第48話 決戦!

 ボウリングのボール大の石がいきなり飛んでくる。

 敵の数が減り、ゴブリンキングの姿が明らかになった事でようやく分かった。これは投石機や文字通りの投石じゃない。ゴブリンキングの土魔法だ。しかも魔剣ディフェンダーで無効化出来なかった事から、少なくともレベル5以上の魔法である事が分かる。


 残る敵はゴブリンナイトが5匹。そしてゴブリンキングを残すのみ。僕とリオンさんにナイトが2匹ずつ襲い掛かって来た。そして残りの1匹が後ろのジェリーさんに向かって走る。


「こっちは気にしなくていい」


 後ろからそう告げたジェリーさんが無音の矢を放つと、僕とリオンさんの間を駆け抜けようとしたゴブリンナイトの眉間に光の矢が突き刺さった。

 ジェリーさんならゴブリンキングの土魔法を抑えてくれるかも知れないな。僕は目の前のゴブリンナイトへ集中しよう。


 斬り掛かってきた1匹の剣をディフェンダーが受ける。それだけでゴブリンナイトの剣は砕けてしまった。僕はもう一本のディフェンダーに指示を出し、もう1匹のゴブリンナイトの喉笛目掛けて飛翔させる。

 そのゴブリンナイトは自らの盾でそれを受けたが、その盾はディフェンダーによって破壊されてしまう。流石の性能だな、魔剣ディフェンダー。


 僕は二本の魔剣ディフェンダーで2体のゴブリンナイトを相手にする。複雑な制御はまだ出来ないけど、それぞれに剣の切っ先を向けて飛ばす事くらいは出来る。どの道もう一度ずつディフェンダーを飛ばせば奴ら丸腰になるだろう。


 その間に僕はリオンさんの助太刀だ。彼女は両手持ちのハルバードだ。ゴブリンナイトを相手に魔法を使うつもりは無いって事だね。


「リオンさん、1匹貰いますよ!」

「いやん、トウジくんしゅき!」


 1匹と切り結んでいたリオンさんの背後から斬り掛かろうとするゴブリンナイトに迫り、横っ腹を斬り裂く。それだけでゴブリンナイトはあっけなく崩れ落ちた。ゴブリンナイトの金属鎧を物ともしない切れ味ってどうなんだとも思うけど、それでいて刃毀れ一つしていないんだから、この悪鬼斬滅の太刀もファンタジーだ。

 恐らくこのシステムはレアリティとかランクとかスキルレベルとか、そういうものが僕らの想像以上に重要視されているんだろうね。


 僕がゴブリンナイトを倒した時点で、意識がこちらに集中しすぎたのか、二本の魔剣ディフェンダーが僕の下へ戻って来た。

 うーむ。やっぱり制御が難しい。というか無理。ニュータイ〇やら強化人〇やらコーディネータ〇やら、オールレンジ攻撃を普通にやっている人間がいかに物語の中の存在なのか、イヤという程分かるね。


 一対一の状態になると、途端にリオンさんが押し始めた。さすがにナイトクラスの上位種になると圧倒的という訳にはいかないけど、槍術レベル4、身体強化レベル5もあればそれなりに立ち回る事が出来る事が証明された。いつかメガネ君やおさげちゃんに会ったら、駅に入るならスキルレベルを5以上にしてからにしなさいと伝えてあげよう。


 僕はさっき武器破壊した2匹のゴブリンナイトに魔剣ディフェンダーを飛ばす。ある程度という前置きは付くけど、自分の意思で遠隔操作出来る攻撃手段というのはやっていてすごく便利だ。今も逃げ惑うゴブリンナイトを魔剣ディフェンダーに追いかけさせ、ほぼ同時に貫いた。

 同時に、ジェリーさんが覚醒の為にオークを3体同時に仕留めた時の事を思い出す。彼女は光の矢を3本同時に遠隔操作し、死角にいるオークを倒した。それが如何に難しい事か、ここに来て僕も漸く理解する。


「ここからが本番。二人で倒してみて」


 後ろにいたジェリーさんから声が掛かる。

 ゴブリンナイトを倒し終えると、奥にいた存在から猛烈なプレッシャーが掛けられるのを感じて、否応にもそちらに視線を向けざるを得ない。


「あれが、ゴブリンキング……」

「流石、王様って感じね……」


 背丈は僕と同じくらいだから普通のゴブリンと比べたらかなり大柄だ。しかし見るからに筋骨隆々、皮膚を突き破りそうなほど盛り上がった二の腕の筋肉は、僕の太もも程の太さがある。

 上半身は肩を露出したベストのような形状で、何かの鱗を加工して作ったようなスケイルメイル。同じ素材で手首から肘までをカバーしている。肩にはトゲ付きのショルダーアーマー。

 下半身は金属札を繋ぎ合わせて腰の周囲を守る、ミニスカートのような感じだ。

 もうめんどくさいから一言で言うと、ボディビルダーがザ〇とかグ〇のコスプレ衣装を着たイメージに近い。残念なのは頭に王冠を被っている事かな。確かに王様っぽいんだけどアレのおかげでコスプレ臭がすごい。


 だけど醸し出す圧は本物だ。今まで出会ったどのモンスターも、ヤツに比べたら赤ん坊同然。手にした3m程の槍をクルクルと器用に扱い、ビシッと穂先をこちらに向けて構えるその姿は、気を抜けば圧倒されそうな存在感だ。


「グガアアアアアアア!」


 ゴブリンキングが咆哮を上げた。それだけで空気が震え、木々が騒めき木の葉が舞い落ちる。ビリビリと震える空気に抗うように歯を食いしばり、気を確かに保つ。

 その直後、ゴブリンキングが一気に間合いを詰めて来た。僕とリオンさんは油断なく構える。しかしあと一歩でヤツの槍の間合いに入ろうかという所で、ヤツの姿が消える。


「トウジ! リオン! 上!」


 後ろのジェリーさんからの声で咄嗟に見上げると、槍を振り上げた状態のゴブリンキングの姿が目に入る。なんて跳躍力だ!

 しかも、三つ、四つ、五つ……先程から悩まされていたボウリング大の石の礫が上空に出現した。それらに紛れてゴブリンキングが降って来る。どうやら僕をターゲットにしたようだ。一度に空から襲いかかって来るそれに、避けるので精一杯。しかも避ける場所を予め予測していたかのような偏差撃ち。

 相当戦い慣れてるな、こいつ。

 五つの石礫のうち、どうしても躱しきれないものに魔剣ディフェンダーが反応して防御する。しかし、ヤツの狙いは僕ではなかった。


「きゃあ!」


 槍で叩き付けられたリオンさんが自分の短槍でそれを受けるが、その圧に屈して膝を着いたところへ着地したゴブリンキングの足蹴りが襲う。そして地面が爆ぜる程のパワーを以て、ゴブリンキングが吹き飛んだリオンさんを追った。

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