第53話 丸投げ
「あっ! トウジさん!」
「こんにちはです」
「……チッ」
「(ぺこり)」
こちらに近付いていた四人はメガネ君、おさげちゃん、金髪君にイネちゃんの高校生チームだった。
メガネ君とおさげちゃんはさすがに慣れた感じだけど、金髪君は相変わらず態度が悪いしイネちゃんはまだそこまで打ち解けていないね。
「やあ。どうしたのかな? こんな
「「「「!!」」」」
そんな僕の言葉に四人とも息を飲んだ。
「やっぱり……駅の内部はダンジョンになっていたんですね」
「駅に入った途端に空気が違うし、見た目も随分様変わりしていたので変だと思ってましたけど……」
「ケッ、その割にゃあ殆どモンスターに出くわさなかったけどな!」
「でも、たまに現れたモンスターは、外にいるのより強かった気がしたわ」
次いで、それぞれが感じた違和感を口にする。一部気になる発言もあったけど、それはこれからお互いに情報を交換する事で擦り合わせていこうか。
「リオンさーん? そろそろ隠れてないで出てきてくださいね? これ、会議ですから」
「ううう……」
渋々といった感じでリオンさんがテントから出てきた。出て来たのはいいんだけど、なぜ僕の後ろに隠れるように座る。そんな彼女を見て、四人の高校生が苦笑いしているじゃないか。
***
彼等と情報交換して分かった事は、僕達がこの中で激戦を繰り広げている間、外では殆どモンスターが現れなくなっていたという事。まだ仮説の域は出ないけど、ダンジョンに何者かが侵入した場合、それを排除する為にポップしたモンスターは外に出ずに集中してくるのではないかという意見が出た。一定の説得力はあると思う。
それでメガネ君達は、あまりにモンスターの姿が少ないので、出現元と考えられている駅の内部調査に来たという訳だ。
そして僕達の戦闘の様子を聞いた金髪君が絶句していた。
「マジかよ……そんなバケモンみたいなヤツがいんのかよ」
「個体の強さもそうだけど、数が脅威ね」
金髪君もイネちゃんも難しい顔だ。
確かに、あのオークの群れと戦った日から僅か数日で、彼等のレベルもそんなに上がっていないだろうし、そんな彼等が戦っても勝ち目はないだろうね。
しかし外にモンスターが少ないのは、それはそれで困った状況だ。
少ないなりにもダンジョンから漏れ出したモンスターはいるだろうし、完全に安全が確保された訳でもないので通常の生活に戻るのも難しいだろう。現に、モンスターに襲われて命を落とす人間は今も後を絶たないらしい。
そうであれば、やはり自衛のためにも覚醒してレベルを上げるというのは重要な事なんだけど、肝心の覚醒する為のモンスターが少ない。
「あと、まだライフラインは生きてますけど、物流が止まっているので食料とか、いろいろ大変になってきてます」
「食料については手段が無くもないんだけど……」
メガネ君の話に答えながら、僕はパンの木を見上げた。
「一定以上の戦闘力、時空間収納スキル、それから鑑定スキル、索敵スキル。これが必須になるんだけどね」
それからパンの木についての説明をした。さらにジェリーさんから補足説明があり、パンの木以外にもダンジョン内には食用となるものが色々とあるらしい。
四人はジェリーさんがエルフである事にびっくりしていたけど、それは他言無用に願った。無駄な騒ぎにはしたくないからね。
「でも、難しいわ。高校生のあたし達がいくら声を上げても、耳を傾けてくれる大人って少ないもの」
イネちゃんが悔し気に言う。その言葉から、避難所での彼等が苦戦している様子がうかがえる。
ダンジョン内を調査するというのに、高校生がたったの四人で、というのもどれだけ大人たちが消極的なのかって話だよね。
「う~ん……ね、今市長さんってどこにいるか分かる?」
「あ、それなら警察署で対策本部を立ち上げてるって聞きました」
おさげちゃんが答えてくれた。でも市役所じゃなくて警察署?
「正確に言うと、対策本部を立ち上げるための相談を安全にしたいとか?」
ああ、そうか。警察官なら覚醒してる人もいるだろうし、そういう護衛のいる場所で話し合うのがいいんだろうね。それに自治体の長と治安維持の組織が一つになって動くのは悪い事じゃないし。それに、それが一緒にいるなら手間も省けるか。
「ね、リオンさん。警察署長さんや市長さんが情報を目にするにはどうしたらいいんでしょうね?」
「あ、うん。市や警察のHPが生きてれば、いずれは目に入るんじゃないかな。ただ、ダンジョン内は……ダメね。電波が入らない」
リオンさんが時空間収納からスマホを取り出して色々と弄っていたけど、一旦外に出ないとダメみたいだ。
どうしたモンかな。例のアントクイーンを討伐するまで僕達はダンジョンを出ない方がいいだろうし……
「それなら俺らが外に戻ってやってやンよ」
「アンタはそうやって手柄を横取りしようとしているんでしょう?」
「なっ! ちげえし!?」
「ダンジョン内の情報はこのお兄さんたちが入手したものだし、外で動くのはあたし達でもいいとしても、感謝されるべき人がしっかり感謝されるべきだわ」
いや、イネちゃん。別に金髪君が手柄を横取りするのは全然かまわないし、むしろ願ったりなんだよね。僕達は目立ちたくないし、ジェリーさんは異世界エルフって事で微妙な立場だ。モンスターが出現するようになった原因を彼女に押し付けようとする人間が出て来る可能性も捨てきれない。何より、コミュ障のリオンさんが注目を浴びる立場になったらとても心配だし。
「いや、僕達の事は伏せておいて欲しい。SNSの捨て垢でダンジョンの情報を公開したいけど電波が届かないんじゃね……」
「どうして? お兄さんたちも一旦外に出ればいいじゃない」
イネちゃん、割と強情というか、曲がった事が嫌いなんだろうね。でも、次に僕が言う言葉を聞いたら折れてくれるだろう。
「僕達はこのあと渡線橋を渡って2番線ホームに行かなくちゃならない。外に出すとヤバいモンスターがいるはずなんだ。多分僕達以外に抑えられる人はいない」
「……分かったわ。でも1番線でも相当無茶をしたみたいだし、死なないでよ?」
「分かってるよ。僕達のモットーは『いのちだいじに』なんだ」
このあと僕達は市長や警察署長に伝える内容を詳細に詰め、外の世界に戻る四人を見送った。餞別に、メガネ君とおさげちゃんにはランクDの長剣を。金髪君とイネちゃんには護身用にワルサーP38を一挺ずつ。ワルサーは消耗品だけど、うまく使って欲しいものだね。
さて、これで問題は四人に丸投げの恰好だ。少し後ろめたい気もするけど僕らも地域の平和に貢献しているって事で、勘弁してもらおう。
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