第56話 国家プロジェクト

「……君達は?」


 先頭にいた男性の片方、警察官らしき人が誰何してくる。その表情には油断が無い。


「何て答えればいいんでしょう? ダンジョンでモンスターを狩っている一般人ですけど」


 コミュ障のリオンさんは僕の背中に隠れ、エルフであるが故にあまり表に出したくないジェリーさんも、不自然にならない程度に僕の後ろにいる。特徴的な耳が隠れるよう、頭にタオルを巻きつけてもらっているけどね。美人はそれがまたよく似合っている。

 まあ、そんな訳なので僕が受け答えするしかないんだよね。


「なるほど、覚醒者のパーティですか」

「そんなところです。それで、あなた方は?」


 当たり障りのない会話を交わしながらそんな質問をする。その間にも解析スキルで彼等の戦力は丸裸なんだけどね。


「自分は陸上自衛隊から派遣されてきました。皆本義直みなもとよしなおと言います。階級は三等陸尉です」


 迷彩服を着た男性は自動小銃を肩に掛け、自己紹介をした。自衛官らしく動きも話し方もテキパキとしている。ちなみにこの人、かなり強そうだ。


【皆本義直:生体レベル8、射撃レベル3、身体強化レベル2、剣術レベル1、格闘レベル1】


 これが鑑定で見た彼のビルドだ。生体レベルの高さもさる事ながら、コストの高い射撃スキルを取得し、さらにレベル3まで上げている。僕達みたいな称号を持っていないのにこれだけSPを稼いでいるのは、相当な数のモンスターを倒しているんだろう。それにしても持っているスキルも多いな? こんなにたくさん取得出来るものなのか? それとも称号保持者?

 ……いや、解析で見た限り、称号は無いよな。


「僕は藤原秀弘ふじわらひでひろ。見ての通りお巡りさんだよ。派出所勤務だったんだけどね、モンスターの襲撃の時に撃退したら覚醒しちゃって。おかげでこんな大それたお役目を仰せつかったって訳さ」


 こちらの警察官は随分とフランクな感じだ。彼の方も鑑定を掛けてみる。


【藤原秀弘:生体レベル6、剣術レベル3、身体強化レベル2、射撃レベル1、格闘レベル1、時空間収納レベル1】


 おお、彼も中々のステータスだ。バランスがいいよね。というか、彼も生体レベルの割にはスキルを所持しすぎている感じだ。後ろにいる八人もざっと鑑定を掛けてみたけど、まだ覚醒したばかりの生体レベル1、スキルも戦闘向きのものが一つだけという感じだ。ただし、全員が身体強化を持っている。どういう事だろう? スキルを二つも所持しているなら、生体レベルが2に上がっていてもおかしくないんだけどなあ。

 ともあれ、この自衛官と警察官が初心者を引き連れてのパワーレベリングというのが妥当なところだろうか。


「実は、僕はある避難所の用心棒というか、治安や風紀の監視役みたいな事をしていたんだ。そこに妻や子供もいたしね。でもそこで高校生の四人組に相談を受けたんだ」


 お巡りさん――藤原さんの話によれば、ダンジョン内には食料を生み出す木や、その他にも何かしら素材になるものがある可能性があるっていう情報を聞き、所轄署や市のトップに顔を繋いでもらえないか頼まれたそうだ。


「まだ高校生の子供達が危険なダンジョンに踏み込んで情報を持ち帰り、尚且つ組織的に動いて事態を打開するべきだ。そう言うんだよ。地域の平和を守るお巡りさんとしては、聞き流す訳にはいかないだろう?」


 そうか。メガネ君達、頑張ったんだな。

 あの時彼等を助けて本当に良かったと思える。そして力を正しい方向に使っているのも何だか誇らしい。それだけでも、僕のした事はこのエリアの住人達の役に立ったような気がしてくる。


 しかし、話はそれだけではなかった。


「そして僕が所轄署にいる上司に話を持って行ったら、丁度いいからお前も来いって会議室に連れ込まれたんだよ。そこには市長やら署長、それに県警本部から来たお偉方に、皆本三尉もいたんだ」


 そう言えば皆本さんは『派遣されて来た』って言ってたな。どういう事なんだ?


「皆さんは、ずっとこのダンジョンにいたんですか?」


 その皆本さんがそう聞いてくる。


「ええ、ここ数日はずっとこの中でレベリングに励んでいました」


 別にそれは隠すような事でもないので正直話す。それを聞いた彼は納得したように頷きながら言う。


「なるほど、それでは外部の情報が入らないこの中にいたのでは知らなくても仕方ありませんね。つい二日前、総理や野党党首ら国のトップが集まり、覚醒者育成プロジェクトを発足させたんです。自分が派遣されて来たのもそのプロジェクトの一環です」

「僕がこの任務に就いたのは、その場にいて情報を上げたからかな。まあアレだよ。丁度いいからお前がやれ、みたいなさ」


 これは驚いた。メガネ君達の目指していた事が国のやる事と合致していて、それが国家プロジェクトとして既に動き出していたって事か。


「それで、高校生の彼等を助けたのって、君じゃないのかい? 小早川冬至君」

「――!! 彼等が言ったんですか?」


 こちらが名乗ってないのに素性がバレてる。僕は警戒度を一気に引き上げた。それを察したか、藤原さんが手を振って僕を諫める。


「ああ、違う違う。これは警察の情報収集力の賜物ってやつさ。力を持たない内気な少年がある日突然覚醒して戻ってきた。持っている装備がある日突然グレードアップしていた。その事から、何者かの手助けがあった事も窺い知れる。あとは覚醒に関する情報をSNSにリークした捨てアカウントの存在。それも君の仕業だろう?」


 くっ。丸裸にされていたのは相手だけじゃなかったって事か。

 僕は両手を上げて首を振った。だけど答えは……


「黙秘します」

「あっはっはっは! 別にこれは犯罪捜査じゃないんだ。この事で君をどうこうするなんて事はないよ。ただ、我々に協力してもらう事は出来ないか?」


 今まで少々砕けた感じで接してくれていた藤原さんの表情が、一転して真面目なものになった。

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