第58話 レベルアップの威力

 2番線と3番線の線路に挟まれたエリア。つまり第二階層。見た目は第一階層とそれほど変わらない。渡線橋から階段で下っていけば、コンクリート製のホーム。線路には朽ち果てた車両に草木が生い茂り、またまた訳の分からない巨木が聳え立っていたりする。

 見渡せば外の景色が見えるし見上げれば空だって普通に見える。天気だって晴れの日もあれば雨の日もあるし、風向きだって変わる。ただ、僕達が知っているホームの幅や長さとは全然違ってやたら広くて長いし、纏う空気は重苦しい。

 一歩踏み入れればもうここは外の世界とは隔絶した、モンスターが蔓延るダンジョンだと認識せざるを得ない。


「とう!」


 リオンさんの魔槍ロックシューターがオークブレイダーの腹部を貫き、背中まで貫通した穂先から土魔法が発動する。穂先の数センチ先で輝く魔法陣が回転し、円錐型の石の礫が発射された。

 先端が鋭く尖った円錐型の石礫は、後続のオークブレイダーの腹部に命中し、内臓を抉る。


 リオンさんが魔槍ロックシューターを引き抜き、次のターゲットへと狙いを定め水平に槍を薙いだ。穂先が40㎝ほどある刃はオークブレイダー2体の胴体を苦も無く斬り裂き、腹からボトボトと臓物を零れ落ちさせた。


 彼女は動きを止める事なく槍を振り回し、今度は石突から発動させた土魔法が砂嵐を巻き起こす。砂嵐は奴らにとって目つぶしになっているが、緻密な魔法制御の成せる技なのかなんなのか、オークブレイダーの頭部のみを砂嵐が襲っている。


「トウジくん、やっちゃおう!」

「了解!」


 リオンさんが時空間収納からトミーガンを取り出して連射する。

 そしてスキルレベルが6に上がった僕の新兵器はコイツだ。

 XM556。所謂ガトリングガンというヤツだ。バルカン砲と言えば分かりやすい人も多いかも知れない。複数の砲身を回転させながら高速で銃弾を撃ち出すアレ。それを小型軽量化したのがミニガンとかマイクロガンとかいうヤツなんだけど、それでも人間が手に持って運用するには重すぎるとか反動が強すぎるという理由で一般的には使われていない。

 そこでこのXM556なんだけど、5.56㎜弾というアサルトライフルと同等の弾丸を使用し、かなりコンパクトで軽量になっているモデルだ。一説には一分間で4000発撃ち出せるらしいけど、どうなんだろうね?


 これは武器召喚レベルが6になった事でガトリングガンを召喚出来るようになった事で、リオンさんから色々と教えてもらったんだよね。何しろ僕は殆ど銃火器の知識が無いから。


 補足だけど、身体強化もレベル6になった事で、マイクロガンやミニガンと言ったXM556より大型のガトリングガンも扱えるようになっている。ちょっと持て余していた感のあるヘカートⅡだって、いまなら余裕でぶっ放せる。

 もしかしたら、武器召喚っていうのは身体強化のレベルとリンクしたものを呼び出せるスキルなのかも知れない。てか、あんなゴツいガトリングガンを持ってぶっ放すとか、もはやターミ〇―ターだよね。


 僕のXM556とリオンさんのトミーガンで、オークブレイダーの集団はあっさりと殲滅した。残るはオークブレイダーを率いていたオークウィザードだけ。


「じゃあアレは任せます」

「うん、任された」


 全弾撃ち尽くしたトミーガンがリオンさんの手から消失し、彼女は再び魔槍ロックシューターを構える。

 ボスモンスタークラスならともかく、ちょっとした部隊を率いている隊長クラスが相手の場合、取り巻きの雑兵を片付けた上で一対一で倒す。これが僕とリオンさんの間で取り決めた約束だ。コイツをリオンさんが倒したら、次の隊長は僕が倒す。


 ちなみに、ジェリーさんが推奨する攻撃に当たらずに敵を倒すという方針は継続されている。それにはある意味罰ゲーム的な条件が付けられているんだけど、バトルスーツの上に何も着ないで戦うというものだ。


 防具召喚もレベル6に上げて、召喚出来るバトルスーツもグレードアップした。バトルスーツの質感はそのままだが、身体の急所、間接部などに金属製のアーマーが付属しているため、全身タイツ的な状態からは脱却したので、取り敢えず恥ずかしさは8割以上無くなったと言っていいだろう。もちろん防御力もかなりアップしている。

 ただし、お尻やウエストのくびれ、太もものラインなど、女性の色気的なものはまだごちそうさま、と言った感じではある。尚、自分の事は考えない事とする。


 しかしながら、ダメージが許容量を超えるとバトルスーツが消失してしまう仕様はそのままだ。上に何も着ていないため、攻撃を避けないで喰らい続けると羞恥プレー待ったなしの状況になる。なので、かなり必死に攻撃を避け続ける戦闘を強いられているのだ。ちなみに、上に何も着ないでやるのはリオンさん発案だったりする。なぜだ。


「その方が緊張感があっていいわね」


 とはジェリーさんの談だけど、僕にはリオンさんの強かな計算があるように思えてならないんだよなぁ。


 ところで、この第二階層には雑魚モンスターがいない話をしたけど、オークブレイダー。これが結構おいしい。無印のオークがいない代わりにこのブレイダーが雑兵的なポジションで出現してくるんだけど、強い事は強い。剣技に突出して秀でていて、恐らくレベル1やレベル2程度の覚醒者では歯が立たないだろう。

 だけど僕達には程よい感じで手強いんだよね。弱すぎず強すぎず。今はガトリングガンで一掃したけど、昨日なんかはかなり剣を合わせて勉強させてもらった。油断すると一撃もらったりとかね。


「やった! 無傷で倒したよトウジくん!」

「あ、お疲れ様です。槍と魔法のハイブリッド戦法、慣れてきました?」

「うん、かなりね! それよりトウジくん」

「はい?」

「バトルスーツ、無傷で残念だったでしょ?」

「……」


 なるほど、色仕掛けが目的だったのか……

 僕はそれには答えず、ドロップアイテムの回収を続けた。

 オークブレイダーがおいしいのは、このドロップアイテムのせいもあるんだよね。なんとこいつらはランクDの剣をドロップする。これで合成がだいぶ楽になるなあ。悪鬼斬滅の太刀もランクを上げたいし、魔剣ディフェンダーも進化させたい。


「あ! トウジくん! これこれ!」


 そんな時、リオンさんがオークウィザードのドロップアイテム、マジックワンドを持ってきた。ついでに胸を僕の腕に押し付けてきたけどアーマーが当たってるだけなのでただ硬い。てか、彼女のマジックワンドも合成したらより強力になるし、そっちも狙っていこうか。

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