうして……一体、なんで!」
「ぜーんぶ、お前のせいだ。
半グレ達の列の中から、杉本がニヤニヤした顔で姿を現した。彼が右手で引きずっているのは、頭から血を流している快晴だ。頭を殴られたのか、彼は気絶して動かない。
「服部くんッ!」
「かわいそうになぁ、二瓶と関わったばっかりに俺らのサンドバッグにされちまった。俺は言ったぜぇ? 暴力で必ず復讐するってなあッ!」
「そんな……二人は、僕等の問題に無関係だよ……なんで、こんな……事」
「今までのお前は、友達付き合い控えめだったからなぁ……やっと、仲間って奴を作ったから……傷付けてやったんだよォ!」
ギャハハと杉本と半グレ達が笑うと、八雲は涙目になって、二人を巻き込んだ自己嫌悪で表情が歪む。それを見た杉本に、快感が走った。
「いい……、顔だぁ……俺は、その顔がずっと見たかったんだよッ! 絶望と後悔に押し潰されたような、情けねぇ
「おいぃ……誰が、コイツのせい……だって……ぇ、ゴホッゴホ……」
有頂天の杉本を興醒めさせる声を挟んだのは、地面に転がるボロボロのサルジだ。多人数から暴行されて、立ち上がる事も出来ないが、何か物を申したいのか、言葉を振り絞る。
「そもそも、おれも……こいつ、好きじゃねぇしな……勝手に、仲良しに……してんじゃ、ねえよ」
「ああ? 何言ってんだ、インド顔がよォ」
「一方的に……
「おうおう、言ってやれ言ってやれェ! お前さえいなければ、こうはならなかったってなぁ!」
「でも……ボコられたのはお前のせいなんて、これっぽっちも思ってねぇ……!」
言葉での追い討ちを期待した杉本だが、サルジは地べたを這いずりながら、涙と後悔で顔がくしゃくしゃになってる八雲を真っ直ぐに見つめる。
「あの快晴が……なんで、お前に入れ込むのか……納得するまで、おれは仲間としてお前を否定しない……」
「紅……葉、川くん……でも、僕のせいで……標的にぃ……」
「わぁったら、自分を責めるのやめろ……鬱陶しいからよ……」
「おうおう、喋る元気がありすぎんだろォ」
見かねた半グレの一人が、サルジの頭を足で踏みつける。そして持っていた金属バットを振り上げると、無情にもそれを後頭部に向かって振り下ろした。
「あーあー、テメェのせいで友達が死んじゃうなぁッ⁉︎ 一生、後悔する事になっちまうなぁ——ッ!」
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