第50話 ゴブリンキング
挨拶代わりに一発ぶっ放す。
凄い反動で銃身が跳ねあがる。狙った場所からかなり上に逸れた。これじゃダメだ。そして同時に、ゴブリンキングはこの武器がワルサーと同種のものだと理解したらしい。銃口から逃れるように素早く動き、槍の間合いに入ろうとしてくる。
それを魔剣ディフェンダーで牽制しながらヘカートⅡを構え、狙いを定めようとするがヤツの動きが巧みで上手くいかない。
魔剣ディフェンダーを槍で弾き飛ばし、ヤツが迫る。しかしそこへ炎弾が二発飛んで来た。ゴブリンキングはそれを躱して後ろに下がる。火弾と違って手で振り払うような真似をしないのは、炎弾の威力を嫌ったからか。直撃すればダメージが通るかも知れないな。
「トウジくん!」
右に左にとちょこまか動きながら僕との間合いを詰めようとするゴブリンキングの左右と後ろを、リオンさんが発動させた炎の壁が包み込む。瞬時に三つも出現させるとは、いくらマジックワンドを使っているとは凄い。これもジェリーさんの薫陶の賜物か。
とにもかくにも、これでゴブリンキングの動きはかなり制限される。僕はへカートⅡを構えた。ヤツの左右は塞がれ、後ろにも下がれない。許された進路は正面だけだ。これなら僕でも当てられる。そう思いながらトリガーに指を掛ける。
「――なっ!?」
しかし一瞬の後、視界からゴブリンキングが消えた。
「トウジくん! 上!」
リオンさんの叫び声に反応して見上げれば、ゴブリンキングが槍を振りかぶり、自重と落下速度を上乗せした強力な一撃を叩き付けようとしていた。
――ガギィィン!
鈍い金属音が響く。僕の頭上で二本の魔剣ディフェンダーが交差してゴブリンキングが叩き付けて来た槍を防いでいた。しかしゴブリンキングはその反動を利用し僕の背後に着地。そのまま身体を捻り槍の柄で僕を薙ぎ払おうとする。魔剣ディフェンダーはその攻撃にも反応。やはり二本が重なるようにしてゴブリンキングの槍を防ぐ。
ゴブリンキングの口端が吊り上がった。ヤツは止められた槍を身体ごと回転させる事で、魔剣ディフェンダーを強引に撥ね飛ばした。そしてそのまま回し蹴りを繰り出して来る。僕は咄嗟に持っていたヘカートⅡを盾にしたが……
「グボァッ!?」
なんとヤツの蹴りはヘカートⅡの銃身を折り曲げ、僕の脇腹を直撃した。僕の身体は吹き飛ばされ、ボールのように数回バウンドしてから漸く止まる。
痛い。肋骨が折れているどころの騒ぎじゃないなコレ……
「ゴボァ……」
吐血だ。内蔵もやられたらしい。ち、治癒魔法を――
「トウジくん!? 生きてる!? トウジくんはやらせない!」
泣きそうな顔で僕を気に掛けるリオンさんにどうにか頷くと、彼女はゴブリンキングに炎弾の連撃を放った。ゴブリンキングも流石にそれは嫌がり、僕にトドメを刺そうとしていたのを諦め、後退していく。その隙に自分に治癒魔法を掛けた。しかしそこでMPは空っぽになった。
――どうする?
いや、悩む必要なんかない。ここまで押し込まれてもジェリーさんが動かないという事は、まだ本当のピンチではないんだろう。だったら出し惜しみなしだ。
アンプルのような小瓶の首のあたりをへし折り、中身を飲み干す。メロンソーダのような色をしているが無味無臭だ。
……これがエルフの秘薬か。ステータスを見たら、MPが全快していた。ジェリーさんが魔力を一割回復すると言っていたのは、恐らく一律で2000ポイントも回復するっていう事だったんだろうな。MPが800かそこらの僕が飲むには勿体なかったが仕方ない。
僕はライトアーマーを召喚した。あれだけ動きの速い敵をヘカートⅡで狙撃するのは難しい。それなら安定した銃座からM2を連射して仕留めてやる。
ライトアーマーの運転席に乗り込み、車をバックさせて距離を取る。素早い動きにも対応出来るように視野を広くするためだ。
「リオンさん! 牽制しながら下がって下さい!」
「了解!」
僕は銃座に移動して、M2をゴブリンキングに向ける。下がるリオンさんとそれを追うゴブリンキングが、こちらの射線に重なる。
リオンさんと視線が交錯する。今度は彼女の口端が吊り上がった。きっと僕の口も弧を描いていただろう。その瞬間、リオンさんが横っ飛び。僕の視界の正面に、ニヤけた顔で追って来るゴブリンキングが露出した。
「穴だらけにしてやる」
僕はM2の銃身が赤熱化するのも構わず、銃弾が切れるまで撃ち続けた。
ゴブリンキングの身体が千切れ飛んでいく。腕が。脚が。頭が。スケイルメイルもまるで役に立たず、ヤツの屈強な肉体が予告通り穴だらけになっていった。
M2は弾丸を撃ち尽くし消滅、僕はライトアーマーから降りてヘカートⅡを新たに召喚し、ニーリングの体勢で油断なく銃口をゴブリンキングに向ける。リオンさんもまた、マジックワンドを構えていつでも魔法を放てる体勢だ。
モンスターは死ねばドロップアイテムを残して死体は消える。まだ死体があるという事は、ヤツの命もまだ消えていないという事だ。近付いて生死の確認なんて愚は犯さない。ピクリとでも動いたら即発砲だ。
全身にM2の銃弾を浴びて倒れていたヤツの上体が起き上がる。そして所々飛び散って歪な形になった頭部がこちらを睨ん――でいるように見えた。
――ダーーン!
僕は躊躇わずにトリガーを引いた。
そしてヤツの身体は煙のように消え去った。
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